【創作小説】私の好きでも嫌いでもないこの季節⑩
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出入国在留管理庁から、電話がかかってきた。
カムフェンに関することだった。
カムフェンが、出国しようとして、成田空港で足止めを食らったというのだ。
「パスポートやビザに異常が見つかったため、身柄を確保する。保釈金を払ってくれ」
(は? )
なぜ、あまり親近性がない私に電話がかかってきたのだろう。
カムフェンは、出国してしまうのか?
それにしても、……多分、順当にいったら、直近で雇い主だった、喫茶「オリジン」のマスターの方へ連絡が行くのではないか?
怪しいので、そのままガチャンと電話を切った。
喫茶「オリジン」へ行った。
マスターとともに、カムフェンは、何事もなくいそいそと働いていた。
(やっぱり、詐欺だった)
「カムフェン、今日、ちょっと怪しい電話があったよ? 」
私たちは、あれ以来、喫茶店で、カウンターを挟んでいるうち、親しく話すようになっていた。
カムフェンの故郷、ラオスに海外青年協力隊として私が行きたがっていることは、まだ言っていなかった。
「ああ、外国人がらみの詐欺は多いです。特に狙われやすいんでしょうね。立場が弱く見えるんじゃないですか」
カムフェンは、こういった外国人がらみのトラブルには慣れっこだったらしい。素知らぬ顔をしていた。
この間は、店の売り物を盗ったと濡れ衣を着せられそうだったが、それも全くの冤罪だった。
カムフェンは、それでもアットホームな顔で、人への信頼感に満ちた表情を溢れさせている。
浅黒く、少しふくよかな、白い歯が綺麗に並んだスポーツマンタイプの彼が、この頃では、私の好意の対象に定着していた。
兄弟が、ほとんど死んで、寺に小僧に出された。そこで、生活の様々なことを躾けられ、大人になっていったらしい。
寺には、同じように、小僧に出された子供たちが多くて、家庭では大学へ入学させるための生活費の節約もあったという。ほとんどが大学へ行くためにそこで過ごした。
カムフェンは、集団生活に慣れていた。
ああ、だからか。いつも、微笑んで、あまり人にくってかからない。人慣れしていて、嫌味がない。どこか、悟っている。丸い性格。それに、お坊さんの修行もしていたのだ。近頃の わがままに育った若者より、断然、修行ができてるわけだ。
私は、カムフェンの話を聞いているうちに、安心感が育っていくのを感じる。
安心して、傍にいられる。けれど、……
(私は、自分からは、告白しない)
つづく
©2024.8.16.山田えみこ
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