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スマホゲームにハマって、やめた話

2021年、11月。
介護をしていた母が亡くなり、どことなく心に隙間があったのだろうか、それともただ暇を持て余していただけなのだろうか、あるスマホのゲームをダウンロードした。そのゲームの名は「おねがい社長」…広告も頻繁に流れているので、ご存知の方も多いかもしれない。ただ、わたしはその当時、広告を見たことがなく、シムシティのような経営シミュレーションゲームだと思い、本当になんとなく始めたのである。

2022年、1月。
別に毎日ログインしていたわけでなく、少し時間が空いたときに、コツコツと続けていた。ルールもまだ理解しておらず、なんとなく続けていたのである。継続は力なりとはよく言ったもので、続けているわたしの実力は着々と上がってきていた。

そんな折、わたしのところに一通のダイレクトメッセージ(通称:個チャ)が届いた。それはチームへの勧誘だった。

おねがい社長は、プレーヤーがそれぞれ経営者となり、自分の実力や財産を上げていくゲームだ。ここには商工会という制度があり、好きな商工会に所属することができる。商工会は誰でも作成することができ、所属しているだけで実力が上がったり、ギルドやバトルにも参加できたりする。また、強い人が集まる商工会に入るとそれなりにメリットもある。そこで、商工会側は実力の強いプレーヤーを勧誘し、強くなりたいプレーヤーは強い商工会に入るのだ。

まだルールも理解しておらず、個チャの仕組みにすら慣れていないわたしは、勧誘されるがままに中規模の商工会に参加することとなる。その商工会ではLINEのオープンチャットグループ(通称:オプチャ)が作られており、情報交換が行われていた。通知は切っていたが、毎朝起きると相当数のやりとりが行われており、もうあまり記憶はないが、たいした情報はなく、ゲーマーたちの会話はなんだかこわいという印象をもった。

2022年、2月。
商工会から多くのメンバーが脱退し、違和感をおぼえていた。それでも、少人数となった商工会は居心地がよく、同じ商工会メンバーから伴侶になってほしいとプロポーズされた。

おねしゃには結婚制度というのがあり、指輪を渡すことで伴侶になることができる。伴侶探しをする社交、婚活パーティーなどのシステムもあるが、すでに知り合いの場合にはどちらかが指輪さえ用意すればすぐに結婚できる。結婚するだけで、実力が伸びる。デイリーの伴侶任務やプレゼントの贈り合い、また、2時間ごとに親密交流というダイヤを送るアクションをすることでラブコインというものが貯まり、それをアイテムに交換することができる。つまり、結婚したほうが有利にゲームを進められるのだ。

当時、初心者のわたしは、プロポーズされたこと自体が嬉しく、伴侶になった人とも仲良くなった。今思うと、やりとりが急に馴れ馴れしくなり、恋人気分を味わっているような会話だったので、相手も舞い上がっていたのだろうと思う。また、既婚者の男性だったので、適当な現実逃避になっていたのではないだろうか。毎日のやりとりに疲れ、会いたい、などという言葉が頻繁に出てくるようになったため、ちょっとずつ距離を置くようになっていた。

2022年、3月。
商工会の会長が抜け、抜けた先に引き抜きをするようになる。わたしの伴侶も引き抜かれ、一緒にどうかと誘われた。個人的に何かをされたわけではないが、責任感のない発言をする会長のことは苦手だった。そして、周りの人からの評判もすごぶる悪かった。残った商工会メンバーはみんなゆるっとしていて、オプチャで雑談することも楽しかったし、わからないことを教えてくれるやさしい人たちだった。ただ、その後も引き抜きは続き、ログインしない人も増え、わたしたちの商工会は徐々に弱くなっていった。仲の良かったメンバーから、引き抜きをされたがどうしようという相談があったり、伴侶からも毎日のように移籍を打診された。居心地はいいけど今のままでは強くなれない、でも、評判の悪い会長の商工会には行きたくない、と葛藤した。

この悩みを誰かに相談したいと思い、以前、同じ商工会にいた人に、勇気を出して個チャをした。オプチャで雑談をしているとき、彼は、周りの反応をみながら的確な言葉を発していて、とても賢く、気遣いのできる人だという印象だった。わからないことがあると、画面キャプチャや動画収録でわかりやすく教えてくれ、相手の話をしっかりと聞き、ときには場を盛り上げ、年下で頼れる存在。ゲームの中でも現実でも私の周りにはいないタイプだった。相談するのに個チャだと文字数制限があるため、ほとんど伝えることができず、LINEでやりとりするようになった。毎日わからないことだらけのわたしを救ってくれていた彼と、プライベートの話もするようになり、わたしにとって、とても大切な存在になった。

