新規事業と組織のデザイン:なぜビジネスデザインと経営は両輪なのか
大企業内から新規事業を創出する際に、イノベーション組織などの「出島」をつくり、その組織に新しい文化や仕組みをつくり、新規事業を創出するというやり方を採用するケースが増えています。
一方で、新規事業を創出するというミッションを掲げたときに、最初に取り掛かるのはなんでしょうか?
真っ先に思い浮かべるのは、デザインリサーチ 、市場調査、競合調査、先端技術の研究などではないでしょうか。これらはすべて「どんな事業やプロダクトをつくるか」という価値の創造に焦点をあてた取り組みです。
一方で、イノベーションを生み出す「組織」に適した文化とはなんだろう?イノベーションが生まるマインドセットや環境、仕組みはどうあるべきか?ということには焦点が当たりにくく、整えにくいものだと思います。
先に挙げた「出島」をつくる手法も、既存の組織とは異なる文化、環境、仕組みを発達させ、一点突破を狙う戦略ではありますが、既存組織との摩擦が生じて、結局は「出島解消」という事例をよく耳にします。
私自身も、出島で新規事業を生み出す一人ではありますが、その経験の中で「価値の創造」そのものよりも、自分たちの成し遂げたいことと組織の歴史であったり、既存組織の実行体制に合うビジネスモデルだったり「組織」や「文化・風土・仕組み」との親和性みたいなところに苦労が多くあります。
こんな課題感を感じていたところ、多分にヒントになる記事を見つけたのでシェアしつつ、なぜ、価値の創造にだけフォーカスをするよりも組織やその裏にある文化や意思みたいなところをデザインすることが大切なのか、書いてみたいと思います。
モノはヒトから生み出される
どんな事業が生み出されるのかは、その起業家やリーダーの意思や、組織が大切にしている思想などによって、影響を受けます。
私が留学していたフィンランドのアアルト大学 IDBMでは次の3つのテーマについて理論と実践を通じて、学んでいました。
・個の視点:ビジネス / サービスデザイン
・チームの視点:クリエイティブ・リーダーシップ
・組織の視点:組織変革やデザイン文化の組織浸透
この3つのテーマを理論と実践を通じて身につけていくことで、先に挙げたデザインイノベーション人材を育成していくプログラムでした。
ここで、私は学びを深めながらも、事業や新しいプロダクト・サービスを創造するうえで、組織変革や新しいデザイン文化の組織浸透といったテーマがどうして、関係してくるのか、真にわかっていなかったと思います。
人格・文化・価値を三位一体で捉える
この「ヒトや組織」と「事業」の力学をデザイン経営という文脈で、うまく解説している資料があります。昨年、中小企業のためのデザイン経営ハンドブックという名前で、特許庁とデザインファームKESIKIとで出版されているものです。
・会社の人格形成ーキャラクターの確立
・企業文化の醸成ーカルチャーの醸成
・価値の創造ーモノ・サービスの創出
の3つに分けて、それぞれが関係しているループが紹介されています。
(詳細は資料を参照してください。)
実際に、新規事業に取り組むと、事業とプロダクトに集中することが求められますが、会社の個性や文化、事業は密接に絡み合い、組織の力学が働くため、良くも悪くもビジネスモデルやプロダクトが影響されていきます。
⇨ここに「企業内」からイノベーションが生まれにくいと言われる数多くの理由が潜んでいると考えられるのではないでしょうか。
組織や会社のデザインからとりくむ新規事業
これまで、事業やプロダクト(資料のループでいえば、価値の創造)に焦点があたりがちな新規事業を、組織や会社のミッションあるいは文化の創造や浸透から始めるアプローチがあってもいいと思います。
ゼロからリスクをとって、起業していくプロセスは、まさにヒトや組織からつくっていき、プロダクトが生み出されていきます。
初めに大企業が「出島」をつくり、新しい文化や仕組みをインストールし、事業開発に取り組む事例が増えているということも、まさにこのストーリーを描いているのだと思います。
今までの組織から思い描いているような事業やプロダクトが創造されない時には、目の前で事業の試行錯誤を繰り返すだけではなく、組織文化や会社のミッションを再構築していく、経営の取り組みが必要になる状況もあると考えています。
その意味で、ビジネスデザインと経営は本当は切っても切り離せない関係にあると考えています。そこをマネジメント(経営)視点で学ぶアアルト大学のプログラムの価値を改めて咀嚼しながら、デザインの対象を広げていく事が大切なのかもしれません。
最後まで読んでいただいて、ありがとうございました!