【創作小説】見上げれば、碧いそら⑦
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私たちは、3回戦(準決勝)を敗退した。
3組のチームと戦うまでもなく……。
ちょっと、無念。私たちには、バレーボールエリートの3組チームと遣り合うほど運も実力もないのか。
私たちは、加藤さんを頼り過ぎていた。戦いが終わって初めて気がついた。
加藤さんは、あのあと 一生懸命ボールを拾ったのだが、やはり片手では拾いきれず、そして、加藤さんが 折角拾ったボールでも、相手のコートに入らなかったものが 口惜しいくらい繋がらない。相手のコートに返らないのだ。
私たちは、俯いていた。
甘かった。
私は、加藤さんの手を手当てしてもらおうと、保健室へ連れて行った。加藤さんも、泣いていた。
「加藤さん……、ありがとうね。今まで、1人でよく頑張ったよ」
「いえ、いいのよ。私は恩返しのつもりでやっていたから」
(……? )
私には、「恩返し」の心当たりがなかった。
「でも、もう終わりだから。もう、頑張らないでいいよ? 」
と、こちらが言うと、
加藤さんは、じーっとこちらを見つめてる。
「相川さん……知らないの……? 」
「? 」
私は、校舎の通用口のところの階段で、加藤さんと上がりながら話に耳を傾けた。
周囲のケヤキの樹が、ザワザワと枝を震わせた。
「はっ……!? 」
「えっ!? やっぱり知らなかったの? 」
私は、口をパクパクさせた。
「そんなこと、あるの? 」
「やっぱり、知らなかったのか……あのね、まだまだあるのよ、トーナメントって……」
3組の試合が始まっていた。(わーっ)という歓声が聞こえる。
「えっ! なに? 知らない! 」
「空手の試合で、トーナメントはないの? 」
「私、試合という名が付くものには出ないの」
「へ? 」
「まぁ、色々あって……」
うちは、シングルマザーだ。空手も護身で習わせてもらっているが、お金のかかるようなことはさせてもらえない。高校進学もこの公立学校で、塾に頼らず進学した。空手の試合には1度も出たことがなかった。
「いいわ、相川さん、細かい事情は聞かないけど……」
加藤さんが、詳しい話を続けた。
風が、校庭の樹の枝を揺らす。私の瞳は、輝き出した。
加藤さんの突き指の治療を終えて、校庭に戻ると3組が3回戦(準決勝)を戦っていた。
「あ、里帆! 見て! 3組が、劣勢よ! もしかしたら、私たちと『敗者復活戦』で当たるかもね! 」
と、萌菜。
「そうね! 3組をぶちのめしてやりたいわ! 」
市川さんが、おとなしい見掛けによらず、凄いことを言った。
そう、私は「トーナメント戦」に出たこと自体も、勝ち進んだこともなくて、『敗者復活戦』を知らなかったのだ。
「負けろ、という呪いを送ってやるわ……」
萌菜は、恐ろしいことを言う……。
6組女子の顔立ちが、オソロシイ(とても、人には見せられない)ものに変わっていった……。闘争本能が、暴走している……。女子って……。
つづく
©2023.12.3.山田えみこ
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