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新規事業開発に0→1より仕組みのデザインが必要な理由

新規事業の基本は「多産多死」。
たくさんの新規事業の「タネ」を量産し、「不確実性に備えよ」。
新規事業は、「スタートアップ」のように「素早くテスト」せよ。

このように、企業の新規事業開発では「小さく産んで、大きく育てる」いわゆる、ゼロワン(0→1)が長らく正解だと信じられてきました。

新規事業開発やサービス開発・デザインの分野に携わったことがあればきっとリーンの考え方(素早くプロトタイプを製作しながら検証して進める方法)に一度は触れたことがあるのではないでしょうか。

イギリスのFinancial Timesで、日本のスタートアップは「ユニコーン」ならぬ「プニコーン」だという何ともイギリスらしい皮肉のある記事が読まれていると友人から連絡がありました。

確かに、日本のスタートアップは規模が小さいと言われて久しいですが、ましてや、大企業から0→1での新規事業開発でも例外ではありません。

売上数千億円、数兆円あるような大企業から、まるでスタートアップのように0→1で新規事業のタネを創って大きくしていくことで果たして意味のある新規事業になるのでしょうか。

ハーバード・ビジネス・レビューでもやや主旨は異なるものの、大企業の新規事業における0→1の限界について言及しています。

実際、大企業における新規事業のシーンに長く携わっている方であればそのトレンドの移り変わりを肌で感じているのではないかと思います。

私自身、北欧フィンランドでイノベーションやデザイン経営について学び、7年近く新規事業開発の領域に携わっています。そのなかで、様々な新規事業戦略を経験、見聞きしてきました。

例えば、

  • 0→1で社内起業家のような人材が多くの事業のタネを作る

  • 連続起業家などの成功体験を持つ人材を社内に引き入れ、事業開発に従事させる

  • 研究開発された技術を起点にして、事業性の検証や社会実装をする

  • 主眼に置く市場で活躍するスタートアップへの投資と協業による事業創造

  • M&Aなどを活用したロールアップ戦略

などなど。

両利きの経営として新規事業に取り組む企業が増えているなかで、0→1のアプローチはあくまでその一つに過ぎず、社内スタートアップではない、大企業にしかできない戦略が求められています。

なお、ここでは0→1を「スタートアップではなく、既存企業内での新規事業開発において、既存の事業資産や研究技術を活用するのではなく、プロダクトやビジネスの企画立案から市場投入までを、ゼロから構築する取り組み。」とすることとします。

新規事業に疲弊する優秀な社員

この記事を書こうと思った理由でもあるのが、大企業において新規事業開発に携わっている人がどうも疲れている様子だということです。

私の友人や以前一緒に働いていた同僚など、本当に多くの人が「新規事業疲れ」を起こしていると思います。ひどい時は、会社に行けなくなったり。

創造的、イノベーティブといった華やかなイメージのある新規事業ですが、実際に携わって責任を持ってみると、本当に大変です。

その理由は構造的な課題がいっぱい潜んでおり、

  • 評価体系が既存の事業部に合わせていて失敗が許容されにくい

  • 一人で一個の新規事業を立ち上げる、といった無理のある組織体制

  • 責任をとりたくないマネジメント層が、なかなか投資を判断しない

  • →ゆえに、ずっと続く検証(0→1だけをグルグル回す)

  • せっかく軌道に乗ってきたと思ったら、社内異動がある

などなど。挙げればキリがないのですが、どうも「大企業」x「0→1」は限界があるのではないか?と思ったのが発端です。その原因に思いを巡らせると、新規事業に携わる人間が悪いのではなくて、そもそもの構造的というか、戦略的に問題があるのでは?という疑問がきっかけでした。

Photographer:
Heiko Müller

デカすぎる新規事業への期待?

「10年後の柱となる事業を作れ!!」
「最低でも100億円の事業規模になるようなビジネスが必要だ。」
「君たちの肩には何千人もの従業員が乗ってるんだ。」

こうした新規事業疲れを引き起こす1つの原因として、どこの大企業でも新規事業に求められる期待感・規模感は非常に大きいものがあります。

本業の事業群によって安定して数千億円から数兆円の売上を上げるような大企業が新規事業に取り組む意味としては、スタートアップ創業者がM&Aによって充分なリターンが得られる10億, 100億円規模でも影響は限定的です。

ましてや、日本のトップクラスの大企業となると10兆円の売上に対して、利益が1兆円という規模感にもなってきます。

ということで、おしなべて、大企業の新規事業部門の意思決定を担うような役員の方もしくは部長の方に求められる成果としては、最初に上げたような、途方もないデカい規模の期待をかされることになってしまいます。

Photographer:
Tuomas Uusheimo

では、足元に目を向けてみると、0から1に心血を注いで、人生かけて取り組んでいるスタートアップを想像してみても、スタートアップの9割が失敗に終わると言われています。

最初の1年こそ約10%程度の失敗ですが、15年経つと生存しているのは約75%に過ぎません。おおよそ8~9割のスタートアップが失敗に終わり、成功(この場合、M&AやIPOなど)するのは1-2割といった程度です。

Sources: Embroker, Review 42, US Bureau of Labor Statistics, Small Business Trends, SSRN

仮に大企業の優秀な社員が新規事業に取り組んだとしても、初めて0→1に取り組むとすれば、ここにあるデータと同等、もしくは、人生をかけているスタートアップよりも期待値は低いかもしれません。

