305.てんけん隊 at 滋賀県立美術館「塔本シスコ展」ほか(後編) ~「信頼」している~
(ちいさいころに、還っていけばいいのだ)
と思う。
いつでも、冒険に旅立つことを夢見ていた日々。
いつでも、「フロンティアスピット」に満ちていた日々。
(つまり「てんけん隊」だ)
(本文より)
◆たまごが逃げる
◆ボディペインティング
◆「声」
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◆たまごが逃げる
ランチは、草津にあるcafe tora魚寅楼の厚焼きたまごサンド
創業江戸後期の料亭旅館 双葉館魚寅楼のスペースを利用して、2021年のオープンしたばかりの、「厚焼きたまごサンドとかき氷」のカフェだ。
国指定有形文化財の建物というだけで、心が躍る。
草津が、東海道53次の52番目の宿場だということを、すっかり忘れていたので、現地について、タイムスリップしたように、それらしい町並みの中に入り込んでいるのを知って、
(こういうの、めっちゃ好き!)
と、わくわくする。
ランチタイムの混雑が一段落したころだったようで、並ばずに中に通してもらえた。
靴を脱いであがる。
ひんやりとした廊下がここちよい。
風鈴がたくさん吊るされている。
湖国百選の庭を観ながら食事ができるという大広間は、満室だったので、手前の小さな部屋に通された。
シスコ展のエネルギーがすごかったので、静けさがありがたい。
名物の「厚焼きたまごサンド」を注文した。
「からしマヨネーズをつけていいですか?」と尋ねられて、うなずく。
裕子ちゃんも私も、食べるのは初めて!
目の前に置かれた「厚焼きたまごサンド」どうしたら、このように、美しく均一にきめ細かく密にできあがるのか、ありえないほどの厚み!
先にたまごサンドを持ち上げた裕子ちゃんの第一声は、
「重い! たまごが逃げる!」
手をのばしてみると……
(ずっしり!)
(この重さは……)
何個のたまごを使って作っているのだろう?
食べようとすると、特性からしマヨネーズがすべって、パンから落ちそうになる。
それを、両手で支えて、かぶる。
(ジューシー)
(ふわふわ)
(やさしい、おだしの味)
さすが、老舗の料亭のだしまきだ。
調子に乗って、二口目をかぶりつくと、
(熱い!)
中は、アツアツで、口の中で、はふはふ。
(おいしー――い)
たまご料理は、なんて最強なのだろう。
サラダも、ちょっぴりなのに、新鮮で、ドレッシングがとってもおいしくて、大事に食べる。
廊下には骨董品が飾られてあり、美術館のよう。
坪庭のしつらえも趣がある。
宿場町としての草津の町並みに後ろ髪をひかれつつ、次なる目的地へ。
◆ボディペインティング
シスコ展のあとは、裕子ちゃんの提案で、「カラオケ」に。
到着してからわかったのだけど、歌をうたうことが目的ではないのだった。
草津のカラオケ店は、裕子ちゃんが、昨年から依頼を受けている絵本製作の作業場だそうだ。
大阪方面から高速道路を使って車でやってくる作家さんと、滋賀県に住む裕子ちゃんが(……二人の中間点でもなんでもない、私にすればよくわからない地点だけど)、草津で待ち合わせて、作業をやっているとのこと。
たしかに、カラオケルームは、絵を描くのに十分な大きな机と、その気になれば寝転がれるスペースがあり、フリードリンク付き。
裕子ちゃんによれば、歌ったり踊ったり、太鼓を叩いたりしながら、話をしていると、ひとりで考えていても出なかったアイデアが浮かんできたり、ひらめきがあったりして、どんどん作業が進むのだそうだ。
それで、私にも、声をかけてくれた。
前回の室生山上公園芸術の森で、友だちが歌っている光景ばかり、心に浮かんだから、歌ってみるのもいいかも! と思い、まったく予想外の展開だけど、シスコ展のあと、カラオケに。
カラオケ店に行くのは、30年ぶりくらいだ。
足を踏み入れて、昭和な感じのシャンデリアにびっくり。
3曲ずつ歌う。
そのあとは、ボディペインティング。
イベントで、子どもに描いてあげると、その子に力が宿るのがわかるのだという。
私は、生まれてから一度も、ボディペイントをしたことがないし、したいと思ったこともない。
だから、
「描いてみる?」
と言われても、どうしていいかわからない。
くそまじめに生きてきた私は、人にどう見られるかなどが、心をよぎる。
そのくせ、背中や胸に描いてもらいたいなどと思ったりもする。
カラオケルームの残り時間が15分ほどだったので、腕に描いてもらうことに。
(何が生れるか)
最初に描いてくれたのは、青い羽根。
変化が起こったのは、ピンクの羽根が生れたとき。
ピンク色の絵の具が皮膚にのったとたん、胸の中に、広がる体感。
(ラブリー、スウィーティー、ハーティー、ドリーミィ)
あまくて、あたたかくて、いとおしくて、おしみなくあふれる気持ち。
色が皮膚にのるだけで、この体感!
その後も、裕子ちゃんの思うままに、うずまきやら、葉っぱやら、ラメやら、なんだかんだが、いっぱいに繰り広げられていく。
なかでも、
(赤!)
赤が皮膚にのったときの感覚ときたら!
