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韓国映画「コンクリートユートピア」

イ・ビョンホンはかっこいい。
2022年公開の「非常宣言」ではその恰好良さが際立って
アジアのトム・クルーズみたいだった。
イ・ビョンホンはパイロット役だった。



先日イビョンホン主演の「コンクリートユートピア」という映画を見た。
で、2023年夏のスクリーンで出会ったイ・ビョンホンは
去年の彼とは全然違ってた。


ヤベえ奴キレた奴、普通じゃない。
韓国ではそういうのをサイコという。
今回の彼の役はまさにそういう役だった。
イ・ビョンホンもキャラ改編?

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ストーリーはこんな風



土地がうねる程の大規模な地震がソウルを襲い、
全ての建物が崩壊する。
外国からの救援一つ来ない所からすると
全世界的な災害のよう。もはや陽もささない。




どういうわけか高層マンション(韓国ではアパートという)の中で
たった一棟だけ崩れずに残った無傷の建物があった。
アパートの住人たちは、生き残るための自治制度を敷く。
その代表に選ばれたのが、イ・ビョンホン。


以下盛大にネタバレあり!


イ・ビョンホンは9階の一室で、
寝たきりの老母を自宅介護している男性だった。
震災後危うくアパートに火事が起こりかけた時、
それを捨て身で防いだのが彼だった。
その「犠牲精神」が評価されアパートの代表に。




韓国の首都圏にアパートを所有しているだけで
豊かな証拠なのだが、アパート間にも「階級」がある。
その揺れ残ったアパートは富裕層の建物ではなかった。
住人達の何人かは、震災前にそこで住みながら
「馬鹿にされている」感を根強く抱えていた。



その一棟の建物めがけて家を失くした近隣の人々が
寝場所を求めてワラワラと押し寄せてきた。
食料も水の備蓄も乏しく今後それを得る見込みもない中、
住民たちは非住民を締め出す決定を下す。
震災前、馬鹿にされたという思いがそこに拍車をかけていた。

その音頭をとったのがイ・ビョンホン。
アパートから締め出されれ多くの人が凍え死んだ。



アパートの男たちは狩りをするように集団で、
瓦礫の中に埋もれた食料と水を探しに行く。
不意にアパートから締め出された人間が襲ってくる。
見捨てられた怨恨を込めて。
食料探しの行脚も危険になってくる。




限りある食料と水を分配するとなると
どういうルールで分けるか?が問題になる。
自治体への貢献度が基準となった事で
アパート住人の間に階級が生まれてくる。

「密告」や「監視」が起こりはじめる。
掟を破ったものには罰則が与えられるようになる。
皆の前に引き出されて膝をついての謝罪。
「申し訳ありません」を200回。
これは噂に聞く北朝鮮社会?と思えるような。



ある狩りを終えての「大漁」の晩、
アパートで「祭り」が行われた。
その日だけは惜しみなく火を焚き肉を焼いた。
これまでの苦労をねぎらい焼酎を回す。
自家発電でカラオケを作動させて歌うは
80年代を代表する韓国歌謡曲の「アパート」
(韓国人なら誰もが知ってる大衆曲)


曲に合わせて踊り狂う住民達。
中心で歌うのは、イ・ビョンホン



この「大漁」の狩りの成功の為
人を殺してしまった男性と
心優しいその妻(看護師)がいる。
その若夫婦が物語の良心となって話が進んでいく。



リーダーのイ・ビョンホンは、どこかおかしい怪しい
変だ。と気が付いたのもその妻。
男たちが狩りに出ている間に、
なんとかイビョンホンの家に侵入し秘密を突き止める。



実はイ・ビョンホンは9階の寝たきり老婆の息子ではなかった。
本当の息子を老婆の前で殺め、そのまま居ついてしまった男。
老婆が口がきけない事を幸いに
突然襲ってきた震災のごたごたに乗じて
息子になりすました殺人者だった。


