見出し画像

【創作童話】わが家に幼児がやってきた「幼稚園にいかなくちゃ!」


前回⬇️
注:突然、シリーズになった作品であります。
これからも、よろしくお願いいたしします。


わが家には、この春4歳になる幼児がいる。名を苺ちゃんと言って、いつ頃からかこの家に居ついている、赤いほっぺがかわいい女のコである。真っ先にぱぱになつき、ぱぱがいない日中は 抱き枕に抱きつき「ぱぱ遊び」と言ってよだれを垂らしてたわむれている。ちょっといかがわしい。
近所の人が、「あそこの子は、一体誰があんな遊びを教えたのだろう・・・先が怖い、思いやられる」と、うわさしてるのもなんのその。今日も、近所に「ぱぱ〜」「ぱぱ〜」と、黄色だか、ピンクだかの色の声を響かせる。女のコなのだから、もう少し歳がいったら、ぱぱかままが「教育的指導」をしなければならない。

その苺ちゃんにも、幼稚園に入る時期がきた。この間から、ままに「お手製はんばーぐ」を「目的におびき寄せる材料」にかかげられ、幼稚園に入るための猛特訓を受けている。
歯の磨き方、お洋服の着方、はしの使いかた、靴のそろえ方、時計の読み方、ひらがなの読み方、えとせとら。

苺ちゃんは、はんばーぐは、ありがたく頂いて、あとはのらりくらりと逃げたいのだけど、いつの間にか「お約束」ができあがっていて、はんばーぐを食べたら、何か一つはお勉強をしなければならない。でも、苺ちゃんは、はんばーぐを食べた後のままとの鬼ごっこが結構楽しかったりするのでした。

今日も、苺ちゃんは、ままのお手製はんばーぐをほっぺたを真っ赤にさせて、口のまわりをデミグラスソースでべたべたさせながら、それはうれしそうにはんばーぐを食べていました。そのあと、ままとの鬼ごっこです!
苺ちゃんは、きゃっきゃ言いながら、家中をかけずりまわります!
ままも、ここぞという感じで、体力のすべてを使って走ります!
そして、とうとう苺ちゃん確保!
今日の、苺ちゃん家大運動会は、終了しました。

「苺〜。観念しなさい」
ままは、息をぜいぜいさせながら、声をしぼり出して言いました。何せ、幼児の体力は無限馬力です。苺ちゃんは、ままに抱っこされるときゃっきゃはしゃいでいます。

ままは、なんとなく不思議に感じました。
「苺は、ままはイヤじゃないの?ぱぱと結婚するために邪魔なんでしょう?」
苺ちゃんは、ままの胸の中からじーっとままを見上げています。
そして、なんにも答えません。

「まぁ、いいわ。今日は、お絵描きの訓練ね」

ままは、苺ちゃんに画用紙を持ってきて、クレヨンを渡すと、チューリップの絵を描いて、お手本を見せました。

(あれだけ、「苺はぱぱと結婚するの!まま邪魔!」と、毎日言っていた子が不思議ね。最近、そういえばそんなこと言わなくなったわ)

苺ちゃんは、黙って画用紙にクレヨンを走らせていました。


その後、幼稚園の「てすと」が無事に終わり、園の先生が、ままに近寄ってきて話しかけました。

「苺ちゃんのことは、児童相談所からお聞きしています。本当のお母さんが、ネグレクトされていたとか。今のお母さん・・・あなたは、よくやっていると、児相の富田先生からうかがっています」
ままは、少しうれしくなって、にこっと笑って返事をしました。
「ありがとうございます。誰もほめてくれないんです。そう言われると、とてもうれしいです」
「苺ちゃんも、あなたが好きなようですよ?」
「そうですか?私にはちっともそんなふうに思えないのですけど」
「まま〜」
そこへ苺ちゃんが、やってきました。
「お絵描きしたよ?」
画用紙には、茶色い楕円形の物体が描いてありました。
「苺ちゃん、これ、何?」
「はんばーぐ」
「・・・・・・」
苺ちゃん、本能に忠実です。

その日は、幼稚園から帰り、2週間後に幼稚園の合否発表です!
苺ちゃんは、見事合格しました!
もっとも、お母さんから離れられない子以外は、合格できるということでした。

その晩、苺ちゃんが寝ついた後、ぱぱとままは、ビールとおつまみの「チータラ」を用意して酒盛りをしていました。苺ちゃんは、部屋のつながっている、隣の和室でぱぱとままのお布団の間に敷いた ちいさなお布団の中で「くーくー」と、寝息を立てて寝ていました。

「やあ、これで日中は、苺の世話から解放されるね、まま」
「うーん、なんか、これから物足りなくならなきゃいいけど」
「ままは、『タフ』だよね」
「そんなことないわ。それなりに大変よ?」
「苺、よく寝てるね」
「そうね」
ぱぱは、なんとなく、顔をにこーっと笑顔で崩しながら、苺ちゃんの顔をのぞきこみました。苺ちゃん、天使の寝顔。
ままも、にこにこしながらのぞきます。
「もう、苺が来てから一年ね」
ままは、笑顔を崩さずに、
「私、この子がなついてくれないけど、だいすきよ」
ぱぱは、苺ちゃんの枕もとに目をやっていましたが、何かを見つけて、ままの目元に持ってきます。
「まま」
「?」
画用紙になにか絵が描いてありました。
このお話の始めにあるのが、その絵です。
ままは、はっとしました。この絵に描いてあるのは、苺ちゃんと、ぱぱと・・・そして、ままです。ウエディングドレスを着た、ままと苺、それからタキシードを着たぱぱです!
「・・・苺。なんで、私とあなたが、一緒にウエディングドレス着てるの・・・?」
ままは、その意味を考えて、胸が熱くなりました。
苺ちゃんは、「ままと一緒にパパのところへお嫁に行こう」と、言いたいのでしょう!
ままが、目頭を熱くしていると、ぱぱが言いました。

「けど、この端に描いてあるの、はんばーぐだね?」

             
          この回おわり

©2023.3.12.山田えみこ

いいなと思ったら応援しよう!