野饗(のあえ) / 羈旅(きりょ)
野饗(のあえ)
翡翠(かわせみ)のひだりの脚に結ぼれて
惜しみなく無季の散華にゆらめきながら
天蓋にあわい軋みを引きずってゆく
わたしの戀文
あなたのもとに届くはずもなく。
蘭の密語をしたたってきては
すこしずつ午睡のさなかに溜まる
やわらかな壊死。さんざめく湖畔の揺らぎのような
方解石と 柘榴の砕け。
それもあなたの知るところにあらず。
されば、銘もなき句碑と水鏡とを跨ぎ
あだめく懶惰にたぶらかされつ
めくるめく拉鬼体を棚引き
おぼろ艘なる游禽に 心ならずも礫を投げる。
御簾紙を契りて記す萬葉緯の一節
一陽来復。ぬばたまの月夜
類のごとき走狗らに馳走をふるまいながら
帆座のもと 躑躅の満ち満ちる野をはなやぐ。
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