見出し画像

文化としての映画・ドラマ 「言葉~翻訳編」英語字幕はAIを超えるか

本日は自由民主党の総裁選挙投票日
結果は石破茂氏が決選投票を制して新総裁に選出されました
10月1日には臨時国会で第102代首相に指名されます
国内外とも問題山積ですがぜひ良い方向に導いていただければと
切に願います(蛇足ですが野田さんと同い年ですね)

さて、第76回エミー賞で18部門受賞の「SHOGUN 将軍」ですが
先日のコラムで真田広之さんがこだわったと仰っている
authenticity”ってなにか?について「衣装」をテーマに
書かせてもらいました
今回は「言葉」それも真田さんがこだわった「日本語」の英語字幕化
についてです

「SHOGUN 将軍」ではネイティブの日本人俳優が日本語の会話を行うことに
徹底的にこだわり、これまでのハリウッド制作の映画やドラマではなかった
「英語字幕」を多用して日本語の美しさが耳から伝わるようにしています
脚本は英語で作成されており、それを日本語に翻訳
さらにそれを字幕用に英訳したそうです
なんとお手間入りな!

提を使ったお酌の場面

「SHOGUN 将軍」を見ていると16世紀の日本の武士社会の独特の
言葉使いとともに、短歌を詠んだり禅問答のような会話が度々出てきます
その中のひとつ 第6話「うたかたの女たち」の中の「菊とはなの会話」が
具体的にどのような翻訳になっているか見てみました

空の台

SHOGUN S1 : 第6話 38m26s~ “菊とはなの会話”
 菊:「はな、ひさげのあったところに何が見える?」
 【字幕】Hana,look where the flask just was. What do you see?
 はな:「何も見えませぬ、姐さま」
 【字幕】I see nothing,Elder Sister.
 菊:「おまえが見ているところには今ひさげは無い」
 【字幕】You see where the flask is no longer.
  「無いからこそ確かにあったのだと思うのでしょう」
 【字幕】Presence is felt most keenly in absence.
 はな:「はい、姐さま」
 【字幕】Yes,Elder Sister

回答に窮するはな

なんとも哲学的な禅問答を菊は禿のはなに対して行います
これははなを通じて鞠子に投げかけられていると思われます
さてこの英語字幕は上記のとおりです
元の脚本がどうなっていたかは資料が無いのでわかりませんが
上手いこと訳すもんだなぁと思いました

禅僧のような菊

この英語字幕を「ChatGPT」と「Gemini」に再度日本語訳して
もらうとそれぞれどう訳すか? こうなりました

【ChatGPT日本語訳】
「ハナ、さっきフラスコがあった場所を見て。何が見える?」
「何も見えません、お姉さま。」
「フラスコがもうない場所が見えるでしょう。
 存在というものは、いなくなったときに最も強く感じられるのよ。」
「はい、お姉さま。」

【Gemini日本語訳】
選択肢1:直訳に近い表現
「花、さっきフラスコがあった場所を見てごらん。何か見える?」
「何も見えません、お姉様。」
「フラスコがもうない場所が見えるでしょう。
 存在は、むしろ不在の中で最も強く感じられるものよ。」
「はい、お姉様。」

選択肢2:より文学的な表現
「花よ、先ほどまでフラスコがあった場所をじっと見てごらん。
 何か見えるかい?」
「何も見えません、お姉様。」
「そうね。フラスコがもうないその場所こそが、最も強く存在を感じさせるものなのよ。 不在こそが、存在を際立たせるものなのだから。」
「はい、お姉様、よくわかりました。」

ChatGPTとGeminiの直訳に近い表現はほぼ同じでした
Geminiの文学的な表現版は本質の部分を具体的に説明しています
これと比較すると実際の菊の言葉はより哲学的な表現ですね
英語字幕は、菊の言葉の本質が伝わるかどうかは別として
伝えるべき内容はある程度的確に表現できていると思いました

こうしてみると日本語にこだわって全編の約70%が日本語のセリフに
なっており、それを英語字幕で対応して非日本語圏の視聴者に
ドラマ中の日本人のセンシティブでナイーブ、エステティックな
感覚・感情が上手く伝わるように翻訳していることがわかります
まさに“authenticity”だと感じました


いいなと思ったら応援しよう!