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「体育会系調理補助(シナリオ習作)第4話」〜知られたくない過去〜

 人物

山田さん(51)調理補助パート・主婦
ペコ(38)  山田さんの親友、ひきこもり
「店長さん」(40)勤め先の店長
エスクラさん(30)病院側の栄養士さん

守衛さん(42)以前勤めていた先の
       守衛さん

エキストラ 患者さんたち。


○は、場面
()内は、ト書き
「」内は、セリフ
【】内は、独白、及びナレーション です。


○ファミレス店内。三月初旬の昼下がり。客で賑わっている。ウェイトレスや、動き回る人でいっぱい。店内には、春の懐メロがかかっいる。山田さんと、親友のペコが、テーブルを挟んで、ランチメニューを食べている。ドリンクバーの飲み物もある。ふたり、テーブルをはさんで向き合っている。
       
山田さん「(ドリンクバーのオレンジジュー  
     スを飲みながら)ペコ、私、見ら  
     れたよ?」
ペコ  「なに?」
山田さん「これ(手首の内側を差し出して見  
     せながら)」
ペコ  「あ、な〜んだ手首の傷?べつに
     それ、言われなきゃ気づかなかっ
     たよ?」 
山田さん「なんで?こんなに、はっきり付い
     てるのに?」
ペコ  「シワと、見分けがつかないじゃ
     ん」
山田さん「シワ・・・」
     (山田さん、左手首を見つめる。
     手首には、爪の引っ掻き傷の様な
     ものが、約1センチくらい。うっ   
     すらと、刻まれている。ペコは、
     それを見ずに続ける)

ペコ  「結構、本人が、気にしてても、周   
     りは気づかないもんだよ?」

山田さん「そう?整形したいってって10年以 
     上もゴネてる人に言われるか〜?   
     みんな、ペコが前に 整形、失敗       
     した痕、気付かないのに。整形の
     失敗ってったって、ここ、ここ、
     ここだよ?って言ったってわから
     ないよ?(山田さん、オレンジジ
     ュースを飲みながら上目遣いでペ 
     コを見る)」


ペコ   「そう?」

山田さん「ペコだけだよ?私の友達で、手首   
     を切ったって知ってる子。他の子 
     は皆知らない。手首を切っても、   
     救急車呼ぶほどにはならなかった         
     し。しかも、原因は、ペコにも話  
     していないわけだし」

ペコ  「原因は、別に探らないから大丈       
     夫。人の辛い過去には触れないこ  
     とにしてるから。私、山ちゃんが  
     手首を切った傷、言われなきゃど  
     れだか分かんなかったよ?なんに  
     も言われなかったんでしょ?大丈  
     夫だよ?」

山田さん「そう?でも、確かに店長さん『手  
     首の傷』って」

ペコ  「これじゃない?」

山田さん「え?」

ペコ  「(手首甲側の傷、犬の引っ掻き傷  
     を指し示して)これ」

山田さん「え?ポチに引っ掻かれた傷?」

ペコ  「そう、前に山ちゃんが『ポチに傷  
     ものにされた〜』なんて、言って  
     た傷」

山田さん「あ〜」

ペコ  「どっちか、分かんないね」

山田さん「(手首の裏と表を見比べて)こっ  
     ちであるかも知れないね。こっち  
     の方が濃いよ?」

山田さん(それだったら、有り難かった。手  
     首を切った方の傷の原因は、誰に   
     も知られたくない。嫌じゃない  
     か?人の暗い過去をいちい  
     ち・・・だから、なぜなんて聞か  
     れたら・・・)

山田さん「それにしても、詮索されるのは嫌  
     だよね」

ペコ  「ほんとだね」


○山田さんの前の勤務場。レジをしていたショッピングセンター。冬、山田さんは今より10歳くらい若い。髪の毛が長く腰まで、しかし、真冬で、ダウンジャケットを着ている。吐く息が白い。勤めている人たちの通用口。守衛さんが立っている。

