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新しい事業づくりに必要な3つの顔
新しい事業をつくる(ビジネスデザイン)と聞くと、コンセプト(企画)を作ることをイメージしやすいですが、実際に経験してみると、3つのフェーズがあり、各フェーズに求められるスキルやキャラクターが全くの別物であると感じています。
1.新しい価値を作る「コンセプトづくり」(企画者)
2.周囲を巻き込む「プレゼンテーション」(遊説家)
3.世の中に生み出す「プロジェクトマネジメント」(指揮者)
各フェーズに切り分けてみると、企画畑で育った人、コミュニケーションが得意なタイプの人、実行力に優れている人など、各領域の専門をもつ人達は多くいるような気がします。
一方、異なる専門領域を越橋して、新しい事業を生み出すためには、3つのフェーズそれぞれの専門性を統合すること、また、フェーズ毎に求められるキャラクターへと「変身」していくことが必要だと考えています。
最近、友人から勧められた任天堂wiiの企画担当者が執筆した「コンセプトのつくりかた」という本を読みました。
タイトルには「コンセプト」という言葉がありますが、コンセプトメークに力を入れつつ、新しい事業づくりを単なる企画、あるいは、実行だけに偏らずに、3つのフェーズについて網羅的に書かれた本で、私としては初めて、こういった本に出会い感動しました。
この本を中心に、参考文献を紹介しながら、各フェーズで求められるスキルとキャラクターについて、簡単にまとめようと思います。私の意見を交えながら、各フェーズの知識やアプローチについては書籍の紹介という形をとっています。
1.新しい価値を作る「コンセプトづくり」(企画者)
コンセプトメーキングでは、様々な人と関わりながら、これまでになかった「未知の価値」を創造していくフェーズです。
そもそも、コンセプトとは、未知の良さ(新しい価値)を形にするために、「ビジョン(何をしたいか)」x「ソリューション(何を用いるか)」を短い言葉で表現したものと定義することにします。コンセプトがあることで、事業づくりに1本芯が通ります。
このフェーズでは、大きく3つのアプローチがあるように思います。
①個人としてのビジョン / アイデアづくり
多くの人がチームでのコンセプトづくりよりも、1人で考えて、アイデアを発酵させていくことで、コンセプトが生まれるようです。
30年以上前に書かれた「アイデアのつくり方」の名著。100ページほどの分量ながら、アイデアを作る本質のみが書かれており、広告、新規事業、コンサルティングなど幅広い領域の方々に読み継がれている。アイデアをつくるには、入念のリサーチ、アイデアを練ること、アイデアの発酵を待つこと、というステップに分けて説明しており、1人でどのようにアイデアをつくるのかという視点で書かれています。
個人の想い(妄想)を内省し、ビジュアル化などの表現方法を用いて表出化することによる、まさにビジョンを形にするアプローチについて書かれた書籍。モーニングジャーナルなど、個人の思いに気づき如何に意識化し、形にしていくのかにフォーカスしているように感じます。
ビジネスデザイナーとして有名な濱口さんが一般的に知られるデザイン思考のアプローチではなく、作り手のバイアスを崩すフレームワークを活用したイノベーションの作り方について書いた書籍。こちらもチームでのブレストにはあまり意味がなく、個人がどれだけ本質をついた発想ができるかを重視しているように感じます。
②チームとしてのコンセプトメーク
一方、企業内外のチームメンバーとコラボレーションを通じて、コンセプトを作るアプローチを好む人もいます。オープンイノベーションやサービスデザインなどの領域では「共創」や「ワークショップ」といった手法を用いて新しいコンセプトを作り出すアプローチがとられています。
サービスデザインの教科書的な書籍で、様々なステークホルダーとの対話や顧客への共感を通じて、サービスをつくるマインドセット、ツール、アプローチについて書かれています。サービスデザインの思想として、共創があり1人で熟考するというより、いかに多様なメンバーと化学反応を起こしていくかに主眼が置かれています。
様々な人がコラボレーションするための「場」としてのワークショップが注目されており、そのワークショップをデザインの対象と捉え、創造的な対話が生まれるための環境をどう設計するのかについて書かれた書籍です。
③ ①と②を組み合わせたもの
一口にコンセプトづくりと言っても、個人メインで取り組むスタイルのものや、チームで取り組むスタイルのものまで、多様なアプローチがあります。
