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僕の彼女はお見合い中 第6.2話【思いがけないお見合い相手】

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「今日こそちゃんと言わなくちゃ」


こうしてよしきとデートの約束をするのは何回目だろう。

アプリで出会ったのが2か月前。それから一気に仲良くなって、同じ時間を過ごすのは本当に楽しかった。

いつでもよしきは優しくしてくれたし、私は笑顔でいられる。でもお見合中だってことも、伝えてある。

きっと私と一緒でよしきだって悩んでいるし、いろんなことを想像しているに違いない。

このまま時間が経って、私に結婚相手が現れたらどうするの?

結婚したとして、それからは不倫相手として一緒にいるの?

お互いに離れるタイミングは、そんなに遠い未来じゃないの?

どれも答えが出るとは思えない。だけど、私は間違いなく数カ月後には結婚している自信がある。

自信があるからこそ、よしきとの関係をどうすればいいのか迷っているのも確かだった。

結婚したい私、結婚を考えていないよしき。

じゃあ、私は誰と一緒にいたいの? 私の幸せってなに?

スマホを操作しながら、なんとなくそんなことを考える。

(うん、じゃあ明後日の1時にいつもの場所で待ち合わせね)

こんな返事を送ると、いつも思う、早く明後日が来ないかなって。

そして、よしきに返事を書いた瞬間に届くメールの通知。

〈新しいお見合いの申し込みが届いています〉

私は小さなため息をつく。

スマホの中でさわやかな笑顔で笑っている男性。

36歳 初婚 会社経営 年収800万円

それ以上プロフィールを読まずにアプリを閉じる。

すると今度はラインの着信音。

(真琴は何が食べたい? あと真琴にプレゼントあるよ)

気持ちがざわつく。

このままでいい。このままじゃいけない。

(今度のデートでちゃんと言おう。言わなかったらきっとお互いが不幸になる)

私はひとつの決心をした。

お見合いを終えた後に会うそのデートでよしきにちゃんと伝えようって。

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「ねぇ、あと2ヶ月って知ってた?」


横にいるよしきはいつも私の話をニコニコしながら聞いてくれる。

遅めのランチを食べ終わったあとも、カウンター席に居座っていた私たちの前には、ワイングラスが並んでいる。

「昼からお酒なんてサイコー!」

「週末とは言え、ちょっとだけ非日常感覚だな」

「うん、なんか楽しくなっちゃうね。でもよしき、飲むとすぐに顔に出ちゃうからなー」

「そうそう、オレすぐに赤くなっちゃうんだよな。逆に真琴はあんまり顔に出ないけど、けっこう酔っぱらうよな」

「もうワタシけっこう酔っ払いかも」

お互いを呼び捨てにするほどの仲になった。でも、その先が見えない二人の関係。それなのに、どんどんと惹かれていく気持ち。

ワインのボトルが空になりかけたころ、私はよしきの肩にもたれながら、こんなことをつぶやいた。

「よしきって、あれからお見合いのこと聞かないよね」

ワイングラスを口に運びながらよしきが言う。

「聞いて欲しいの?」

「うーん、そういうんじゃないんだよねー」

「意味がわからないんだけど」

私は酔っていたけれど、意識だけははっきりとしていた。言わなきゃならないことがあるから。

「ねぇ、気がついてたかな。あと2ヶ月ってこと」

よしきは、じっと前を見たままなにも言葉にしなかった。

「よしきと会ってから2ヶ月。私が結婚するぞって決めてから4ヶ月。で、残った時間が2ヶ月だよ! 早くない? びっくりだよね」

私はわざとおどけたような口調で言った。

それでも、よしきは黙ったまま。

私はその沈黙に耐えられなかった。だから、その勢いで言おうと思っていたことを口にした。

「2か月たったらさ、私は結婚しちゃって。それでも、こうしてよしきと会ってたら不倫だよね。そうなったらよしきはどうするの?」

一番聞きたかったこと。だけど、一番聞いてはいけないこと。

(オレ、まだ結婚する気ないからさ)

そんな答えが返ってくる覚悟もちゃんとしていた。そう言われたら、それはもう受け入れるしかない。

でもよしきの答えはそんなんじゃなかった。

「真琴ってさ、不思議だよね」

「え? 何が?」

そういう私をよしきは微笑みながら見つめてくる。 

「あっ、そうだよね。意味わからないよね、私のしてること。ごめんね」

「謝ることなんてないでしょ。そんな真琴のことが好きなんだから仕方ない」

好きなんだから・・・

でも、それは私の思う未来とはちょっと違う。

「真琴のお見合いってさ、いつまで続くのかな?」

意外なことを質問された。

だって私のお見合いが終わるってことは、誰か一人に決めたとき。それって、一気に結婚が現実的になるってことだから、よしきは知りたくないんだと思ってた。

「わからないよ。今日の人だって悪い人じゃなかったし。今度のお見合予定だってあるけど、どんな人かわからないしね」

(どうしてそんなこと聞くの?)

