【創作】ダインの壁ー1ー
ある日のことだった。亜由は、K駅前の喫茶店で、思い掛けないニュースを聞いた。亜由達、自主制作映画グループの会長の、二谷義明さんが車の事故で突然亡くなってしまったということだ。
亜由達は、主に大学生のグループで、一年後にこのK駅前に集まり、新しい映画に取り掛かる約束をしていた。全編が冬で、今は、春。三月だった。
まだ集まったばかりなので、連絡先も交換していなかった。全部、二谷さんが引き受けて、まとめて知らせるはずだったのだが、二谷さんが、皆の連絡先を知らす前、LINEなどでグループを作る前に突然いなくなってしまった。
二谷さんは、スマホに全部収めていたらしいが、事故でかなりな破損具合だったらしく、連絡先は復元できなかったと家族は言った。
それでは、困る。スタッフが集まることが困難になってしまった。
「大変なことになった」
メガネを掛けた、クールそうな渡辺光雄が言った。
「俺達、あの賞にかけてたのに。自主制作映画賞。あれ、登竜門なのに」
私達は、自主映画を撮るために集まったが、特に脚本家を目指す渡辺は、この賞に意欲満々だった。
様々な者の思惑があったが、幼い顔をした癒やし系の亜由だけは、のほほんとしていた。彼女は主役を演じることになっていたが、本物の女優になるつもりはなく、ただ頼まれただけだったから。
それでも、人が困り果てている姿は、見ていて心地いいものではない。
K駅前の喫茶店に集まって、相談できるのは、亜由と渡辺とジョウの三人だけだった。
「お互い連絡がつくのはこの三人だけか」
ジョウは、亜由の恋人役の出演者だ。
「諦めたら?」
「諦めるのかー!?ここまで準備して。あと、撮影に入るだけなんだぞ!!」
渡辺は怒り狂う。脚本を一年前から書いていたのは知っているが、少しは二谷が死んだことを悼めないのか、と 亜由とジョウは渡辺を不快に思った。
「でも、皆一年後の、1月25日にこの駅前の改札口に集まる約束してるでしょ?憶えてたら来るわよね?」
「亜由ちゃんは、いつもそう楽観的なんだ!」
渡辺は、叫びまくる。
「一年後、で何の連絡も来なかったら、忘れるに決まってる!それか、立ち消えになったと思って集まらないよ」
再び渡辺は頭を抱えた。
亜由もジョウも顔を見合わせて、残念そうな顔をした。
その喫茶店を出て、取り敢えず三人はその日は解散した。
「取り敢えず、待とう。これは賭けだ。一年後にこの駅の改札口にメンバーが集まることを祈ろう。皆、思い入れがあれば、必ず来る」
つづく
トップ画像は、メイプル楓の
「みんなのフォトギャラリー」より。
ありがとうございます。
2023.3.17.山田えみこ
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