どのアプローチが適しているのかは状況次第とは思いますが、私としては、個人ワークとチームワークの両方の組み合わせによって「自分がやりたい」かつ「世の中から共感してもらえる」という2つを満たすことができるのだと考えています。
意味のイノベーションのアプローチと近い発想で、個人の思いを深めて表出するところから始まり、周囲や顧客との対話を通じて、共感が得られるコンセプトを生み出していくアプローチです。
2.周囲を巻き込む「プレゼンテーション」(遊説家)
次に、プレゼンターあるいはストーリーテラーとして、仲間を巻き込んだり、リソースを確保するため、様々な人に共感してもらう必要があります。
そのためには、論理的なストーリーとその裏にある想いを伝える必要があります。このフェーズでは、企画者のクリエイティブなイメージから少し変わって、熱い情熱を持った遊説家あるいは、共感を生むようなアーティストなどのタイプへと変身する必要があると思いっています。
数々の著名な映画脚本家を教えてきたロバート・マッキー氏の「ストーリー」を作る上での原則が書いてある書籍です。留学時代にお勧めされた書籍で、ギリシャ神話でストーリーの型は出尽くしたと言われるくらい、普遍的なストーリーの原則を余すところなく解説しています。
成功する起業ストーリーには型があり、必ず盛り込むべきテーマを中心に、投資してもらえるプレゼンテーションとその資料の作り方について説明しています。タイトルにもある通り、いかにして、投資家や同僚などから支援をもらえるストーリーを作るのかについて、論理的に書かれた本です。
2のプレゼンテーションフェーズでは、1で生み出されたコンセプトを実行に移すためのリソースを確保するフェーズになります。コンセプトを描くという仕事が新規事業やビジネスデザインでは注目されがちですが、実際に、遂行する際には、論理的かつ情熱的なストーリーを根気強くステークホルダーに示していくことで、事業開発のスタートを切ることができます。
3.世に生み出す「プロジェクトマネジメント」(指揮者)
プロジェクト(プロダクト)マネジメントは、企画して終わりではなく、コンセプトを世の中に形にしていくために必須の要素です。
1や2のフェーズでは打って変わって、クリエイティブ寄りのキャラクターからロジック立てて、遂行計画を立て、時には強く指揮しながら、プロジェクトを前進させる指揮者のようなタイプへと変身する必要が出てきます。
描いたコンセプトを形にしていくためには、コンセプトに込められた想いを余すことなく、製品へと昇華させていく必要があります。プロジェクトマネージャーと書きましたが、実際にはプロダクトマネージャーのような役割を担うことになると思います。
また、フェーズ3に入ると、スタートアップであれば、アーリーステージの資金調達や、企業であれば社内での予算を確保していると考えられるため、組織や企業のマネジメントの視点から、マネジメントを遂行していく必要もあります。
チームメンバーが自発的な動機付けで、心地よく仕事をしてもらうためにはトップダウン型の指示だけではなく、糸を引くように影響力を自然と発揮していく必要があります。心理学的な対人スキルも必要だと考えられます。
フェーズ3では、企画力というより、実行力が求められるため、ガラッと、マインドセットを変えて、チームメンバーをうまくファシリテーションするというよりも、自らが意思決定をし、先頭に立ち、指揮をしていく必要があります。新規事業、ビジネスデザインと聞くと、忘れられがちなフェーズ3ですが、世の中に描いたものを生み出すためには、最も苦労しながら重要なフェーズになるのではないでしょうか。
まとめー変身を遂げるために
新しい事業づくり(ビジネスデザイン)には3つの顔が求められるというテーマで書きました。1番伝えたかったのは、1人のリーダーの中に、これら3つの専門知識とそこに適したキャラクター(マインドセット)が求められるということです。
私自身、それぞれのフェーズが変わっていっていることに何となく気がついていても、はっきりと言語化して、アプローチやマインドセットを切り替えていくことがうまく言ってませんでした。今も奮闘中ですが、新しい事業づくり(ビジネスデザイン)で重視したくなる最初の「コンセプトづくり」だけでなく、フェーズ2とフェーズ3の存在をはっきりと意識して、取り組むことで、描いたものが実現されないといったケースが減り、成功への近道になるのではないでしょうか。
カバー写真:フィンランド、ヘルシンキのLauttasaariエリアで撮影
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