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雪原と燈

 雪の儚さを謳い、僕は雪原に一人いる自分の姿を夢想している。そこには、はじまりもおわりもなく、ただ全てが存在しているだけだ。因果から解放された僕は、まるでその雪原を愛でるかのようにかける。僕の脳内が保持している、この記憶もただここに存在しているのみである。それは消えることもなく、ただそこにある。そこで僕は最愛の人々と出会う。彼らは僕に微笑みかける。僕は、あの時ぶつけた車の傷や散歩した道すらも覚えている。そしてそれは、、ただ意味もなくそこに存在しているだけだ。「時間」という大きな波の中で、「目」の前から消えてしまった世界は、僕の中に確かに存在している。その存在を僕はかんじるだけでとてつもなくノスタルジックにも、無意味にも感じてしまう。その入り混じる感情と感覚の間の世界は、まるで虚構であったのかのように消え去ってしまう。その儚さを僕は、ただ広大な都市という大地の中で無機質にも有機質にも感じている。

 雪原を離れてずいぶん遠くまで来てしまった。僕の知っていた場所はもうなくなってしまったのかもしれない。悲しいことに、そこには、未来永劫僕が世界を認識する限り「虚構」は存在してしまう。僕が置き去りになってしまったのではない。僕がそれらを置き去りにしていったのだ。だからこそ、ノスタルジックに感じつつも、無意味だと感じているのかもしれない。先人が残した轍を、僕は辿りながら、見ることはできないが識ることができる世界に思いを馳せて、懐かしさを感じる。そして、雪が降る灰色の空を見上げて、「大丈夫」と一人呟いてみた。僕は、僕である限り、この雪原にいつでも戻ってこれる。寒くて、儚い世界だけれども、一つの灯火が、僕のところにやってきて、明るく、暖かく、包んでくれる。

 記録は消えても、記憶にある。目に見えないけれど。

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