【創作小説】コクるときは 刻々と近づく⑪
これまでの話は、このマガジンに収められています。⬇
てんとう虫が飛んでいく。てんとう虫が飛んでいく。
由奈から、幸せを奪うように。
フタホシテントウは、幸せを運んでくるものだった。けれど、……。
綺羅と、翔くんは、中学近くの公園にいた。
翔くんは、綺羅のことを好きになっていたのだ。
罰ノートをイジワルな児島先生に書かされていた綺羅。
友達の悪口を書かされて、涙を流していた。
その横顔が、涙を輝かせていた顔が、なんか可愛かったんだ……。
翔くんは、振り返る。そして、公園のベンチで隣に座っている綺羅に、思い切って訊いてみた。
「あの放送部の入り口の前に 毎日、お菓子を積み上げていたのは、綺羅ちゃんなの? 」
綺羅は、答える。
「……ううん、由奈よ」
さぁーっと、公園を風が吹きとおる。樹々の葉が、風に音を立ててそよぐ。
「由奈は、翔くんのことが好きなのよ」
綺羅は、続けた。
翔くんは、うつむいて黙ってしまった。
(綺羅ちゃんじゃ、ないのか……)。
翔くんは ひと呼吸をおいて、立ち上がった。
「どちらにしろ、僕は、綺羅ちゃんが好きだから、もし、綺羅ちゃんが僕のことを少しでも好きになってくれるなら、いつでも返事を聞かせて。これ、僕のスマホの番号」
紙切れを渡し、そして、公園を去るときに翔くんは言った。
「由奈ちゃんたちで、僕の周りをコソコソしてたでしょ? じつは、気づいてたんだ。由奈ちゃん、綺羅ちゃん、怜ちゃんで、なんかやってること。いつも、何か楽しそうって楽しみに見てたんだ。君たち仲良くていいね。いつまでも、そのままでいて」
公園を、翔くんは、一人で去っていった。綺羅は、じっとその姿を見ていた。
由奈は、家で自室に引きこもっていた。
そして、自問自答していた。
過去の、自分では開かないアルバムを抱えて。
思い切ってアルバムを開くと……。
小学校高学年の由奈は、みんなの陰に隠れがちで、写真に写っていた。
いつも、後ろの列で、上目がち。遠慮がちにカメラのファインダーを覗いている。
自信なさそうに、申し訳なさそうに。
小学校低学年の由奈は、いつも満面の笑みで、堂々としていた。
堂々とし過ぎていた。
いつも、いたずらっ子そうな顔をしていた。
そして、時々、その隣で泣いているクラスメイトがいた。
幼稚園時代も、おなじく。
そして、中学校時代ーーー。
中学2年になると、由奈の近くには、いつも 綺羅と怜がいた。
最初、遠慮がちな由奈の近くで、明るく笑う二人。
そして 時を追うごとに由奈は、顔を上げて……。
冬がくる頃には、由奈に、失われたはずの笑顔が蘇っていた……。
つづく
©2023.11.1.山田えみこ