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きみの誕生日を祝う、2回目のクリスマス
「「めいこ、誕生日おめでとう~!」」
目の前に置かれた犬用のバースデーケーキには、真っ白なクリームと、赤い苺が乗っている。そして、数字の「7」のろうそく。めいこは「え?これ食べていいの?」と不思議そうな顔をしながら、遠慮がちにクリームを舐める。「いいんだよ、食べて。今日はめいこの誕生日だからね」そう言うと、2人の「おめでとう」の声を浴びながらカットしたケーキをぺろりと平らげ、満足そうに私たちの顔を見上げた。
クリスマス当日の12月25日。めいこは7歳の誕生日を迎えた。
めいこの誕生日を祝うのは、2回目。
わたしとめいこが出会ったのは、めいこがまだ5歳の時で、出会ってからまだ1年と少ししか経っていない。もともと彼が前から飼っていた犬だったが、彼と付き合い始めてから、めいこと過ごす日々が始まった。本名は「メイ」という、トイプードルの女の子。「めいこ」という呼び方にももうすっかり慣れた。彼のことが大好きで、ちょっと臆病で警戒心が強くて、でも慣れると愛嬌をたっぷり振りまいて、まわりの人を笑顔にしてしまうめいこ。
出会ったばかりの頃はまだわたしとめいこの間には距離があって、彼が出張で留守番する時は、玄関を見つめながら彼の帰りを待っていたし、少しでも物音がすると彼が帰ってきたのかとそわそわしていた。「あなた、誰?」という感じで冷ややかな目線を向けられることも(笑)でも今は、2人で留守番していてもリラックスした表情で過ごしている。
今年の3月からは同棲を始めて、めいこと過ごす時間はさらに増えた。気づけば眠る時も、ソファでくつろぐ時も、ご飯を食べる時も、彼とわたしの間がめいこの定位置。めいこのいる生活は、徐々に当たり前になっていった。一緒に過ごせば過ごすほど、楽しい思い出は増えて、愛しい気持ちは増していく。
でも、まるで家族のように仲良くなればなるほど、「7歳」という年齢に少し怖くなる時がある。今年、実家の犬が急死してから、その気持ちは強くなった。
いつも実家の玄関のドアを開けると、しっぽを振って嬉しそうに迎えてくれた姿は、もうない。フワフワで温かくて、確かにあった命は、どこにいってしまったの?今でも嫌になるくらい、悲しみの手ざわりを感じてしまう。
一緒に過ごせる時間には、限りがある。
大事なものは、今しか大事にできない。
めいことの生活が当たり前になっていく中で、そのことを改めて、実家の犬が教えてくれた。
今、そばにいるめいこのお腹をすうーっと撫でてみる。温かくて、ふわふわで、確かな命がここにある。胸のあたりに耳を当てると、トクトクと心臓の音がする。めいこのお腹に顔をうずめて、めいこの匂いを思いきり吸い込んだ。めいこの匂いは、わたしの気持ちを落ち着かせてくれる。
限りある時間を怖がるわたしをよそに、めいこは今日も健やかで、楽しそうだ。不安を感じながら生きていないし、無邪気でわんぱく。同じようなことの繰り返しの毎日でも、小さな体でめいっぱい気持ちを表現するし、同じ散歩道を歩いても、まるで初めて歩くかのように新鮮に驚き、喜ぶ。
おわりがくることを知っている私たちは、たまにその時が怖くなる。めいこはたぶん、そのことを知らない。でも、それでいいんだと思う。たまに切なくなるけど、目の前にいるめいこをもっと大事にしようと思えるから。
めいこ、毎日を楽しもうね。毎日する同じことでも、笑って、楽しくね。そして来年のクリスマスも、またお祝いしようね。
幸せそうに眠るめいこを見ながら、“今”を大事にしようと思った、クリスマス翌日の朝のこと。
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