【創作小説】峠の庵 恩返しー番外編⑦ー
前回のお話⬇︎
番外編最初からは⬇︎
また、この話はマガジン「私の創作小説」に全編が収められてます。⬇︎
たぬき母子は、吾平にみつかってビックリし、ぴょんっと飛び上がりました。
すかさず、それに村人たちが群がって、たぬきたちを取り押さえます。
「たぬちゃん、大丈夫。私たちは何にもしないから」
と、言ってなだめます。
たぬきたちは(きゅー、きゅー、)と言って、不思議そうに眺めます。
「びっくりさせて、ごめんな」
吾平も謝ります。ほんとにこいつは、気のいい奴です。
たぬきの子の足元が擦りむけているのを認めて、吾平は懐から貝の殻に入った軟膏を取り出し、たぬきの子の足元に軟膏を塗ってやります。
「痛かったかい?痛かったかい?」
本当に、これはたぬきが愛されることなのですが、子だぬきの瞳はうるうるしてます。
(きゅー、きゅー、)
村人たちの中の豆腐屋が、母だぬきに向かって言いました。
「俺たちは、あんたたちと話し合いがしたいんだが、あんたたちが時々人間に化けて、ちゃんと人間の言葉も喋れるのも知っている。ちょっと人間の姿になって、私たちの話を聞いてくれんか?」
母だぬきは、やはり不思議そうに村人たちを眺めていましたが、やがて、コクリ、と頷くと、村人たちの前に出て、“変身のポーズ”を取りました。
あの、昔話に出てくる、葉っぱをのっけたアレです。
「きゅー、(へーんしーん)!」
ぽわん、と たぬきは、人間のお母さんの姿に変身しました。
「おお!」(村人たち)。
「私たちが、人間の姿に化けて、人間の言葉を話せるのが、分かってたんですね……」
たぬき母は、少しバツが悪そうですが、すこし恨めしそうに眺めます。
「そうですよ」
と、村人たちは頷いた。
そして、話し合いが始まった。
村人たちが、峠の庵にたぬきたちが棲みついていることをだいぶ前から知っている。峠の庵の親父さんと女将さんに化けていることも。そして、親父さんも女将さんもとうに亡くなっていることも。知っていて、あまりにたぬきたちが、親父さんと女将さんの魂と仲良く過ごしているのを見て、あまりに微笑ましくて可愛くて、そのまま見守っていたのだと。祭りの花火の音でびっくりしてたぬきたちが逃げ出してしまうのではないかと心配して、村はずれの小屋に「拉致」してしまったのだと。
「え?私たちのことはバレていたの?それに、ここに来たのはそういう理由?」
(きゅー、きゅー、……)
子だぬきは、子だぬきの姿のままで、瞳をうるうるさせています。
ぽんっと、葉っぱを載せて、子だぬきは、人間の子に変身し、悲しそうに大声で言ったのです。
「けれど、僕は、まつりに出たかったよ!風車を買って、みんなと遊びたかった!」
村人たちは、顔を合わせ頷きます。
「うん」
「そういうことなら、ちゃんと言って欲しかった。僕たちを見守っていてくれてることも、内緒にしてくれてることも、ちゃんと言って欲しかった。そしたら、ちゃんと、仲間になれるのに。もっと仲良くなれたのに」
母だぬきも、なんだか悔しさも湧いてきていました。
「……私たちは、峠の親父さんたちに出会って、人間を信じかけていました。けれど、また、こんなところに拉致されてきたので、人間て、また、こんな酷いことをするのか、と。あんまり悲しくて、私は、もし、放されたら、村から出て、また山で暮らそうかと思ってしまうくらい……」
村人たちは、悲しみのあまり、顔を曇らせて俯きます。
たぬき母は、下を向いて、とぼとぼと、山道を歩き始めます。
それは、村の反対方向を向いていました。
「あ……」
村人たちは、誰も止めることが出来ませんでした。
「……」
「たぬちゃんたち……」
村の幼い子が、たぬきたちを眺めて心配そうな声を出します。
「……」
(……)
子だぬきは、近くに白いちいさく光る綺麗な小石を見つけました。
すたすたと、その小石の近くへ寄って行き、その小石を拾い、近くの村人の手に渡しました。
「……はい」
子だぬきは、笑顔です。
「これ、お礼です。色々とありがとう」
村の外れの小屋から、皆んなは、引き上げました。
中には、ちょっと泣いている者もいます。
とぼとぼ とぼとぼ、皆んなで帰るのです。
まつりは、続きが行われました。
祭囃子は、鳴り響きます。けれど、そこにはたぬきたちは居ませんでした。
その、村から離れた丘の上で、月明かりの下。
たぬきの母子は、村人たちのまつりのあかりを見守るように狸囃子を叩いています。
いつまでも、いつまでも……。
母たぬきは、子だぬきの足元の傷を見つめました。
吾平に治療された傷を。そして、村人たちを想いました。
母子は、いつまでも懐かしそうに村の方向を眺め、狸囃子を打ち続けるのでした。
おわり
トップ画像は、メイプル楓さんの
「みんなのフォトギャラリー」よりお借りしました。
いつも、ありがとうございます。
©️2024.10.18.山田えみこ