Books:Publication of Art @ Gallery Nomart

2019 8/7、8 ノマルギャラリーでの「Books:Publication of Art」でのイベントについて


 私が初めて能勢先生にお会いしたのは、Gallery Nomart で2019年8/7・8日に行われた「Books:Publication of Art」でのイベントです。能勢先生のお噂はかねてより聞き及んでおりましたので、イベントでお会いできたら写真集にサインしていただこう、と思っておりました。


  Gallery Nomartのスペースに足を踏み入れるとき、私はいつも少し高揚し緊張しています。Gallery Nomartのずっしりと重い大きくて頑丈そうなドアを開けると美しい、窓の無い天井の高い箱のような空間が広がります。その空間は、崇高で神聖な気配さえ感じさせます。

 その白い壁に、アクリルケースに収められ美しく展示されたカタログや、作品がそれぞれ架かっていました。このときGallery Nomart では、創立30周年を迎えることを記念して2019年の夏から年末にかけて、30th - Miracle vol.1から Miracle vol.5までの展覧会が企画されており、「Books:Publication of Art」はその第一弾でした。


 この30th - Miracle vol.1/「Books:Publication of Art」の展示では、入ってすぐ入口の方にテーブルが置かれ、その上に整然と、カタログなどの出版物、音楽作品のCD等が並べられていました。奥のテーブルではその机の上にさまざまな─辞書のように分厚い本、新聞や冊子などを含む─出版物が、先ほどとは幾らか対照的に無秩序に重ねて置かれ、テーブルの周囲にはすでに幾人かの方々が席につき、能勢先生を囲んで静かに語り合われている様子でした。


 この時アクリルケースに展示されていた能勢先生の写真集『ISEO NOSE MORHPOLOGY』(能勢 伊勢雄  形態学)の帯には、「シュタイナー派写真家」という謳い文句がついています。私はこの時まで能勢先生について漠然と、ライブハウスPEPPER LANDの設立者であり、《ゲーテ》に造詣の深い方であるという認識に留まっておりました。

 イベントでは能勢先生の出版物についての説明や活動について様々なお話を伺いましたが、写真集『フトマニクシロ・ランドスケープ─建国の原像を問う』(著者 写真家集団 Phenomena ・監修 能勢伊勢雄)について説明を受けた際には、能勢先生はゲーテやシュタイナー等の西欧の神秘主義にとどまらず、日本の神道にまで考察が及んでおられるのだと知りました。

 霊的世界を軸として芸術・写真・音楽・映像・出版等々と横断的につながっている圧倒されるような知識の膨大さと、能勢先生の内部で繋がる世界の全貌はいったいどのようなものなのでしょう。


 Gallery Nomartのコンセプトは、─SENSES COMPLEX─ “創造とはすべての感覚が関連しあっている 五感を超えて、感覚が交差・拡散する地点”と謳われています。ノマルのアート・ディレクターの林聡氏は特別意図していないとのことですが、《五感を超えて》とは私にとってはアートに留まらず、信仰と結びついた特別な意味を持ちます。

 それはなぜかというと、五感に注意を払い、研ぎ澄まし現象を見つめるということ、それ自体が人間にとって非常に高度な、高次の精神的な修練につながるという考え方─

ゲーテに始まりシュタイナー、カンディンスキーへと受け継がれた考えや目標─に私は惹かれ共感するからです。


 ゲーテは18世紀後半~19世紀前半で興ったロマン主義の一端、「自然と芸術には共通の法則があり、芸術家は双方の領域に関与することで、それらの法則を自らの作品のなかに開示することができるという観念を、芸術一般に適用するまでに高め」ました。その観念をシュタイナー、カンディンスキーが引き継いでいます。

 シュタイナーは、人間は五感を超えた高次の感覚によって事物の本性を把握することができる、そしてその能力は誰もが獲得可能であると説いています。

 同じくカンディンスキーは、超感覚的認識─つまり自然世界を感知するための《五感を超えた》認識能力を、喜怒哀楽などの感情に比べて「より繊細な」《情緒》として区別しており、《情緒》による絵画表現の在り方を周知させることに心を砕いていたことが分かります。そしてカンディンスキーが神智論者のことを芸術家とともに《共通の目的を持った同志》である考えていたこと等も、S・リングボム著『カンディンスキー─抽象絵画と神秘思想─』 (松本透 訳) の中では、神智論者と芸術家という両者の立場の差異を踏まえ、注意深く示されています。


 自分が芸術に信仰を希求し、芸術と自分に内在する自然に信仰を見い出しているという想いについて、リングボム氏の著書より助けを借りて何とか表すことに努めましたが、うまく伝わりますでしょうか。これからも能勢先生とGallery Nomart様の今後一層のご活躍とご発展、お祈りいたしております。


( PEPPERLAND 刊行「FINAL & NEW YEAR LIVE」


(通称・年末パンフ 2019 寄稿 )


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