彼と初めて通話をしたとき、サーバーを移るという話を聞いた。スマホゲームはたいていサーバーが複数用意されており、それぞれ開設日(ゲームのスタート時期)が異なる。新しいサーバーが開設された日に始め、始めてすぐに課金した方がゲームの進行にも実力上げにも有利なのだ。今の商工会の問題に悩んでいたわたしは、まっさらな気持ちでまた始めたいという気持ちと彼と一緒にゲームをしたいという気持ちで、一緒に移ることに決めた。タイミングは次のサーバーの開設時ということだったのだが、なんと、通話中にサーバーが開設された。勢いでついていき、一緒にスタートした。初めて高額課金をした。平日にもかかわらず、朝まで通話した。本当に楽しかった。このときの高揚感は今も忘れない。

その後、彼に思いを伝え、わたしたちは付き合うことになった。

2022年、4月。
とにかく毎日が楽しかった。彼が会長を務めるわたしたちの商工会はスタートダッシュがキマリ、最強になる。わたしは突然ついてきた形だったので、彼と伴侶にはなれなかったけど、商工会の名前決めにもかかわれたし、面白いほどに実力が伸びていった。たまたま選んだ伴侶も経験者で、最強だと思った。教え方が上から目線だったり、2人専用のオプチャをつくられて、気持ち悪いやりとりを強いられたけど、適当に交わしながら伴侶関係は問題なく、続けていた。

ある日、伴侶がわたしのために良かれと思ってイベントでちょっと手伝うようなことをしてくれたのだが、そのときにどうやら他のメンバーに迷惑をかけていたらしい。実際、わたしは何が起きていたのかよくわからなかったし、もちろん、わたしからお願いしてなどいなかった。しかし、何を思ったのか、副会長の一人(仮名:蘭)がわたしの計画だと思い込み、個チャでひどい言葉を投げつけてきた。伴侶から説明したにもかかわらず、その後もわたしのせいだという決めつけを覆すことはなく、謝罪もなかった。副会長で、彼とも仲が良く、表ではいろいろ優しく教えてくれている印象を持っていたので、裏の顔はこんな人だったのかと少しショックを受けた。

そしてまた、新たな大きな問題が発生することとなる。
同じ商工会のメンバーに新しく子犬っぽいキャラクターの男の子が入ってきた。(実際はゴリラのような風貌の既婚者おじさんだったらしい)同じ商工会内の協力イベントのようなもので助けたことをきっかけに、その子犬から人懐っこい感じの個チャがくるようになった。ただ、わたしは会長でもある彼氏と仲良く毎日LINEをしていたので、都度、その内容などのキャプチャを送ったり、誰とどんな話をしているなどと報告していた。

そんなある日、会長から「実は、蘭が(わたしに)子犬が色仕掛けをされて困っている、退会処分すべきだ」と非難していると聞かされた。色仕掛け…?まったく心当たりがない。ただの雑談をしていたが、むしろ子犬から甘えた内容のメッセージがきたことはあったが、都度交わしていたし、会長大好きだったからまったく興味がなかった。トラブルに発展させたくないし、楽しくゲームをしてほしいから強く拒否するようなことはしていないけど、適当にあしらっていた、というのが正確な表現だろうか。はて、色仕掛けとは何を言っている、ましてや、困っているというのは何事だ?こっちこそ毎日面倒な個チャがきて困っているというのに。

普段のやりとりでも話してはいたが、改めて整理し、今までの経緯を会長に報告した。その上で、子犬に直接状況を話すことにした。「身に覚えはないんだけど、わたしが言った言葉で困らせていたらごめんなさい」と送ると、「どうしたの?」とすぐに返事がきた。「困らせていたみたいで、蘭に相談したと思うんだけど、そのせいでわたしは退会処分になりそうです」と伝えた。すると「俺がなんとかする!」という返事。いや、そりゃそうだろう、誰のせいでもない、お前のせいなんだから。結局、子犬とやりとりのキャプチャを提出し、子犬も事実と異なっていることを伝えたことを蘭に伝えたようで、わたしの潔白は証明され、蘭から謝罪があった。とりあえず適当に返したものの、根拠のない情報を信じ、陥れ、ひどい暴言を吐いているのに、何食わぬ顔で副会長をやっていることが納得できなかった。しかし、今回は商工会を守るために目をつぶってほしいと会長から言われ、なくなく我慢した。

