295.白澤裕子ちゃんとのてんけん隊復活! at 室生山上公園芸術の森(3) ~夢の中~
圧倒的な静けさの中にいるのに、何かを感じる。
巨大な磁場に立っているように、何かが身体をかすめて、動いている気配を感じる。
(この感覚を、どう表現したらよいのだろう?)
ずっと考えていて、
(夢の中だ)
と思いあたる。
(本文より)
◆リーフレットは、ひらかない
◆夢の中
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◆リーフレットは、ひらかない
大野寺から室生山上公園芸術の森まで、裕子ちゃんのスマホナビと、道路に次々と現れる標識や看板に導かれて、登っていく高揚感。
山に抱かれた広い駐車場に車を停めると、入り口らしきガラス張りの明るい建物が見える。
券売機で入場券を買って、受付のおばさんに渡すと、引き換えに、蛇腹に折られた施設案内のリーフレットをくれる。
展開すると、園内全景と、公園内に点在するアートの名前と説明が詳細に書かれている。
私は、もともと、こういうものは隅々まで読み、内容を把握してから鑑賞するタイプだけど、裕子ちゃんといると、そういうことはどうでもよくなってくる。
建物は、天窓からの光が差し込み、とても明るく、白い椅子と机が並べられていて、休憩することもできる。
壁には、園内で撮影されたと思われる季節の光景や、花や、生き物の写真が展示され、大きなカエルの写真もあり、こんなのがいるんだねぇと、裕子ちゃんに話しかけながら、進んでいく。
リーフレットは、ひらかない。
公園は広く、遠くまで見晴らせ、迷子になることもない。
アートは、存在している。
名前や由来を知っても知らなくても、在る。
見たまま、感じたまま。
見る順番とかが、あるかもしれないけど、宇宙に任せる。
裕子ちゃんといると、そんな自分になっている。
◆夢の中
建物を出ると、そこに広がるのは、
山。草。広。静。整。清。
奥まった室生の山の中に、整備されたグリーン。
山上公園という隕石が落ちたように、まわりに抱かれ、溶け込んでいる不思議な空間。
圧倒的な静けさの中にいるのに、何かを感じる。
巨大な磁場に立っているように、何かが身体をかすめて、動いている気配を感じる。
(この感覚を、どう表現したらよいのだろう?)
ずっと考えていて、
(夢の中だ)
と思いあたる。
現実の世界ではありえないことでも、夢の世界では、当然のように受け入れて、違和感のない状況。
特殊な世界観の中で、なにもかも全肯定で進んでいくストーリー。
夢の中の出来事のような場所。
うすぐもりの空も。
人工的に整地され、手入れが行き届いた芝生のあざやかなグリーンも。
それをとりかこんでそびえる、昔からの山々も。
(日常の中に現れた非日常)
(巨大なアートの夢の中にいる)
意図すれば、どこにでも行けそうな気がする。
そんなアートが、いたるところにある。
不思議なものが、ちらばっている。
裕子ちゃんは、さっそく木のうろにぽっかり空いた穴をのぞきこんでいる。
不思議の国のアリスの世界。
「これは何?」
というものがたくさん。
自然のままでは、絶対に存在しないものなのに、調和して感じられるのはなぜだろう。
室生の山奥に、いきなり出現しているこの平地は、地滑り対策のために整地された跡地を利用した公園とのこと。
人と自然が共存するために創られたものだから、すべてがなじんで共鳴しているのかもしれない。
作品は、イスラエルの彫刻家 ダニ・カラヴァン氏によるものだそうだ。
帰宅してからひらいたリーフレットには、
「自分の作品は、その場に立って、歩いて、触って、嗅いで、耳を傾けて初めて本当にわかってもらえるものだ」
という言葉が載せられている。
そのとおり、裕子ちゃんと私は、歩いて、降りて、触って。
不思議なアートを、てんけん三昧。
てんけんしているときは、なんだろうなあと言いながら、登ったり下りたりのぞいたり。
あとでリーフレットを見ると、鉄橋のようだと思ったゲートは、奈良から伊勢へと重要な寺社仏閣(伊勢神宮・斎宮跡・三輪山・室生寺・長谷寺・箸塚古墳など)をつなぎ、古代の太陽信仰にもつながっているのではと言われる北緯34度32分の「太陽の道」を視覚化したものだと書いてあり、びっくり。
広い公園地には、私たちのほかには、小さな子どもを連れた三人家族の姿が見えるだけ。
はしゃいでいる様子なのに、声はきこえず、まるで蜃気楼のように、視界から消え、また、現れる。
(思いきり……)
走り回りたいような、歌いたいような、寝転がりたいような、できないような。
(圧倒的な静けさの中にいるのに、何かを感じる)
(巨大な磁場に立っているように、何かが身体をかすめて、動いている気配を感じる)
その気配が、ずっと消えない。
山の中なのに、空が突き抜けている。
みえないなにかがあり、とてつもないどこかに、つながっている通路のよう。
林の中に入っていく遊歩道を歩くと、ふわふわの感触がとても気持ちいい。
自然と調和した色合いと質感が持つものとして、間伐材などの木質チップと樹脂材を混合して作られた、特別な歩道用の舗装材だそうだ。
幻想的な林に足を踏み入れていく感覚は、わくわくする。
くもり空で日が差さないので、まだ、朝露が残っているような、みずみずしさ。
かわいらしいコケ。
ハート型の葉。
真っ赤なへびいちご。
しゃがみこんで、カメラを構えていたら、裕子ちゃんに写真を撮られていた。
公園内には、売店も休憩所もない。
一番大きな池(マップには「第1の湖」と記されている)のまわりには、観覧席があるので、そこでお昼にする。おにぎりや、どらやきや、裕子ちゃんの実家からおくられてきた桃のコンポートや、ナッツ。
すぐ目の前には、木がこんもり植えてある小さな島がある。
その向こうには、ピラミッドの島がみえる。
どこからか、低音の鳴き声が響いている。
「ウシガエル?」
「写真あったもんね」
「いるんだね」
姿は見えないけれど、どこかで鳴いている。
ウシガエルは、卵も、オタマジャクシも、大きいのだろうと思った。
裕子ちゃんが、ピアスに目を留めてくれたので、
「そうだよー。裕子ちゃんが、これからのえみなさんに、連れていきたい服かものを身に着けてきてねって言ったから、つけてきたんだよ」
と、外して見せていたら、アクアレムリアの中に、湖が、そっくり逆向きに映っている。
「いいね!」
と言って、裕子ちゃんが写真を撮ってくれた。
今日、翼を描いてもらうために、ここにいる。
浜田えみな
つづきます。次はいよいよ、お絵描きタイム♪
前回のてんけん
旅する絵描き 木の葉堂 白澤裕子さんのHP
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