正欲
GW中にずっと読みたかったこの本を読破。一体どんな内容の本なのか見当もつかないまま読み始め、読み終えたときにはこの世界の”幻想”を考えさせられてしばらく放心状態になった。
概要
ストーリーは三人の人物が起こした”児童ポルノ事件”の新聞記事から始まる。”容疑者”は矢田部・諸橋・佐々木の男三人で、児童と公園で水遊びをした際にその裸体を写真に収めていたことから捕まった。この事件の担当刑事は寺井。一見すると小児性愛者たちが起こした事件のように見える。だが、真実はそうではない。彼らは水に性的関心をもつ”異常者”だったのだ。
彼らはYoutubeのコメント欄にリクエストを送り、それらを観ることで欲求を満たしていた。ところが、Youtubeの規制が厳しくなって動画やコメントが削除され始めたことをきっかけに、彼らは自分たちで満足できる動画を撮ろうとしていた。これが冒頭の”事件”へと発展してしまう。
刑事・寺井の息子(泰希)は不登校であり、「学校は必要なくなった!」と、新時代を主張するYoutube動画を発信していた。泰希は、チャンネル登録者数を増やして認知度を上げるため、視聴者からのリクエストには常に応えるようにしていた。実はそんな泰希のYoutube動画にも、「水鉄砲や水風船、ホースを使って夏らしい遊びをしてほしい」というコメントが来ており、その送り主は事件の容疑者の一人、諸橋だった。
そんなことに目が行くはずもない寺井は取り調べを進めていくが、「話しても無駄だ」という容疑者たちの諦めの表情を何度も目にする。
”健常者”である寺井や世間の目に、事件の真相が明らかになることはなかった。。。
感想
この本のストーリーは、主要な4人の登場人物とそれぞれに関わる他の人物が共に描かれながら展開していく。時代が変わり”多様性”の素晴らしさが声高に主張されるようになった現在。美しく、素晴らしいことのように感じられる。
しかし、本当の意味での多様性とは、いつになっても実現されることはないのかもしれない。LGBTという概念だって、結局私たちは、自分が受け入れられる範囲を広げただけで、マジョリティになりたくて必死。
この世界には私たちが分からないこと、想像もできないことのほうが数多く存在する。多様性ってそれを思い知らされる言葉のはず。
私だって、みんなとは違うな、ずれてるなって感じることがたまにあるけど、でもそれが普通じゃん。自分の中の小さなものさしを振りかざして、皆を一方向に導こうとしたくないしされたくもない。
そんなことを考えさせられる一冊になった。ずっと忘れない。