わたしに責任をとってゲームを辞めると言った子犬は、商工会を抜けたものの、やはり未練があったのか、会長に泣きついてきた。その泣きつき方もひどく、本当は自分の身は潔白で、すべてわたしに言わされたことだと言ったようだ。嘘に嘘を重ねるというのはこういうことか。会長は即座に子犬の要望を退け、子犬は他の商工会に加入した。これでもゲームを辞めないとはどういう神経なのだろうと思ったが、一難去って、平和になると思っていた。

しかし、そんな簡単に子犬は引き下がらなかった。
細かいことは忘れたが、加入先の商工会で他の3つの商工会が結託してうちを潰そうとしていると、また、蘭に連絡してきたのだ。鵜呑みにした蘭がまた騒ぎ立て、とうとうゲームをしている全員が見ることのできるチャットで子犬や他の商工会とやり合うこととなった。最終的にこれで子犬がゲームを辞めることになるのだが、わたしはもう蘭にいい加減腹が立ちすぎていた。数日前にも、その前にも、根拠のないことを信じ、何度周りを巻き込めば気が済むのか。しかもすべて裏で騒ぎ立て、表では平然と副会長としてみんなから信頼されていて、もう許せなかった。商工会内で今までの蘭の行動を非難してから辞めようと思ったが、何も知らない他のメンバーが健気に蘭のことを気遣っている様子を見て、心が限界だったのか、誰にも相談することなく、気づけば退会していた。

その後、、、
わたしは自分で商工会を立ち上げ、ゆるくやろうと思っていたところに、強い商工会が解散し、メンバーが流れこんできたり、人の動きが何度もありつつも実力3位の商工会の会長を半年間務めた。

会長は、毎日12時と18時のイベントを開ける鍵当番のようなことをしたり、起こる商工会間のトラブルやメンバーの個人間のトラブルの解決に奔走したり、サーバー全体のルールを決めたり、商工会同士の交流をしたり、隔週の金土日で行われるバトルには欠かさず参加し、みんなに参加を呼びかけたり、チーム分けをしたり、作戦を練ったり、とにかく毎日忙しかった。自分の中の正しい会長像を全うすることが非常に大変で、自分自身の実力上げとともにさまざまなことを考えた。正直、自分の商工会を立ち上げてから、バトルで勝ったときの嬉しさやメンバーとのやりとりの中での安心感など一時的に得られる喜びはあったが、やらなければいけないというストレスを感じている方が強かったように思う。

最終的に、わたしは逃げるように辞めることとなる。悲しみ、怒り、虚無感の繰り返しで心が限界になり、日常生活にも支障が出ていた。急に涙が出てきたり、過呼吸になったり、微熱が続いたり、無気力になったり。頚椎ヘルニアになって、運動を制限していたことも重なったのかもしれないが、心も体も疲弊していた。それでも、責任感からなんとか年内いっぱいは続けて、円満に会長職を誰かに引き継ぎたいと考えていた。

しかし、その願いは結局、叶うことはなかった。
今まで協力をすることもあった以前の商工会から攻撃を受け、議論は平行線のまま、結局、聞き入れてもらうことはできず、納得のいかない状況が続いた。結局ゲームの世界では実力主義、課金勢の天下で正論は通らない、話は通じないのだと思った。なんとか藁をも掴む思いで、協力関係をお願いした商工会には断られ、挙げ句には、うちのメンバーの不正行為を長々しい文章で指摘され、運営に報告するというものだった。もう終わりである。上位2つの商工会に実力者が固まり、下位の商工会も協力をしてはくれない。この中途半端な状況で、私はいつ辞められるのか。また、ネチネチと言われたちょっとした不正行為についても私がまたメンバーに個チャをし、状況を話し、謝罪し、処分をして、また協力関係をお願いしなければいけないのか。わたしは一体何をしているのか。もう辞めよう。もう誰がどうなったっていい、どうせ知らない人なのだから。自分を大切にする選択をしよう。そう思って、すべてのオプチャを退会し、会長職を他のメンバーに付与し、アプリを消した。決断して3分のあっけない幕引きだった。

わたしが1年弱スマホゲームにハマって学んだこと

不覚にもスマホゲームにハマってしまい、16万円の課金をし、さまざまなことを学んだ。そのうち特に大事なことを3つお伝えしたい。

スマホゲームを無課金で遊び続けるとしたら、相当な忍耐力がいる

結局、課金者が仕切って、ルールを決めて、その下で生きる形になる。もちろん、無課金でも遊ぶことはできるし、強くなることはできる。ただ、課金をするとコツコツ継続しなくてもすべてショートカットで強くなることができるし、ランクも上がる。負けず嫌いな人は課金してしまうので、自分の中でいくらまで、どんなときに課金するかルールを決めておくとよい。

