【創作小説】見上げれば、碧いそら③
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加藤さんは、思い出していた。
加藤さんと里帆は、1年のときから同じクラスだった。
その1年生のときのある日、加藤さんはお弁当を忘れ、しかもお小遣いも忘れ、学校の販売しているパンさえも買えなかった日があった。
加藤さんは、ショートカットの細いうなじを傾けながら、その雨の日、しょんぼりと俯いていた。
(お腹が減った……)。
そういうときに限って、まわりの友達は皆、もう、食べ終わっていたりする。
移動クラスのあとで、加藤さんがお弁当を探そうとしたときには、もう周りは食べ終わっていたのだ。
午後も空腹に耐えるしかない。
育ち盛りの加藤さんは、空いたお腹を抱えて覚悟を決めようとしていた。
(ぐぐぐー)と、お腹が……。
その時だ。
「パン、も1つあるから、食べていいよ? 」
背丈は、加藤さんと同じくらい。健康そうな顔立ちのツインテールの笑顔にエクボの子が言った。
里帆だ。
その日は、雨でさえあたたかく思えた。
加藤さんは、よく覚えていた。
その日の日記にちゃんと書いて、覚えていようとしたから、ちゃんと覚えていた。
(ひとに、善くしてくれたことは、絶対に忘れたくない)。
加藤さんは、今まで、人に親切にしたことがあっても裏切られることが多かった。忘れられることが多かった。
「人に親切にしよう」
と、加藤さんが思っていても、それを忘れられることが多かった。
「私だけは、人にしてもらった親切を忘れないようにしよう」
そう、思って 加藤さんは、日記に里帆のことを書いていたのだ。
また、クラス替えがあって、里帆と加藤さんは同じクラスになった。
球技大会で、里帆は落ちこぼれの2軍グループに……。
加藤さんは、人知れず、グループの編成役の女の子に頼み込んで 里帆と同じグループにしてもらった。
秋のある日、2軍グループの自主練が始まった。
加藤さんは、中途半端に飛んだバレーボールを捉え、豪快にスパイクする。
2軍グループの連中は、皆、目を見張る。
加藤さんは、ニッコリとして言った。
「私、中学のときはバレーボール部だったんだ」
周りは、目を皿のように見張る。
「は? 」
「なんで、ここに来たん? 」
「聞かないで。たぶん、何かがあったのね。私にも分かんないわ」
つづく
©2023.11.28.山田えみこ
つづきは、こちら⬇
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