「体育会系調理補助(シナリオ習作)第3話」〜運命の人たち〜
()内は、ト書き
「」は、セリフ
【】は、独白です。
(三月初めの早朝、日の出る頃。場所は、半分田舎、半分都会の住宅街。主人公、山田さんが住宅街の下り坂を下っていく。息が白い。目の前に、中位の大きさの病院が見えてくる。ごみ捨ての住人がいる)
近所の住人A「(ひそひそ声で)あ、あの人、2年前に越してきた山田さんね。どこに行くのかしら。あまり近所付き合いしないけど」
近所の住人B「なにか、ご主人病気みたいよ?なんの病気なんだろ?あそこも大変ね。上の階の人とも揉めてるらしいじゃない。全然近所付き合いしないからよ」
(山田さんは、その会話に気づかない)
(坂道を下り、元気よく病院厨房の入り口のドアを開ける。開けると、そこには、30代くらいの背の小さな小太りの割烹着を着た男性が待ち受けている。店長さんだ。廊下の真ん中に立っていて、白い割烹着を持っている)
店長さん「山田さん、おはよう御座います」
山田さん「おはよう御座います、店長さん。(お辞儀をする)」
店長さん「これね、山田さんの割烹着」
店長さん「しかし、3L・・・?すごいね。けど、ここで働いていると痩せられるよ?(笑う)」
(店長さんは、割烹着を差し出すと、奥の控室、和室の襖を開けた)
店長さん「はい!ここで着替える!!」
山田さん【なんか、嬉しそう・・・。そんなに人出が足りないのかな?】
店長さん「この間、説明したように着替えてね。着替えたら声かけてね」
(店長さんは、ニコニコして襖を閉めた)
山田さん【こうだっけ・・・?】
(頭のキャップから被っていって、上着、ズボン、エプロンをかける。迷いながら)
山田さん「着替えました〜!」
(襖を元気よく開ける。パンッ!と音が大きくして、店長さんも山田さんもびっくりする)
店長さん「(いささか呆れながら)元気がいいねぇ〜。大歓迎だよ。(笑う)」
(厨房に入る。三月の早朝なのだが、厨房はむっと暑い。山田さんは、少し暑さでたじろぐ)
(大きなコンロが中央に複数。シンクがあちこちに。そして、作業台。棚。籠や、ラック、食器などを収納するであろう、大きな戸棚)
(湯気がもくもくと湧いている)
店長さん「えむさかさ〜ん!新入りだよ〜」
えむさかさん「(よく通る大きな声で)は〜〜い!」
店長さん「こちら、山田さん。山田さん、ここの1番ベテランのパート、えむさかさんです。「救世主」だよ?」
えむさかさん「(照れながら)な〜〜に言ってんのぉ!!」
(えむさかさん、手をひらひら振って言う。顔はマスクで見えないが、多分 照れながらも笑ってる)
山田さん「(小さな犬っころみたいな笑顔で大きく)宜しくお願いします!!」
山田さん【私は、洗浄から手伝った。小鉢を何個も洗う。丁寧になんか洗っていられない。洗剤を浸け置いたシンクの中の水の中に食器を放り込んでさっと台に並べて洗浄機にかける、と教わった】
(洗浄が終わる頃、5人くらいの人物が厨房に入ってくる)
店長さん「山田さ〜ん!紹介するよ〜〜!」
(山田さん、手を止めて、店長さんのところへ行く)
(60代位の男性を紹介される)
店長さん「この人、調理師のマサキさん」
山田さん【うわっ!草刈正雄?!】
店長さん「この人、栄養士兼店長候補、エヌノ」
(30代くらいの色白で、スポーツ刈り、背が高い)
店長さん「そして、調理師ササノさん」
ササノさん「よろしくね」(背が高い、ハスキーボイスの女性)
山田さん【うわ!タカラジェンヌ??】
店長さん「病院側の栄養士のエスクラさん」
山田さん【すごい美人!!】
店長さん「そして、もう一人のスーパーパート、川崎さん」
(はかなげな美人)
山田さん【性格良さそ!!】
店長さん「まず、この6人、あと2人いるけど、宜しくね」
(どんくりみたいな顔で、とても、愛想よくまた笑う)
山田さん「宜しくお願いします!!」
山田さん【それからの毎日は、楽しく過ぎた。募集のチラシに書いてあったのは、「明るい人希望」。それに添うように私は明るく振る舞った。
あとから、入ってきたサクラバさんという男性パートと、ナガサワさんという会社の栄養士さんと「山ちゃん、イエーイ。イエーイ」と踊り回り、……】
山田さん、サクラバさん、ナガサワさん、
「おーほっほっほっ!!!(一斉に)」
(山田さん、病院に通い続ける。早朝の街を)
(働いたり、通勤途中のシーンがいくつか入る)
(挿入歌)
挿入歌「金木犀の花」キンモクセイ
(作業中。お椀に汁の具を付けてる山田さんと、マサキさんは、並んで仕事をしている)
マサキさん「山ちゃん、あまり自分のこと、話さないね」
山田さん【えっ!?】
マサキさん「どこにいて、何してたの?もういい歳じゃん」
山田さん「そ、………それは………(焦りながら)」
エムサカさん「いいじゃん!ひとの事は、詮索するもんじゃないよ。そっとしときな!」
山田さん【……………い、偉大過ぎます!!エムサカさん……!!】(山田さん、畏敬の念でエムサカさんをみつめる)
山田さん【エムサカさんには、こういった偉大なところが多々あった】
挿入歌「歌うたいのバラッド」斎藤和義
(ある日、山田さんは「店長さん」と、ふたりで作業をしていた。店長さんは、山田さんの左手首を何の気無しに ちらっと見るとーーー手首には薄いが、刃物で切った古い切り傷のあとがあったーーーー。)
店長さん「山田さん?」
山田さん「?」
店長さん「その手首の傷………」
山田さん「!!!」
山田さん【見られた!!】
つづく
画像は、村上ごえさんの
「根は深く」
です。
ありがとうございます🍀
そして、シナリオを書くきっかけをくださり、指導してくださる まねきさま、ありがとうございます。
©︎鈴木江美子.2022.11.3.