もう元の生活には戻れないことが彼にはいっそ好都合。
都市のアパートでは、ひと昔前の韓国のように
近所づきあいが密ではない事も有利に働いていた。
(東野圭吾の小説「幻夜」も阪神大震災に背景にしたなりすましの物語
 非常時にはそういう事が起こりがち)




イビョンホンの秘密が暴かれたのと同時に
アパートは外の人間からの一斉襲撃を受ける。
今度はアパートの人間が、外に放り出された。
修羅場になりイビョンホンはその中で命を落とす。



夫婦はなんとか外に逃れたが、夫の方は絶命。
生き残った妻は別のコミュニティに救われる。
完全に倒壊したアパートの中で暮らす人々だった。



「私はここで生きていても良いの?」
と妻は尋ねる。
震災後の数か月、非住民を締め出し
水と食料のある生活を続けてきた自分。
その生活は他人の命の犠牲の上に
成り立っていた事を薄々と知りながら。
妻はずっとそこに罪悪感を覚えていた。


問いかけられた女性はごく軽く答えた。


「生きてるってことは、
生きてていいってことなんじゃないの?」  終
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地震映画でイビョンホン主演ということで
「海雲台」(2009年)みたいなパニック映画かな?
と思って何の予備知識もなく見に行ってたのですが。


基本設定はボン・ジュノ監督の
「雪国列車」を彷彿とさせる作りでした。


あえて状況を限定することにより
その構造の中でもがき苦しむ「人間」を、
濃く表現しているという点が似ていました。

閉塞空間で生まれる階級社会。




「コンクリートユートピア」は世紀末、
この世の終わりを背景にして
「人間とは?」を描いたわけですが。


極限状況に置かれた人間は
自分の中での優先順位が明確になるのでしょうね。
「どちらでもいい」が許されなくなる。



だけど飢えていても満腹でも
「何故生きる」という問いに、
明確な答えなんて出るのでしょうか。


ラストに生き残った妻は、災害後の数か月
「生きられているのに、死ぬほど苦しい」
「心が喜べない」状況でした。
あえて彼女を生存者として残すという結末で、
解決を見せないまま、答えを出さないまま
話を終わらせていることが
この作品の言外のメッセージかな、と思いました。



韓国は実にキリスト教徒の多い国です。
(プロテスタント系、カトリック系共に)
日曜午前は礼拝にという人たちが沢山います。
(日本人には意外ですが仏教メインの国ではありません)


キリスト教には「主を信じるものは天国に」
という教えがあって「犠牲」が美徳なはずなのですが、
この映画には「これ以上罪を犯さず命を終えよう」
という人は全く出てきませんでした。
同じパニック映画でも、「タイタニック」だと
静かに自死を選んだ老夫婦が描かれました。
それも人の価値観の一つです。



でも韓国のパニックものは、緊急時になると
皆が俄然「生きねば!!」と物資の争奪戦を始める。
「静かにそっと死んでいこう」という人はあまり見られない。
(私が知らないだけなのかもですが)
多分それがここの「人ってそうだよね」なのでしょう。



この国の人々は、底のところで
「生きる気満々」なのかもしれません。
ただこの映画のキャストの中心年代が50代~60代。
心の葛藤に苦しむ若夫婦だけが30代。
若い世代になるとかなり違ってくるのもポイント。
イビョンホンが劇中で歌った「アパート」は
まさに還暦世代が湧く歌でした。



韓国人は食べるものもそうですが
「刺激」が好きなのでしょう。
辛い物が喉を通る時の「かーっ!!」という感じ。
「食べてる~」を感じられるあの喉ごしが。



刺激を強く感じるには「極端」である程いい。
暑い日のキンキンに冷えたビールみたいに。
極限状態って「生きてる~!」を感じられるのでしょう。



うーん、のりきれない!と最後まで映画を
飲み込めない私の横で
夫はけろっと「面白かった」と言ってました笑
2023年夏の話題作でした。
イ・ビョンホンの「コンクリートユートピア」

ありがとうございました。















































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