ふでばこ、消しゴム、鳩サブレー
学校の七不思議の噂は尽きないものの、ふりかえって今、不思議に思うのは「げたばこ」「ふでばこ」という言い方。
記憶する限り、本当にこれらに下駄や筆が入っていたためしはありません。最近はさすがに「くつばこ」「ペンケース」が主流なのかなあ。
さて、「ふでばこ」ですが、わたしは今までに一体いくつのふでばこを使ってきただろうと考えます。
かつては、お弁当箱か、というほど大きなふでばこを使っていました。
それが当時のはやりで、じゃらじゃらとチェーンがついていたり、どういうわけか小さな鏡が内蔵されているものもありました。
中にはメモ帳やびんせん、えんぴつキャップや香りのついたねり消しゴムなんかがたくさん入っているのがおきまり。
放課後や休みの日、友達とおそろいの文房具をお小遣いで買うのは楽しく、ふでばこは小学生の宝箱だったのです。
ある時期にはファンシーな文房具類とは一線を画す、特大サイズの消しゴムを持ち歩いていました。
それこそメモ帳にでもなりそうな大きさで、消しゴムの親分と呼ぶべき圧倒的存在感。
わしづかみにしてがしがしと使えるところ、そして消しゴムにありがちな「いつのまにか落ちてどこかに転がって行ってしまう」おそれがほぼないのがよいところです。
目にした友達は軒並み、おお、という顔をして「絵を描く人はこういう消しゴムを使うんだね」などと感心するのでした(そんなことはない)。
この消しゴムを使っていた頃はふでばこがパンパンで、やはり実用性には乏しい気がしていつのまにか持ち歩くのをやめました。
犬のぬいぐるみにファスナーがついているタイプだったり、メインとサブとなぜかふたつに分けて持ち歩いていたり、学生時代のふでばこ遍歴は迷走ぎみでしたが、今のわたしのふでばこはとてもシンプルかつコンパクト。
家族がバザーで買ってきた、どこかのおかあさんの手作りの一品です。
黒いナイロンメッシュの生地にファスナーがついているそれは、丈夫でとにかく使いやすい。
何年使ってもへこたれないし、汚れも目立たなくていいのです。
ここに、だいたいシャープペン一本ボールペン一本、シャチハタと、常識的なサイズの消しゴム、細い赤ボールペンが入ればOK。
スケッチだって、十分事足りるのです。
ファスナーのふちのビニールテープが花柄なのを除けば実に殺風景ですが、唯一装飾らしきものはいつか鎌倉で買った鳩サブレーのミニチュアキーホルダー。
小さいけれどリアルな作りで、見ていると素朴な甘さとあのとき見た見事な花吹雪が蘇ってくるのでした。