ゲームの世界の強者に人間的に優れた人などいない

ランク上位者はたいてい課金をしている。きっとたくさん稼いでるんだろうなと思う。最初は経営者や土地財産を転がしている金持ちだと思っていた。しかし、実際に話を聞くと、経営者の妻や夜職、トラックの運転手、農家などである。もちろん経営者もいるが、どの人も人間的に尊敬できる人などいない。結局は自分のことしか考えられない幼稚な人間ばかりであった。八方美人男、マウントおじさん、セレブおばさん、太鼓持ち野郎、ご祝儀泥棒、ワガママ女、お節介姉御。気に入らない人がいれば、ありもしない事実をでっち上げ、誹謗中傷。弱いものをいじめ、課金者のためだけの世界を作り上げている。自分たちさえよければいい、同じ考えを持つもの課金者がチームになって実権を握っている。しかし、実際の世の中もこんなものなのかもしれない。

ゲームの世界は、とっても小さい世界だ

ゲームにハマっていると、自分の生活に組み込まれ、「毎日12時にログインしなければ」とか「金曜の夜はバトルがあって」などと現実の予定にも影響することがある。実際にわたしも美容院でシャンプー台に横になりながらログインをしたり、飲み会中にバトルに参加したりしていた。周りに「実はゲームにハマっててログインしないといけなくて」というとたいてい面白がって許してくれるし、興味を持ってくれる。でも、今なら断言できる。現実の予定に影響を与え始めていたら末期だ。わたしは毎日12時と18時、それから隔週の金土日の20時〜は必ず予定をあけていた。だから、岩盤浴やエステ、通院などはその時間を避けていたし、飲み会や帰省の予定も調整していた。

ゲームの中でトラブルが起きると解決するために奔走したし、なんとかうちのチームが勝つために、チームのメンバーが強くなるために、何ができるかをずっと考えていた。その中でも、嫌なことをされたり、思わぬことが起きたり、信じていたメンバーに裏切られたり、辛いことがたくさんあった。現実で経験したことがないほど悲しくて泣いたり、大量の白髪が発生したり、頚椎ヘルニアを発症したり、最終的にはメンタル壊して通院もした。

振り返ると、なんでこんなゲームごときで苦しんでいたのかわからない。すぐにやめればいいのに。周りの友人からもやめるように言われていたけど、きっちり責任を果たして、円満にやめたかった。でも、やめた今ならわかる。ゲームの世界が自分の中の大きな世界だったけど、本当はすごく小さい世界だったんだ。

学校でのいじめ、職場でのハラスメント、そのほか今、自分の境遇が苦しいと思っている人たち。今のわたしならそういう人たちのことを共感し、寄り添い、一歩踏み出す勇気を与えられるかもしれない。きっと何かに追い詰められると、視野がどんどん狭くなってしまうんだ。でも、一歩外に出てみると気づくはずだ、世界は広いのだと。

スマホゲームに何を求めるか

わたしがスマホゲームをはじめたきっかけは、なんとなくだった。それでも、相手を倒したり、地道に続ければ自分の実力が少しずつ上がっていったりすることがとても楽しかったし、良い息抜きになっていた。きっとそれだけでよかったのだ。ゲーム初心者のわたしは、ゲームの世界の人たちにどことなく憧れがあったし、平和ボケしていたんだと思う。

スマホゲームにはつい毎日ログインしたくなるような、つい課金したくなるような魅力がある。その仕組みから学ぶこともたくさんある。ただ、もし、ゲームでストレスを抱えるようになったら、無理せず、すぐにやめるべきだ。いつでもやめられると思っていると、どんどん深みにはまって、ゲームの世界のストレスを現実世界で癒やさなければいけない逆転現象になっていく。ゲーム仲間のことを気にする必要はない。自分1人が抜けてもきっとなんとかなる。新しいプレーヤーは次々に生まれているのだから。

ゲームとは関係ないようにも思うが、時々、これから自分が何をしたいのか、そのために何をしたらいいのかを考え、着実に前に向かっていることを感じることはとても大事だと思う。

ゲームは楽しい。息抜きにもなる。でも、そのゲームを自分の人生の歩みを邪魔する存在にしてはいけない。

スマホゲームを自分の人生の歩みを後押ししてくれるような存在にしよう。(わたしはしばらくスマホゲームはしないと思う)


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