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木浦のバスの中のハルモ二

先日韓半島の南端、木浦市のバスターミナルに降り立った。
同行の友人によると目的地の施設までタクシーで20分だという。
ターミナルの観光案内員に聞いたところ、
目的地まで真っ直ぐ30分で行けるバスがあるという。
時間に余裕があったのでバスで行ってみた。


木浦に行った理由はこちらをご覧ください。↓


午前10時のバスにはお年寄りが沢山いた。
席はほとんど埋まっていたけど、
常に誰かが乗り降りするので乗客は皆座れた。
途中で大きな市場を通過した。
面白そう!一度降りて歩いてみたい。
漁の道具を扱う卸問屋街も通った。
漁業用の仕事着や、舟用の黄色い浮子?が売られていて
ああ、ここは港町なんだなあと思った。
私の住む町も海はあるけど、こういうのは売ってない。


そのバスは済州島に向かう旅客船ターミナルを過ぎ、
ソウルからの列車も停まる木浦駅も経由した。
もうあと10分位で目的地に着くかなと思った頃、
あるハルモ二がのってきた。
ハルモ二といっても腰が曲がった白髪の、じゃなく
溌剌とお元気そうで、真っ黒に染まった髪が綺麗だった。


四人が一塊になって乗ってきて、
そのハルモ二が残りの三人の世話を焼いてたので
グループなかと思ったら、赤の他人だった。
そのハルモ二がここにカードをあてるのよ。
席はあそこに座りなさいと、甲斐甲斐しく面倒をみていた。
多分乗る前から世話焼いていたのだと思う。



ハルモ二も木浦の人ではないようで、でも全羅道の人なので
自分よりももっと遠くから来た人は放置しない!て感じだった。
30代くらいの女性の二人旅。
彼女達の目的地に着くには、どのバス停で降りたらいいかを
他の乗客にせっせと聞いてあげていた。
会話は耳に流れ込んできてたけど
土地者じゃない私が知る由もなく黙って聞き流してた。



ところがその場所では答えを得られなかったハルモ二は、
アクティブにも後部座席に移ってきた。
なんと私の横の空席に腰を下ろしてスグサマ私に聞いてきた。
「あの子ら、〇〇岬に行きたいんだって。
どこで降りたらいいの?」
「私も木浦の人じゃなくて、、わかりません」
「ああ、あなたも木浦の人じゃないの、
じゃあ分からないわねえ~」と
ハルモ二は別の人に聞こうと
身体をくるっと別方向に傾けた。



それを聞かれた後ろの座席のハラボジ(お爺さん)が
「〇〇小学校前で降りたらいいよ」と答えた。
ハルモ二は一番後ろの高い席に座ってた二人連れ女性に
「〇〇小学校前だって!」と伝える。
二人は「ありがとうございました~」と〇〇小学校前で降りた。



ところがバスが走り出してから別のオルシン(お年寄り)が
「〇〇岬だったら、、ここじゃなく次のバス停じゃないか?」と言い出した。ここから行ったらちょっと遠くないか?」
五分前に言えよ~。遅いよ笑
とはいえ言い切る程は確信無かったのかな。



「あら、どーしよう」と私の横でハルモ二が言うので、
私は「あの子ら若いんだから、歩きゃいいんですよ」
と、ハルモ二に全羅道の方言で言った。
「そうね。若いんだから歩けばいいわよね~」
とハルモ二はカラカラと笑った。


最初に「〇〇小学校前!」と断言したお年寄りは
「なにか?」と言う顔で平然としている、勿論。
よく知らないのに推測で教えるお年寄り~笑



次のバス停を過ぎてみると、結局どっちから行っても
距離は似たようなもんだという事が分かった。



ちなみにその二人連れは最初からスマホのマップを手に
「これ見ていくから大丈夫です」と言ってた。
ハルモ二の耳にはさっぱり入らなかっただけだった。
頼まれてないけど、ハルモ二が頑張ってただけ。
日常的にお年寄りを相手にしてる人は
お年寄り特有の「緩やか~ないい加減さと、的外れな熱さ」を
よく知ってる。
バス車内で自分たちに為にあれこれ聞きまくるハルモ二を
そっとしておいてあげたあの二人は、
お年寄りと距離の近い仕事をしてるのかもしれない。



私が韓国にお嫁に来た90年代て、
このハルモ二みたいな人が珍しくなかった。
バスや地下鉄で横に座った他人に話しかけ、
話しかけられた人も適当に話を交わしてた。




初めて会う人なのに、すぐに故郷を訊ね年齢を訊ね
結婚の馴れ初めを興味津々で聞き出し、
カバンの中の芋や柿や栗を分け合い、
気が合って情が近寄れば、手を握り肩を抱き
なんなら乗り物を降りてからは手を繋いで、
または腕を組んで歩く、という事もあった。



私はいーっぱい話かけられたので
とにかくそういう人達とよく話した。
ソウルに観光に来た大学時代の友人が
そんな私みて可笑しそうに笑った。
「あんた、食堂に座ったら横の人と喋り、
地下鉄にのったら隣の人と喋り
肉買いに行ったら店員と喋りずーっと喋って」んのね!!」


私が話好き、というのもあるけど
20年前の韓国て当時の日本ほどは買い物が
簡単じゃなかったという事情もある。
お店の人と話しながら「何がいるの?何に使うの?」
に答えないとモノ買えなかったっていう事情もあった。
ある意味、煩わしかった。
個人店いくと店主の知り合い友達みたいな
暇なアジュンマ(おばちゃん)がずらーっと座ってた。
入ったら上から下までじろりんこと値踏みされる。
この人たち私が店から出ていったら、
「あの子どこの子?」とか絶対私の噂話するわ~と思った。
もう、そういうのもさっぱり気にならなくなった今では
そんな店も少数派になった。




韓国もすっかり近代化した今、
老いも若きも、人は段々スマートになって、
こういうぐいぐいガシガシ来るハルモ二は
お年寄りの中でもすっかり珍しくなった。
でも海辺の街で乗ったバスで、そんなハルモ二に遭遇。


自分も詳しく知らないのに「あっちだよ」と断言。
でもあんまりそこを気に病まず楽観的。
(だから人の世話が焼ける)
溌剌あっけらかんとしたハルモ二。
こういう人久しぶり。懐かしい。



私の降りるバス停が近づいてきたので
ハルモ二に挨拶して降りた。
ぶおお~んと行くバスの背を見送った。



韓国語でよそものに対する意地悪を表す言葉が
あるのだけど(世界中どこにでもあるだろう)
「トッセ」という。

海際の人たちの「トッセ」は特に強いんだと、
前に聞いたことがある。
縄張りを失うと生きる道を失うから。


そういう所では逆に「情」も深くなるはずで。
だから港の女は色濃いのかな。



「しらんがな~」を免罪符に言いたい事を口にするハルモ二。
港町のバスで偶然隣り合った明るい女の先輩。
こういう人減ったけど嫌いじゃないな~。




知らなくても「教えてあげたい」の心で行動しちゃう、
気持ちが前に出てる人。見てると楽しくなっちゃう。
ただ乗っただけのバスで目にした
私のリアルコリア、ちょっとオールドテイスト笑



最初のバスからそうだったように、
その後の木浦観光はとても良かった。
風光明媚とはこのことか、、、
空にも風にも山にも太陽にも歓迎された一日でした。
元気なハルモ二って、「生きてる」って感じ。
ああいう人がお出迎えしてくれたバスは
幸先良いなって思ったのでした。

ありがとうございました。


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