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<おとなの読書感想文>二分間の冒険

毎年感じる「年末だなあ」という空気感とともに、なぜか実務的にもせわしくなる師走のこの頃です。


最近、近所に公立図書館の分館が存在することを知りました。

この分館は、図書館というよりは近所のおばさんが個人的に開放している文庫に近い雰囲気です。
というのも、おそらく小学生以下の子どもたちが利用する想定で、主に児童書・絵本ばかりが並んでいるからでしょう。
バラック風(と言っていいのか)の建物に靴を脱いで上がると、部屋の中央には木製の低い本棚が並びます。
通っていた小学校の図書室は、こんなにおいがしたっけなあ。


「おとな向けの実用書も定期的に巡回して置いていて、読みたい本を予約すれば本館から取り寄せて受け取ることもできますので。。」と職員さんはなぜか恐縮するのですが、なんの、児童書や絵本を気兼ねなく読める空間がありがたいのですよ!


それにしても、ここは開館日がまばらで、いつもガラガラ。
ふたりの職員さんは、訪れるとほぼつきっきりで対応してくださいます。
比較的本の状態がきれいなのは手入れの賜物か、はたまた借りる人がいないからなのか。
わたしにとっては大変快適ですが、利用者不足でいずれ閉館に追い込まれはしないか、そればかりが気がかりです。


この分館の書架で目に留まり、しゃがみこんで引き出した一冊が、この本。


「二分間の冒険」
(岡田淳 著 太田大八 絵 偕成社、1985年)


悟が黒猫「ダレカ」に導かれ突如迷い込んだ世界には、深い森の中で子どもたちだけが暮らしている村があった。
同級生のかおり(この世界では、かおりは悟のことを見知らぬ人と認識している)とともに、悟はりゅうの館に向かい、強大なりゅうと戦うことになる。
りゅうを倒すことはできるのか?そして、この世でいちばんたしかなものに姿を変えているというダレカをつかまえ、もとの世界に戻ることができるのか?


かつて、やはり学校の図書室で、この本を手に取った記憶があります。
おおよその筋書きは覚えていたけれど、物語全体のトーンの暗さや人物の心の機微についてはあらためて発見することが多かったです。

悟は途中で何度か、これこそが自分にとってたしかなものだと思い、「つかまえた!」と叫ぶのですが、そうではなかったと気づく時の切なさ。
考えてみればこんなにつかみどころがなく、よく見えない存在というのは一つしかないのかもしれませんね。
少年からおとなに変わるとき、その通過点の物語として、なつかしく読んだのでした。


ところで、これほどの大冒険をしても、現実世界で経過する時間はほんのわずか。
飛び行く時間を追いかけ続ける年の瀬の人々にとって、なんとも嬉しい話ではありませんか。

本当に二分間というわけにはいかないけれど、本を開けばあっという間に遠くへ旅することができるのがすてきです。
気になった方、ぜひ束の間の大冒険へどうぞ。

画材費、展示運営費、また様々な企画に役立てられたらと思っています。ご協力いただける方、ぜひサポートをお願いいたします。