ということで、いわゆるリーンの考え方に沿って、社員が数多くの01案件を創出しても、成功確率が低い上に、小さな事業となりがちです。

なので、0→1でクルクルと馬車車のように頑張っても、企業として意味のある規模の事業に育てるのは厳しいものがあります。

新規事業の多様な成功モデル

では、一体どうやって、10000ぐらい大きい大企業から、0→1の新規事業を脱却して、本当に意味のある規模感、効率で事業開発に取り組むことができるのでしょうか。

歴史的にも日本は、イノベーションの国として世界的には認知されており、多くの成功事例がありますし、今でも新しい成功モデルが生み出されています。

ただ、いずれの場合にしても、大企業における新規事業の取り組み方には、0→1は複数あるうちの1つに過ぎず、各社が「自社の強みやアセット」を活かしながら、取り組んでいます。

Photographer:
Svante Gullichsen

研究開発と社会実装

日本のメーカーが歴史から強みとしてきているのが研究開発です。
もちろん、研究開発機能を持たない商社や金融のような形態もありますが、多くの製造業では、R&D機能を持っています。

例えば、デンカの新規事業開発は、カーボンニュートラルコンクリート「CUCO」や、次世代電池向けの熱障壁シート「ProfyGuard」のような革新的製品開発に焦点を当てています。これらの技術開発は、脱炭素社会への貢献や新しい市場の開拓を目指しており、デンカの幅広い技術基盤を活用しています。

技術の別業界への転用

研究開発された技術を1つの市場だけではなく、シナジーの深い市場へと、そのユースケースを広げる戦略も有効です。

富士フィルムは、写真の業界だけでなく、医療におけるイメージングセンサーといったヘルスケア業界での市場を拡大しています。

出典:BizLine

ヘルスケアセグメントは、歴史的にも売上的にも富士フイルムの中核を担っているそうですが、写真と技術領域が近い「診断」を中心としながら、前後の「予防」や「治療」までカバーできるような医療バリューチェーン形成を目指して、市場を拡大しています(出典)。

スタートアップとのオープンイノベーション

オープンイノベーションも長らく言われているアプローチではありますが、大企業が進出したいと考えている市場やソリューション領域で先行しているスタートアップとの協業であったり、M&Aを活用した新規事業も1つです。

例えば、Layer X社のデジタル技術という強みと、伝統的な証券というドメインの強みを掛け算してできたアセマネ事業を行う「三井物産デジタル・アセットマネジメント」という事例があります。

これは、三井物産とLayerX、SMBC日興証券、三井住友信託銀行らが出資して2020年につくったジョイントベンチャーで、さらに、2023年にLayer Xは三井物産から55億円の調達をしています(出典)。

こうした強みを掛け算すると言うことと、資金的なリソースをフルに活用する事例は今後も増えていくのではないでしょうか。

新しい戦略:スイングバイIPO

最近やはり注目されているアプローチとしては、スイングバイIPOがあります。大手企業によるM&A(過半数以上の株式譲渡又は出資)を受け入れたうえで、新規株式公開(IPO)を目指すスタートアップが増えています。

例えば、最近、yutoriという古着のプラットフォームや複数のファッションD2Cブランドを運営などを手掛けている会社で、ZOZOとのスイングバイIPOにより上場したことが注目されています。

エンジニアを多数抱え、日本最大級のファッションECサイトを生み出したZOZOの強みに、オリジナルな商品企画やマーケティングに磨きをかけたyutoriの強みを統合することで、飛躍的な成長を実現しています。

自社に合った新規事業の全体の戦略デザイン

スタートアップとの強みを掛け算する。
大企業の研究技術、顧客チャネル、資金力を投資する。

こうした必ずしも0→1に捉われずに、投資や協業を絡めた新規事業開発が熱いと思います。

その証拠に、日本における「CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)」が急激に増えています。

日本ベンチャーキャピタル協会(JVCA)の最新レポートや、FIRST CVCの「Japan CVC Survey 2022」、およびSTARTUP DBの調査報告などを基にしています。これらの調査からも、国内のCVC設立や投資件数が大きく伸びていることが確認されています。

大企業におけるCVC設立の目的としては、いわゆる「シナジー投資」が中心で、自社のリソースだけでは入り込むことができていなかった市場に入るための契機を作ったり、スタートアップとの協業により、新しい事業をつくるといった、まさに「新規事業開発が目的の投資」と言えます。

Investing Circularity Sustainability event Photographer: © Andrew Taylor

0→1で疲弊するのではなく、100→200で意味のある新規事業を

最初に書いた通り、新規事業の仕事は本当に大変です。
オペレーションが決まっていなくて、自分の頭で考えて、動いて、それでも結果が出ないことが大半です。元いた部署での評価が受けられずにモヤモヤした気持ちにもなったり。

だからこそ、大企業でやる意味のある規模の事業が作れる戦略と仕組みで、新規事業開発に取り組むことが何より重要です。

1人で残業100時間を1年、2年と積み上げたところで、100年以上の歴史を持ち、数千人以上が働いている大企業では、為しての礫です。

逆に言えば、スタートアップが500万円、3000万円の資金調達をするのに人生を賭けて頑張っているところを、数十億円規模の投資ができたり、他の大企業の営業アカウントを数百件持っている強みを活かさない手はありません。

本当の丸腰で0→1に大企業から取り組む時代は終わって、R&Dと投資、そして、スタートアップとの協業を含めた多様な戦略のなかで、自社に最適な戦略を複数持つことで、現場で頑張り、疲弊するのではなく、新規事業開発に携わる社員が輝く素敵な未来になりそうな予感がします。

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今回書いた新規事業へのアプローチ以外にもまだまだたくさんの戦略があると思います。新規事業=未来への投資であり、時代の流れを反映してそのやり方も素早く検証、軌道修正が求められていることは間違いありません。

新規事業の戦略やプログラム、組織づくりにお悩みの方は、ぜひ気軽に意見交換させてください。ご連絡お待ちしております。

最後まで読んでいただきありがとうございました!

写真:ヘルシンキの遊園地「linnanmäki」にて

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