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大地の芸術祭の里へ

8月頭に大地の芸術祭へ行ってきた。芸術祭の開催は来年になったので、日常を見ることができたのは大きな収穫だった。

平日の3日間、主に回った場所は以下。

越後妻有里山現代美術館MonET絵本と木の実の美術館清津峡トンネル

光の館松代城農舞台

大地の芸術祭には、2009年から毎回訪れている。大げさかもしれないが、人生が変わった場所と言える。私にとっては地域の、まちづくりの、芸術の、見方、捉え方全てを変えてくれた場所だ。

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たくさんの失われた窓のために/内海昭子

芸術祭の会期以外に訪れたのは今回で2回目。コロナ禍の中、8月とはいえ平日の越後妻有は、アート作品と生活の境界が曖昧で、曖昧だからこそ、両者のすごみが際立つ瞬間を何度も体感することのできた3日間となった。

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清津峡トンネル マ・ヤンソン/MADアーキテクツ(左端に写っているのが息子と娘)

2歳の娘にとっては初の越後妻有。15歳の息子にとっては、2009年からほとんど毎回訪れている場所。2018年会期には、こへび隊として1週間サポーター活動をさせてもらい、世界中から参加しているこへび隊の方にかわいがってもらって帰ってきた。

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kiss&goodbye/ジミー・リャオ

私にとって、越後妻有が他の場所と圧倒的に違うことは、行けば「観る」という意識が研ぎ澄まされること。真っ青な空、青々とした田んぼ、豪雪に耐えるためのどっしりとした家、かまぼこ型の倉庫。風景の中に、アート作品があり、作品に対峙すれば必然的に作品だけでなく地域との対話となる。1つ1つの作品が、作家自身の表現と、そこに設置されている意義と、表現の裏にある地域との関わり全てのバランスによって存在しているからだ。

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棚田/イリヤ&エミリア・カバコフ

息子の存在も大きい。当時3歳の息子を連れて初めて行った際、重機が大好きな息子は、静岡では見ることのない雪上車に大喜び。彼にとっての大地の芸術祭は、一貫して雪上車探しの先でアート作品を見つけるというものだった。息子を喜ばせたいから私も雪上車を探しながら作品を巡る。作品の先で地域を発見するとは逆の、地域の先で作品を発見するという息子の視点からも、必然的に冬の過酷さを想像することになり、作品を含めた風景の中の様々な発見を加速させるものとなった。暑い中、草刈りをしているおじいさんを見かければ、そのたくましい腕に、何十年も同じことを繰り返してきた生活を作る手の動きに、愛着と尊敬を感じ、もはやそのおじいさん自体が芸術作品に見えてくるようになるのが大地の芸術祭の凄みだ。

目的地に行くことを達成するだけの旅とは全く違う、地域への予測不可能な発見の旅になる。そしてそれは、自身の「観る」という意識と体験から可能になる。大規模な観光施設に人の移動と集客を頼るのではなく、地域の先々にアート作品という「表現の花」が咲いており、それを巡ることで、地域の深い層を、時間軸をも超えて「体感」する旅となる。これも大地の芸術祭の凄みなのだと思う。

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農舞台で再会できたこへび隊の徳井さん。(以前大地の芸術祭に行った際、我々を素晴らしい説明でガイドくださったスーパーサポーター。お元気そうでうれしい!)

かつて小学生の息子が、夏の自由研究で「大地の芸術祭」のレポートをしたことがあった。最後の感想で、

ぼくは、きれい、楽しい、びっくり、悲しい、こわいといういろいろな感情が生まれる大地の芸術祭が大好きです。

と書いた。(北川フラムさんにお送りしたところ、コラムに掲載くださった)美術の役割が地域づくりの意義と綺麗にまざりあっていることを、シンプルに表しており、その後準備を重ねてUNMANNED無人駅の芸術祭/大井川を進めることになるのだが、かつての息子のこの言葉は今でも私の指針でもある。

大地の芸術祭は、当初から祭りに頼らないやり方だったのだ、と今回訪れて痛感した。地域を置いてけぼりにしていないからコロナ禍に日常の越後妻有を来訪しても作品と地域の力を体感することができた。

誰にとっても日常は華やかではない。淡々と、つまらなく続いていくものだ。そんな見慣れた景色の中に作品が残り、表現の花として咲き続けることで、地域をあらわし続けている。作品が地域の単なる表面的な案内ではなく、過去も未来も、事実も感情も全てを多面的にあらわす道しるべになっている、そんな日常はとても贅沢だと感じた。

アートは、このような時期だからこそ美術館を飛び出して、もっと地域に、人にコミットする機会が必要だと思う。どちらのためにも。

改めて、アートはよりよく生きるために必要だ。それは余裕がある人のための鑑賞としてという意味合いではなく、思考するという人間だけが持つ機能を刺激してくれるからだ。

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脱皮する時/鞍掛純一+日本大学芸術学部報告コース有志

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憧れの眺望/エステル・ストッカー

(息子は高校1年生に。芸術祭へ行くのには未だについてくる。高校生の彼は何を感じたかな)

今年も行くことができて本当に良かった。(10月には奥能登国際芸術祭に行くことが楽しみ)さて、私もUNMANNEDに本格的に取り組む。上手くいかなかったり、ぶつかったり、今季もいろいろあるのだろうな。それも含めて、進もうぞ。



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