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二次創作「首」けんかをやめて

「そんなに四国甲州攻めがやりたければ、ハゲを殺せ」
なぜそうなるのか。
光秀は俯き、膳の上の器を見つめた。
きっかけは、信長の「光秀は俺と四国甲州攻めの策を練る」という言葉だった。突然、村重が四国甲州攻めをやらせてほしいと言い始めたのだ。信忠と摂津攻めをするよう命じられたにも関わらずだ。信長と村重の関係は周知のこととはいえ、それで信長が方針を変えるとは思えない。案の定、信長は村重の願いを一蹴した。だが、なぜか村重は頑なに引こうとはしなかった。必死になって言い募る村重に、信長は楽しそうに自分を殺せと言い放ったのだった。
「そしたら、四国甲州攻めはお前にやらせてやる。なあ!?お前らも文句ないよな!?」
信長の言葉にその場の武将たちが皆賛同する。もとより、それ以外できる者などいるはずがない。
「いや…、それは」
それまでの勢いが一瞬にして衰え、村重が口ごもる。
何のつもりか分からないが、困った奴だと思う。信長の性格からしてこう言いだすことは分かりそうなものだ。そして、あの日以前の村重ならば、躊躇いなく自分を殺しただろう。
「どうした?俺への忠義は偽りか?」
「いえ!私はお館様一筋、この気持ちに一点の噓偽りなどございません!」光秀はようやく、村重が自分と信長を二人にするのが嫌なのだと気づいた。
そうであっても、村重だけで四国甲州攻めができるとは思えない。光秀としては、気疲れする信長といるよりは、むしろ、自分が摂津攻めをやりたいくらいだった。だが、そのようなことが言えるはずもない。唯一の救いは、戦に出ないことで、家臣や兵達を休ませることができることだった。それなのに、村重は下らない嫉妬のせいで信長の機嫌を損ない、その挙句、光秀の命まで危険に晒している。
「それなら村重、腹を切れ」
自分を殺そうとしない村重の気持ちを疑ったのだろう。信長が短刀を村重に突きつけた。
「俺への気持ちが誠ならば腸も美しかろう」
命がけの痴話喧嘩か。
光秀は二人に分からないようにため息をつく。
(これ以上俺の隣で争わないでくれ…)
周りを見渡す。止められる者は、いなかった。心の中でやれやれと呟きながら光秀は口を開く。
「お待ちください」


あの後、なぜか光秀まで腹を切らされそうになり、それならと村重が本気で腹を切ろうとした。それを興が醒めると言い捨てた信長に光秀は怒りを抑えられなかった。人の命を、他でもない村重の命を弄んだのだ。しかし、信長はそれすら「遊び」の一言で片づけた。
結局、信長が刀に刺した饅頭を村重が食べたことで信長の機嫌がなおり、この痴話喧嘩は終了した。村重の口からあふれ出す血を美味そうに啜る信長の姿に誰もが狂気を感じずにはいられなかっただろう。
それにしても、自分が望んだわけでもないことで殺されそうになった上に、見かねて止めに入っただけなのに、腹を切らされそうになる。そして、当事者達はいつの間にか仲直りをしている。これで殺されていたら、自分は殺され損ではないか。一瞬、信長が自分と村重の仲を疑うようなことを言った時は肝が冷えはしたのだが。つくづく、侍の好いた惚れたは難しいと光秀は思った。

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