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新規事業の「本当に売れるの?」を検証するプロトタイプと失敗例

新規事業に不確実性はつきものですが、なんといっても1番は新しい商品やサービスが「本当に売れるのかどうか」ではないでしょうか。

新規事業やイノベーションと聞くと、最初に思い浮かべるのはアイディアや企画、サービス設計などのクリエイティブな活動だと思います。

一方で、よいアイディアを思いついた次の段階では、実行に向けて決済者の了解をとりつけて、協力者を増やしたり、お金をつかって開発をするなどの意思決定が必要となります。

たとえ、個人事業であれ、投資家のいるスタートアップであれ、社内の投資を得る大企業の新規事業であれ、実行フェーズに進み、事業化するためには「本当に売れるのか?」という不確実性の壁を超えていく必要があります。

以前ご紹介した「実験」という考え方も不確実性を乗り越える手法の1つです。例えば、Zappos(靴・アパレルのネット販売)やdropboxの事例をとりあげ、ウェブサイトと価値を再現するオペレーションで投資する前に売れる確証を得る事例をご紹介しました。

事例を聞くと、案外、簡単そうに検証しているので、えいや!と実験を設計しがちですが、設計を誤ったため、検証目的が達成されなかったり、充分なデータが得られないことがよくあります(私自身、失敗続きでした)。

この記事では、本当に売れるのか?を検証するためのプロトタイプの設計と検証する際の失敗例について、経験をベースに書こうと思います。 

前提となる理論や考え方として、次の2冊を参照しています。

顧客が「素」の反応をする購買体験を再現する

初めに、「顧客はこんなふうに買いそうだ」という購買シナリオをつくり、それにもとづいたプロトタイプを作成していきます。

プロトタイプと聞くと、最初に思い浮かべるのは製品やサービスに近いものをつくり、その製品にお金を払うのかヒアリングするといった内容を想像しやすいですが、本当に売れるのか?にたいする確証を得るためには、実際に購入する体験そのものをできるだけ再現する必要があります。

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同じサービスであったとしても様々な購買体験があります。
例えば:
・店舗を営業で回ってパンフレットを見てもらいその場で契約
・ウェブ広告を見た顧客がランディング・ページをみて登録
・展示会に来たお客さんが興味をもってその場で契約

といった具合にできるだけ本番に近い状況を再現することで、売り方と一緒に検証することでリアルに近いデータを収集することができます。

というのも、顧客が意思決定をする理由は、単に製品やサービスが良いからといったプロダクト価値だけではなく、その時の状況であったり、裏にあるストーリーなど、多面的に価値を認知したうえで行われるためです。

例えば、今でこそ日常的に利用されているUber(タクシー配送アプリ)ですが、最初の実験は、スポーツスタジアムで観客が集まりタクシーが捕まらないほど、混雑した状況で売れるかのテストでした。混雑してタクシーが品薄になっているという切実なコンテキスト(文脈)に対して、売れるかどうかを検証したそうです。

あるいは、同じ商品でもその裏にあるストーリーに共感するかどうかで販売できるかどうかが左右されるケースもあります。例えば、同じシャンプーでも、海外に移住したインフルエンサーが髪のきしみが気になりどうしても治らないときに、このシャンプーに出会い、とても重宝しているとinstagramで紹介されると、とても買いたくなるといったケースです。

価値を認知してもらう3種類のプロトタイプ

このように顧客は単にファンクション(機能)のみにお金を支払うわけではなく、ストーリーや文脈をあわせた全体の体験に価値にお金を支払います。

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ユーザーが感じる3つの価値とその順序(出典:イノベーションの作法)

そのため、それぞれの価値を認知してもらう3つのプロトタイプを用意する必要があると考えられます。

・FUNCTION(機能):家電製品を思い浮かべたときの機能
・AESTHETIC(外観/UI):見え目や使用性
・CONTEXT(文脈/ストーリー):雑誌やCMなどの共感づくり

これら3つのプロトタイプうち、「顧客はこんな風に買う」という購買シナリオにもとづき、必要なプロトタイプの種類を決めていきます。ただし、1つだけ用意すれば間に合うケースは少なく、2つあるいは3つを組み合わせることにより、購買シナリオを再現することが必要になると思います。

例えば、ブルートゥースイヤホンであれば、音質やノイズキャンセリングなどの機能と、アプリや見た目、生まれた背景などを説明したパンフレット等の3つの要素を含んでいると思います。

ポイントは、3つの価値を1つのプロトタイプで再現しないことです。3つ全てを1つにまとめると、製品版のように時間とお金がかかりすぎるため、それぞれ別々に用意をして、それらを組み合わせることで、リアルに近い購買体験を再現することが大切です。