守衛さん「こんにちは、山田さん」
山田さん「こんにちは」
守衛さん「今日は、寒いですね〜」
山田さん「ほんとです」

(山田さん、自分の手にしている缶コーヒーに、目がいく。守衛さんに差し出して)

山田さん「これ、どうですか?」
守衛さん「いえ、いいですよ」
山田さん「いえ、私の方が室内で働けますし」
守衛さん「は、では、いいですか?」
山田さん「もちろん」

(守衛さんに、缶コーヒーを差し出すときに、まだはっきり残っていた手首の切り傷、リストカットした手を見られる)

守衛さん「こ、これ、どうしたんですか?」
山田さん「あ、いえ」

(山田さん、その場を店内の方へ走り出して逃げる)

山田さん【その日のうちに、私は手首を切っ  
     たことがあるという噂が拡まっ  
     た。サポーターを忘れていた。私  
     は、それとない好奇の目に耐えき  
     れず、レジのパートを辞めた】


○線路沿い、夕方(現代)

(山田さん、列車が走っていくのを沿線の道で見つめながら(冬服、コート。レジのときと違うもの))

山田さん【だって、嫌じゃないか?人の暗い  
     過去をいちいち探るような目で見  
     られるのは・・・】



○朝、厨房。山田さんと店長さんが、作業している。店長さんは、お尻ふりふりしながら鼻歌交じりに揚げ物。山田さんは、小鉢を洗浄。

店長さん「今度、配膳の指導するね!配膳  
     は、こんなの、15分でできる  
     よ?」
山田さん「はぁ」

(店長さん、配膳車をガタゴトダムウェーターに乗せる)

○時が、移り、8時半を時計は指している。作業台の上には、大きな直径1メートルくらいのステンレス鍋が店長さん達から向かって右手に。中は切り干し大根と人参の煮物。鍋の左手に30センチ四方のベージュのトレー8段に1段につき9つずつ小鉢が載っている。

山田さんナレーション
【パートも教わることがだいぶ進み、今度は店長さんに、<盛り付け>を教わることに】

店長さん「大丈夫!この間、50代だってパー  
     トの応募に来た人いたけど・・・  
    (手を使って、小鉢に惣菜を盛り付  
     けながら)その人、履歴書の書き   
     間違えで・・・」

(店長、思い出したように笑いながら)

店長さん「実は、70代で 覚えるのに3ヶ月  
     かかったから。山田さん、50代だ  
     から、まだまだイケるよ?」

山田さん【ホントなんだろうか?その話】  
    (呆れ顔で)

山田さん「はぁ」

店長さん「じゃあ、やってみてね、山田さ  
     ん!」
(山田、盛り付けをやってみる。もの凄くたどたどしい。店長さん、やきもき。ため息をつくと、また続ける)

店長さん「じゃあ、それを人数で割る事教え  
     るけど」

店長さん「(厨房の壁にかかっているホワイ  
     トボードを見て指差し)まず、患  
     者さん、保育さん、賄いさん、病  
     院側の職員さんの全体の人数を確  
     認する」


店長さん「朝番の盛り付けるものは、まず、  
     汁椀、共通小鉢だから、全体の人  
     数分割らなくちゃいけない。それ  
     で、検食、保存食もとって予備も  
     残しておく。予備は、三人分くら  
     い残るようにね」

(店長、大きな鍋の中を12等分する)

店長さん「で、患者さんが、若干少なく、職  
     員さんや賄いは多め。保育さん  
     は、また後でやるね」

(店長、手際よく盛り付けをする)

店長さん「患者さんの予備は三人分くらい」

(店長、丼を取ってきて、中に3人分くらい放り込む)

店長さん「患者さんは、さらに 常食、一口  
     大、あら刻み、きざみ、とろみ、  
     ミキサー、ソフトに分けられる。  
     ソフトは調理師さんがやるから  
     ね」

(山田さんの盛り付けの挑戦が続く。
 食材を作業台に、こぼす。
「早く!急いで!」と、煽られる。)