私は言えなかった。

「そうだよな。いつ誰とどんなふうに出会うのかなんてわからないし。次のお見合い相手が結婚相手かもしれない。ほんと、結婚相談所って、すごい仕組みだよ。なんて言ったっけ? 真琴の入ってる結婚相談所の名前」

「前にも教えたよー、相談所の名前」

「忘れちゃった、あははは」

私は、よしきの答えを聞きたかった。だけど、よしきは答えてはくれなかった。だから、それ以上は言えないし、言える立場でもない。

だって

(真琴はオレとこれからどうなりたい?)

って聞かれたとき

「きぼうくんはサニーちゃんとの未来を想像できる?」

こんなことを言って誤魔化した私。

わからない答えを、見えない未来を胸に抱えたまま探り合いをしている私とよしき。

今日もまたいつものように、私とよしきは手をつないで歩く。そして歩きながら軽くキスを交わす。

こんなシーンはいつまで続くんだろう?

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「そういえばプレゼントもらってない!」


よしきと別れて一人、ホームのベンチに腰掛ける。

(ちゃんとよしきの答え、聞けなかったな・・・)

次のお見合いは一週間後。

(そろそろ決めなきゃだめだ)

そんなことを考えていた。

家に帰ってから、「無事に着いたよ」のラインをしようと画面を見たときに、昨日のメッセージが目に入る。

(真琴にプレゼントあるよ)

あれ?今日もらってないよ。忘れちゃったのかな?

ラインで催促しちゃおう

その時、スマホの通知音が鳴る。

いつもの、お見合い申し込みを教えてくれるメール。

〈新しいお見合いの申し込みが届いています〉

よしきに送るために開いたラインを閉じて、申し込み相手を確認した。

そのとき、私は自分の目を疑った。

いや、スマホがエラーを起こしたんだと本気で思った。

だって、お見合い相手の欄に映っている写真は間違いなくよしきの姿だったから。

それも、それは私がデートの時に写した写真。

なんで? どうして?

状況がまったく理解できなかった。

毎日のように確認する、見合い申し込み画面。

見飽きるほど何回も見たその画面で笑っているよしきの写真。

メッセージには、こんなことが書いてあった。

「運命の人と出会いを信じます。よろしくお願いいたします」

私はその場で結婚相談所のカウンセラーに退会手続きの電話をかけた。

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「それから・・・」


「もしかして、たった一回のお見合い申し込みするためだけに、何十万円も払って結婚相談所に入ったの?」

「そんなわけないでしょ。大金持ちじゃあるまいし。真琴が入ってる相談所ってさ、無料でお試しプランっていうのがあるんだよ。一回だけお見合い申し込めるの」

「そうなの?知らなかった。じゃあ、よしきは、タダで結婚相手を手に入れたんだ。それに私の入ってる相談所の名前なんて忘れたって言ってたくせに、ちゃんと覚えてたし」

「まあね」

「ズルイっ」

「口で言うだけなら、誰でも言えるじゃん。好きです、結婚する気でいますなんてさ。だから、オレはちゃんと申し込んだんだよ。本気で結婚したいって思ってる真琴にね」

「カウンセラーの人、びっくりしてたよ。いろんなこと」

「だろうね。真琴にお見合い申し込んで、すぐに退会なんてしたから、けっこう怒られちゃったけどな」

「そうだよー。私も大変だったんだから。カウンセラーの人は罰金だ、違反だなんてギャーギャー騒ぐし。でも最後は所長さんがわかってくれて、なんとか無事に退会できたけど」

「ギリギリだったかな」

「そうだよ、ホントにギリギリ」

「でも間に合った」

「うん」

大好きな人の腕にぎゅっと抱きつけるカウンターの横並びが好き。

頬杖をつきながら、私の顔をじっと見つめるよしき。

そのよしきの顔を下から覗き込んで私はいつもこう思う。

「ありがとう、出会ってくれて」

って。

サニーときぼうとマカロンと。

僕の彼女はお見合い中(終)

もうひとつのエンディング 6.1話 残酷なあなたの優しさ はこちら




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