【ペア活】下関春帆楼&広重―摺の極―展&キングダム(2024.8.16)
何から何までよい。名所絵に描かれた各所の風景や人々は、その時代を教えてくれる。
ほんとうに、人々は、このような場所で、このような風景を観て、このような着物を着て、このような髪をして、このようなものを食べ、このような仕事をして、このように賑わい、このように生き、このように旅をしていたのだと、感じることができる。
広重が描く人物たちの表情やしくさ、たたずまいが、だれ一人として雑でなく、それぞれの個性を持ち、人生を背負い、昨日まで生きてきて、明日からも生きていく、その一瞬のひとときが切り取られている、そんなあたたかさと鼓動が、ある。
(本文より)
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毎月恒例の美術館デート。8月は、あべのハルカス美術館で広重―摺の極―展を鑑賞した。
ランチはハルカスダイニングの「下関春帆楼」で、ふく会席を堪能する。
要介護の家族がいると、旅行に行けず、ディナーも行けず、物欲もないから、食べることしかレクレーションがない。しかもアラ還。元気で、なんでもおいしく食べられる時間は、そんなに多くない。というわけで、夫とのランチの単価は、上昇中。
この日は、父が薬の調整で入院していて、介護から離れたため、何年ぶりなのか思い出せないくらい、久々に、広重展のあと、続いて映画館へ。
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まずは広重展(ふく会席は後述)
葛飾北斎と並び、名所絵と花鳥画でその名を馳せた歌川広重。永谷園のお茶漬けのパッケージに入っていた、「東海道五拾三次」のカードは、今も記憶にある。知らない人はいないくらい、日本の家庭に、浮世絵と広重の名が浸透したのは、このためだと思う。
美術館のフロアに入ったとたん、入場待ちの人があふれ、列を作っている光景が目に入る。これまで、何度もハルカス美術館に来たけれど、入場待ちの列を観たのは初めてだ。
お盆休みということもあったかもしれない。こんなに人気だとわかっていたら、週をずらせばよかったと悔やんだけれど、仕方がない。
待ちながら、夫と「永谷園のお茶漬け」の話をする。夫は、応募券を集めて送ると、抽選で当たるフルセットのカードも持っていたという。きょうだいが5人なので、お茶漬けの消費量も多いのだろう。それにしても……。
永谷園のお茶漬けを、何度も食べたことは覚えていて、あられだけつまんで食べたことも、お茶碗にくっついてとれない海苔も、不思議な緑の粉も、あざやかに覚えているけど、どういうときに食べたのかが思い出せない。少しお腹がすいたときに食べたのか、おかわりのごはんをお茶漬けで食べたのか。どちらにしても、子どものころは、お茶碗1杯で終わることはなかったから、おかわりの時に、お茶漬けをしたのかもしれない。
話しているうちに、列が進んでいき、ようやく、入場できたが、すごい人。しかも、作品が小さいので、近寄らないと見えない上、点数が多いので、進むのが遅い。久々に大混雑の美術展だ。
しかし、何から何までよい。名所絵に描かれた各所の風景や人々は、その時代を教えてくれる。
ほんとうに、人々は、このような場所で、このような風景を観て、このような着物を着て、このような髪をして、このようなものを食べ、このような仕事をして、このように賑わい、このように生き、このように旅をしていたのだと、感じることができる。
みているうちに、広重が描く人物たちの表情やしくさ、たたずまいが、だれ一人として雑でなく、それぞれの個性を持ち、人生を背負い、昨日まで生きてきて、明日からも生きていく、その一瞬のひとときが切り取られている、そんなあたたかさと鼓動が、ある。
服に隠れた部分、肉の下の骨のかたちまでわかるほど、ひとりひとり描き分けられていて、表情がかもしだすニュアンスが、味わい深い。
広重の原画もさることながら、彫った人がすごい。ほんの少し角度が違うだけで、長さが違うだけで、まったく違う表情になるだろうに。
人物は小さいけれど、ひとりひとりの人生が、ちゃんと息づいている。声が聴こえてくる。
このすごさは、なんだろう!
(あとで調べると、「広重おじさん」として、すでに大人気だとわかった)
展示を観ていると、行けども行けども、「所蔵」の欄は「ジョルジュスコヴィッチ」
ほとんどすべてが、このかたの所属なのだ。
(このかた、何者?)
「パリ在住の浮世絵コレクター」とのこと。
このようなかたがいてくださるから、貴重な作品がバラバラにならず、研究や、さまざまな企画展示ができるのだ。
今回は、「摺(すり)の極(きわみ)」ということで、初摺と後摺の作品があわせて展示され、違いを観ることができた。色だけでなく、船や灯りが消されるなど、図柄が変わっているものもある。
背景のぼかしの入れ加減は摺師の技量で、版によって違う。
浮世絵は、版元、絵師、彫師、摺師がチームとなり、ディレクションすることによって、完成する。
綿密にディレクションがなされている「初摺」に、価値があるとされている。
今回の広重展は、世界的にも希少な初摺作品が集められている。
〈摺(すり)の極(きわみ)〉
会場で、いたるところに「歌川広重」と表示されているのを観ながら、脳裏には「安藤広重」がリフレインしている。たしか、「安藤広重」で覚えていたはずなのだ。
夫に尋ねてみると、教科書の表記が変わったという。調べてみると、経緯が詳しく書かれていた。
「聖徳太子も、今は載ってないで」というので、びっくりして、美術館の中で問いただしてしまう。
「どういうこと!?」
これも、調べると書いてあるのだけど、「厩戸皇子」となったり、「厩戸王」となったり、「(聖徳太子)」を併記するようになったり、2017年から、いろいろ変わっているよう。
(うちの子たちは、どうなんだろう?)
息子が1999年、娘が2002年生まれだから、ぎりぎり、教科書に「聖徳太子」という名前が使われていたかも。
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今回の展覧会では、よく知られている名所絵、花鳥画以外の作品も多く展示され、人々の生活に密着した仕事として、封筒やうちわの絵があり、貴重な肉筆画や版下画も観ることができた。
大混雑の館内にくらべ、ミュージアムショップは混雑していなかった。おじさんグッズに心ひかれつつ。
映画の時間まで、シネマの近くの珈琲館で休憩をして、『キングダム 大将軍の帰還』鑑賞。
タイトルの意味がラストでわかる。
最後に、ふく会席の記録を。
だしのおいしさが極まっていて感動。
ふぐを食べようと思った人はすごい。あのように薄造りで食すことを考えた人は天才。
口の中で、むすばれ、ほどかれるハーモニーって、至福。
【食前酒】梅酒
【先付】鯛わた塩辛
【前菜】季節の五種盛り
【椀物】ふく真丈・舞茸
【造り】ふく薄造り小皿
「冷製ヒレ酒」
【焚合】海老の黄身煮、里芋、高野豆腐など
【蒸物】茶碗蒸し
【揚物】ふく唐揚げ
【台物】ふくちり小鍋
【食事】ふく雑炊 香の物
【水菓子】すいかとプリン
浜田えみな
翌月の美術館デート
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