山田さん【急ぐの苦手なのに(慌てなが  
     ら)】


山田さんナレーション
【こんなことの繰り返しでただ、時間だけが通り過ぎる……わたしは、なかなか上達しない】


○病院の庭。鳩に餌をやりながら、店長さんは山田さんに説明している。昼休み。店長さん、パンを鳩にちぎってやりながら、(のどかな音楽を挿入)

店長さん「常食は、言わずもがな、普通の人  
     が食べるもの。一口大は、ある程  
     度の大きさでも食べられる人。あ  
     らきざみはそれより細かく、きざ  
     みは歯がなくて噛み砕けない人。  
     とろみは嚥下といって飲み込むの  
     が難しい人。ミキサーは、管を使  
     って提供する人。ソフトは、歯が  
     無くて固形で与える人・・・常食  
     で退院したり、一口大で退院した  
     りする人は、治って退院したり、  
     老人ホームへ行ったりなんだけ  
     ど・・・ミキサーとかで、退院っ  
     てのは・・・・・死んで出ていく  
     んだ」

山田さん「死んで・・・?」

店長さん「そう、ここは病院だから  
     ね・・・」


○厨房。山田さん皿の洗浄中。物想いに耽りながら。さっきのミキサー退院の意味を考えている。


山田さん【可哀想だ・・】



 ○また、次の勤務日。朝、厨房。山田さんが、患者さんに提供するトレーに箸を揃えていると、店長さんに声を掛けられる。


店長さん「山田さん、もう一人で配膳いかれ  
     るでしょう?行ってきて」


山田さん「あ、はい!了解しました!(元気  
     よく、嬉しそうに)」


○病棟。山田さん、元気よくワゴンを押す。

山田さん「おはようございま〜す!お食事  
     で〜す!!」

(後は、職員さんの食堂で、ガチャガチャとやっているのが、病棟の廊下に響き渡る)
(ガチャ〜ン!!)
(鉄のかごをぶつける音)
(病棟中の患者さんが、ビクッとびっくりする)

山田さん「(食堂から帰るとき、患者さんた  
     ちの居る部屋の前の廊下をペコペ  
     コしながら通っていく)すみませ  
     ん、すみません・・・!」



○3回くらい山田さんの通勤シーン。晴れていて朝日が昇るシーン、それから、雨のシーン。また、晴れで朝日が昇るシーン。自転車で。いずれも、登社シーン。
最後の3回目のシーン。へろへろで自転車を漕ぐシーン。昼ごろ、アパート一階の玄関先で、ドサーっと疲れでくずおれる。そのまま、グースカ寝てしまう。これは、帰ってきたシーン。(闘志に燃えるような曲がずっとかかっていて、最後に玄関先に帰ってきてくずおれるシーンでバタンキューみたいな効果の音楽で終わる)


○(病院の厨房。山田さんの勤務時間内(朝9時頃)、山田さんと店長さんが厨房で作業。山田さんは、盛り付け、店長さんは何か温かいお惣菜を作って、掻き回している)

(栄養士のエスクラさんが、厨房に入ってきて声をあげる(大きな声で、厨房に響き渡るように))

エスクラさん「常食一口大1人、あらきざみ1  
       人、ミキサー1人退院で〜  
       す!」

店長さん・山田さん同時に
      「は〜い!」

(と、ここで山田さん気づく)

山田さん 【え?ミキサー退院?】


○思い出しているシーン
(先日の、店長さんが山田さんに(ミキサーの「退院」は、死んで出ていくことだよ?)
と、言っているシーン)

○元の、厨房
山田さん(手を止めて)
【ミキサー退院・・・?】

(間)

店長さん
(ふと気がついて、山田さんを見やる)

店長さん「や・山田さん・・・?」
(音楽がはいる)

山田さん
(動作が止まって、手を震わせて、口をきゅっと結び、泣くのを堪えている)


○エンディング                    エンドマーク「つづく」



画像は、
北岡たちき/マズロー研究家・電子書籍作家さんの
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【みんなのフォトギャラリー用】」です。
いつも、ありがとうございます🍀


©️鈴木江美子.2022.11.17.

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