ざわざわ。むらむら。ぐらぐら。ぎらぎら。
たぎる。湧く。うごめく。吠える。
吸血鬼になったかのように、血潮が騒ぐ感じ。
こんなになるとは思わなかった。
赤い絵の具が体にのるだけで、鼓舞される。
強心剤みたいな効果。
色もだけど、形も、来る。
裕子ちゃんの筆先が、曲線を描いたり。
すっと伸びていったり。
いくつものドットができたり。
潜在意識の層が撹拌される。
先住民のボディペイントにも、きっと意味があることを実感する。
このとき、腕の内側いっぱいに描かれたものは、一体何を表しているのだろう。
裕子ちゃんもわからないと言っていた(笑)。
私が内包するものが、混沌としているせいなのか。
幾層ものレイヤーが透けているのか。
だけど、この先どこかで、このたくさんのモチーフのいずれかに、似たかたちの何かに出逢えたら、おもしろいと思う。
裕子ちゃんも、自分で描いた。
描き始めのころは、星雲のようだと思ってみていて、やがて、つぼみのようになり、最終的には、茎と葉ができて、花になった。
車の中で記念写真。
ボディペインティング初体験。
なんて、パワフルなのだろう。
やみつきになりそうだと思った。
どうしてもやらなくちゃいけない何かがあるとき。
血をたぎらせたいとき。
鎮めたいとき。
癒されたいとき。
最初は小さく。
だんだん大きく。
最初は腕に。
次にハートに。
しだいに、だいたんに。
描いたら、踊りたくなるだろう。
足を踏み鳴らしたくなるだろう。
太鼓を、叩きたくなるだろう。
(カラオケルームだと、なんでもできる!)
ペイントが腕にあるうちに、このパワーを借りて、てんけん隊のレポートを書くときめる。
あっというまにタイムリミットの15:30。
裕子ちゃんは、お子さんのお迎えに。
裕子ちゃんとコラボでやりたいセッションのことなど、てんけんのときに話そうと決めていたのに、シスコ・パラダイスが強烈すぎて、ぶっとんだ。
ボディペインティングも、すごかった。
(わたしたちって、天才!)
◆「声」
帰宅後、裕子ちゃんから届いたメッセージ。
前夜、引いたというオラクルカードを送ってくれた。
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【声】
「写真より 指紋より 血液型より あなたの今を証明してしまう」
歌うこと、話すことに注目してみましょう。
そして、歌いましょう。声に出して話しましょう。
あなただけの言葉、あなただけの話題、あなたにしか歌えない歌があることに気づいてください。
ゆったりほどけたからだから発せられる声は、ありのままのあなたを表現します。
****************
(えー――――――っ)
(なにこれ、なにこれ)
(今日のわたしたち、そのもの!!)
裕子ちゃんが歌った歌は、
「銀の龍の背に乗って」
「陽の照りながら雨の降る」
「深夜高速」
私が歌った歌は、
「瑠璃色の地球」
「いのちのうた」
「Love is All」
それぞれが歌った歌が、相手の「今」を証明しているのだろうと思ったりする。
地球とか、いのちとか、愛とか、裕子ちゃんっぽい。
そして、裕子ちゃんが歌ってくれた歌は、とっても響いた。
歌を聴いて、メモしたことばたち。
「らしんばん・ひな・龍・渦・山動く・群れ星・届けに行く・漂流者・こわしたい・種をまいていく・エルマーの冒険・絵を描きたい」
「らしんばん」という言葉をみて、裕子ちゃんが赤で描いてくれた太陽のようなマークが、羅針盤にみえてくる不思議。
裕子ちゃんは、カラオケルームに入るやいなや、ささっと、
「歌のつばさで時空を自由にたびしよう」
と書いていた。
私が書いたことばは、裕子ちゃんが歌ってくれた歌詞だ。
「絵を描きたい」というのは、カラオケの映像で、色鉛筆でスケッチしている様子が流れていて、ふいに描きたくなったもの。
『エルマーのぼうけん』は、歌を聴いていたら思い出した児童書。
私が持っていて、小さいころに何度も読んだのは、『エルマーと16匹のりゅう』の本だ。
冒険とファンタジーの原点。
(ちいさいころに、還っていけばいいのだ)
と思う。
いつでも、冒険に旅立つことを夢見ていた日々。
いつでも、「フロンティアスピット」に満ちていた日々。
(つまり「てんけん隊」だ)
裕子ちゃんが送ってくれたカードの言葉を、読み返す。
〈あなただけの言葉、あなただけの話題、あなたにしか歌えない歌があることに気づいてください。
ゆったりほどけたからだから発せられる声は、ありのままのあなたを表現します〉
裕子ちゃんの声は、透明感があって、祈りのようで、魂に届く。
私の声は、裕子ちゃんのメッセージによると、
「えみなさんの声、まっすぐさや純粋さが際立つ歌だったよ。すごくよかった❤️」
互いに同じようなことを感じているのだとわかった。
カバーデザインを依頼したり、翼を描いてもらったり、ボディペインティングをしてもらったり。
つまり、私は、裕子ちゃんを〈信頼〉している。
信頼しているって、なんて、まっすぐなんだろう。
そのことが体感できて、とても嬉しい。
浜田えみな
【てんけん隊 at 滋賀県立美術館「塔本シスコ展」ほか(前編) ~パッションを止めない~】 はこちら。
【白澤裕子ちゃんとのてんけん隊復活! at 室生山上公園芸術の森(1) ~翼に乗る切符~】はこちら。
旅する絵描き 木の葉堂 白澤裕子さんのHP