FRBは何を言っているのか?2022年の米国株はFOMC議事要旨発表のタイミングで天井をつけている
■1981年12月に銃でFRBを襲撃したジム・ヴォンブラウン。ターゲットはFRB議長のポール・ボルカーだった
1981年12月にジム・ヴォンブラウンという男が銃を持ってFRBを襲撃しました。セキュリティーガードと戦ったヴォンブラウンは最終的に逮捕され、刑務所行きになり、殺人未遂で6年の刑を言い渡されました。
彼のターゲットはFRB議長であるポール・ボルカーでした。ポール・アドルフ・ボルカーは1979年にカーター大統領によってFRB議長に任命されました。彼のミッションは暴走しているインフレを抑制することでした。
■インフレ抑制で明暗分かれたボルカーとミラー。ボルカーは積極的な引き締め政策で米ドルの信認を取り戻した
ボルカーの前任者であるビル・ミラーは強い引き締めに反対で、中途半端な金融政策でインフレを抑制しようとしましたが、ことごとく失敗しました。ミラー就任してから11ヶ月で米ドルは日本円に対して34%価値を失い、ドイツマルクに対しては42%価値を失いました。世界的に米国とドルの信頼が揺らいでいました。
カーター大統領は就任1年ちょっとでミラーを財務長官に任命し、ボルカーをFRB議長に任命しました。ボルカーが就任してまもなく「新金融調節方式」を打ち出しました。これは積極的な引き締め政策でした。株式市場は急落し、いわゆる「ボルカー・ショック」が発生しました。ボルカーは1979年に11.2%だったフェデラル・ファンド金利(FF金利)を1年間で9%近く引き上げ、1981年には20%に迫ったほか、市中銀行のプライムレートは21.5%に達しました。
これは米国に深いリセッションを起こし、失業率は二桁台に上昇しました。ボルカーは政治界隈からもメディアからも強い批判にあいましたが、政策を変えずに続けました。一方で12%だった米国のインフレ率は1983年に2%台に落ちました。米ドルは信認を取り戻し、米国経済はその後、強い経済成長を実現できました。
■FRB議事要旨は「マンボージャンボー」。政治圧力に弱いパウエル議長が屈したことによるものか?
米国は現在1980年代以来の高インフレに直面しています。消費者物価指数(CPI)は7月に8.5%でしたが、80年代の計算方式を使えば実はボルカーの時代より高いインフレが発生しています。
パウエル議長はもちろんボルカーではありません。どちらかといえばミラーに近いのではないかと思います。ミラーも彼の前任者であるバーンズ議長も、ともに政治圧力に簡単に屈し、思い切った政策はできませんでした。パウエル議長はトランプ前大統領との関係からもわかるように政治圧力に弱いです。
今週発表された7月のFOMCの議事要旨を見てもその傾向が見えます。ブルームバーグの記事から抜粋すると「金融政策スタンスが一段と引き締められるのに伴い、政策金利の引き上げペースを減速させ、同時にそれまで実施してきた政策調整が経済活動とインフレに与えた効果を精査することがいずれ適切になる可能性が高い」と記されています。
何を言っているのかさっぱりわかりません。
エコノミストである私がわからないくらいですから一般投資家がわからないのも無理もありません。内容はマンボージャンボー(デタラメという意味)です。何を言いたいのか曖昧にしているのは、11月に実施される中間選挙を意識しているからだと思われます。
中間選挙前に資産価格をあまり下げたくないでしょう。しかし、バブルテリトリーにある資産価格を下げないでインフレ抑制は夢話です。
■2022年の米国株はFOMC議事要旨発表後に下げやすくなっている。6月からの反発は下げ基調に変わった可能性高い
米国株は、景気悪化によってFRBはピボットする(政策転換、引き締めから緩和へ)という期待感から、6月から大きく反発しています。
しかし、どんなに曖昧でもFOMCの議事要旨からFRBが近いうちにピボットするという情報がとれないし、実際にCME(シカゴマーカンタイル取引所)のFF金利先物を見ても、9月のFOMCで0.75%の引き上げの可能性がFOMC議事要旨発表前に比べ、若干ですが上がっています。
実は今年に入ってから面白い出来事が起きていて、米国株はFOMC議事要旨の発表後に下げやすくなっています。今回もおそらくそうなると思っています。つまり、米国株の6月からの反発は下げ基調に変わった可能性が高いと考えています。