例えば、展示会で購買体験を再現する場合、入り口に製品の外観を示す模型を置き、その後、実際にその機能のみを体験できるプロトタイプを用意し、最後にプロモーション動画を見て、予約注文をとるといった具合です。

この3つに切り分けてかんがえることで、テスト後にどの価値がどれくらいの効果を発揮する、あるいは、発揮しないのか、といったことを理解するのに役立つデータがとれます。例えば、製品の外観を見た時点で興味を失って、機能を体験しなかったとか、機能は好きなんだけど、最後のストーリーで、あと一押しできなかったといった分析が可能となります。

失敗した実験/プロトタイプの例

では、実際に私がこれらのプロトタイプを通じて行った実験で失敗した事例をご紹介します。

失敗にも2種類あります。1つは、意図する価値を再現することに成功したが売れなかったパターンで、もう1つは、ユーザーに価値を認知してもらうことに失敗して、実験の目的を満たすことができなかったパターンです。

1つめは、実際には意思決定に値する需要がなかったわけですから、ここで得られたデータをもとに改善をしたり、ターゲット顧客をピボットするなど「売れなかった本当の理由」を3つの価値ごとに探ることで、よりよい方向に進んでいくことができます。つまり、ある意味、成功だと思います。

一方で、プロトタイプの設計が不十分で、実験の目的を果たせないケースがあり、この場合、売れる確証が得られないばかりか、モチベーションが上がらない中、再実験ということになりますので、こちらの失敗例を挙げます。

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参加者にノイズが入り過ぎる
B to B のように顧客にリーチするチャネルがカッチリしている場合には発生しにくい事例ですが、B to Cで不特定な顧客層を対象とする場合には参加者の集め方が重要です。
例えば、イベントを開催して、見込み顧客を集めて、そのイベントでの体験をつうじて購買するというシナリオです。私のプロジェクトでは、イベントに来た約9割の人が、新技術を知りたい、新規事業に興味がある競合が参加して、実際のターゲット層は、約1割も来ないという苦い経験があります。
この原因は、実際に販売するイベントを想定し切れておらず、とりあえず、社内向けのイベントから始めようとしたことでした。やはり、本物の顧客がどういうふうに購入するかという場面を再現することが大切です。

■ ユーザーにテストだと気付かれる
当たり前のことに聞こえますが、ユーザーはテストサービスと気付いた途端に課金意欲を失います。販売員の熱量が足らないケースや、パンフレットの作り込みが甘いケースなど、機能以外の面でも、本番の製品やサービス体験に「テスト」だと感じさせる要素があると、敏感に反応します。
私のケースでは、継続的に使用していただくサービスを提供する際、2週間先のスケジュールまでは提示したものの、その先を示しておらず、ユーザーに本当にこのサービスはずっと続けてもらえるか?と不安に思わせてしまいました。課金するための「信頼感」を形成できていなかったケースです。

■ 正しく価値を認知する体験が設計できていない
プロトタイプを制作する際、機能にフォーカスしがちですが、案外、前後の体験を再現することが大切です。例えば、ユーザーエクスペリエンスが機械的で興味を失ったり、パンフレットが魅力的ではなく、購買意欲が掻き立てられない。
私もランディング・ページなど、目に見える部分の作り込みに力を入れて、体験会でのストーリー展開に失敗して、疑問を抱かせてしまったり、目に見えにくいコンテキスト(ストーリーや価値の訴求)の価値に失敗することがありました。

このように、製品版を開発する前に本当に売れるかを検証するためには様々な落とし穴があると思います。

ただし、1回の実験でうまくいく必要はなく、ここで発生してくる「売れない本当の理由」を探ることで、はやめに提供価値を見直したり、ターゲットの顧客を見直したりと、企画を早期にブラッシュアップすることができるのも実験するメリットとなります。

そのため、複数回にわたって繰り返していくこともあります。
例えば、

1回目:得られたデータや観察情報を示し、具体的な課題を知る
2回目:ユーザーの反応が良くなり、購入率などの見通しが上がる
3回目:本格的な投資に値するデータが収集できる

こうして、本格的な開発や、マーケティング費用の投入など、段階的に意思決定を行い事業を進めていくことが可能になります。企業の新規事業の場合でも、決裁者にこの実験のプロセスとその結果を共有することで、ロジカル思考の強い経営層の合意をとりつけることにつながるとおもいます。

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今日は新規事業のもっとも高いリスクである本当に売れるのか?を検証するプロトタイプと実験の設計について書きました。

限られた予算と時間のなかで、企画を打ち出し、良し悪しを見極め、継続的にブラッシュアップをかけていくために、大切な考え方だと思っています。参考になれば嬉しいです。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

Photo : Aalto Inn, Otaniemi, Espoo, Finland


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