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345.みなえみ日和4 ~耳をすまそう~
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まるで、出迎えてくれているように、まあるいフォルムの葉が、黄緑、黄色、橙、赤に色づき、どこを見ていても美しくて、見飽きることがない。
木々の声は優しく、何枚写真を撮っても、納めきれない。
茶色くなった皮がはぜて、つるりと表れた白い実は、清らかな鈴のようだ。
いっせいに鳴り出したら、どんな涼やかな音がするのだろう。
(本文より)
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初めて降り立ったJR同志社前の駅は、改札が地上よりも上にあって、一面の田んぼと山が見晴らせる。
目的地の方角には、歩道橋がカーブを描いてまわりこんでいて、空に突き抜ける木の梢が、緑から赤への、美しい秋のグラデーションを描いてそびえているのが見え、思わず走り出す。
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手すりから乗り出して下を見ると、地面は、はるか下。
ずいぶんと高い木なのに、歩道橋の上にいるので、すぐ目の前に梢が揺れている。
葉にふれることもできる。
「なんきんはぜ」という木だと教えていただく。
まるで、出迎えてくれているように、まあるいフォルムの葉が、黄緑、黄色、橙、赤に色づき、どこを見ていても美しくて、見飽きることがない。
木々の声は優しく、何枚写真を撮っても、納めきれない。
茶色くなった皮がはぜて、つるりと表れた白い実は、清らかな鈴のようだ。
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いっせいに鳴り出したら、どんな涼やかな音がするのだろう。
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ふいに、羽ばたきの音とともに、鳥が飛んできて、白い実でいっぱいの梢に止まる。
その姿は、アールヌーヴォーのデザイン画のように美しく、みとれてしまう。
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何の鳥だろうと調べると、遠目だからはっきりとしないが、くちばしの色や、頭部の白い毛の混じり具合から、むくどりだとわかった。
小学生のころ、『むくどりのゆめ』という絵本を読んだことを思い出す。
帰宅してから、『むくどりのゆめ』の物語を読んだ。
小学生のころには、想像しても届かなかった行間の奥行に、胸がいっぱいになる。
おとうさんむくどりの心。
こどもむくどりの心。
おかあさんむくどりの心。
どれもわかる。
物語に描かれている「一枚残った枯れ葉の鳴る音」が、聴こえてくる。
そのカサカサとした音に秘められた、おかあさんむくどりの愛。
ハートがくるまれ、やさしさがしみていくのを感じる。
浜田えみな
「みなえみ日和」は、3と7のつく日に、おもてなしの心で連載します。
これまでの投稿は、マガジンでお読みいただけます。
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