君たちと過ごす蜜月の時
君たちじゃなきゃダメだったのだ。
そんな運命と言える出会いがある。
初めて行った譲渡会で決めようとは思っていなかった。
それはどんなものだろうと、軽い気持ちで行ったのだ。
わりと小規模な譲渡会だったように思う。
年齢や種類も様々な猫たちの中に君たちはいた。
檻の中で小さな体をぴったりとくっつけ合って
眠っていた君たち。
ただでさえ見えにくい黒猫が眠っていると
さらに顔がよくわからない。
たくさんの人たちに檻を覗かれる中
どこ吹く風と背中を向けて寝入る君たちの周りには
どこか柔らかい空気が流れていた。
そこでは1週間のトライアルをさせてもらえる。
でもわたしは思っていた。
トライアルしたら早々返すことなんてできないと。
だから何度か譲渡会に足を運び、
どの子がいいのか慎重に決めたほうがいい。
なのに夫はすぐに言った。
「この子たち、いいんじゃない」と。
もう決めちゃっていいのか
もっと子猫の方がいいのではないか
そんなことが頭をよぎったのに
次の瞬間、わたしは首を縦に振っていた。
それから生後4ヶ月のオスの黒猫たちをはじめて
うちに招き入れた時のこと、今も覚えている。
小さく軽いその子たちは、すぐうちに馴染んだ。
慣れない作業にてんやわんやのわたしたちだったが
猫たちがわたしたちを警戒したり、距離を置くことは
ただの一度もなかった。
はじめて猫を飼う身。
いきなり2匹迎え入れても大丈夫だろうかと考えたが
生まれたその日からくっつき合っていた君たちを
引き離すことはとてもできないと思い
2匹とも我が家の家族となった。
それからもう5年。
君たちにいろんなことを教わる。
ソファーの肘置きを爪やすりだと思っていること。
ヒモに並々ならぬ関心を抱いていること。
夜中に机の書類を全て落とすゲームをしたくなること。
人目がない場所で抱っこしてとせがむこと。
新しい植物は一応味見したくなること。
深夜の運動会は布団の上で開催されること。
カーテンがロッククライミングに見えていること。
そして毎日君たちから受け取っている。
この世で最も気持ちいい感触。
甘ったれた安らかな鳴き声。
シンプルで率直な要求。
ゴロゴロ響く振動。
心地よさの優先。
気持ちいい距離感。
名前のない時間。
言葉を介さない信頼。
命の温もり。
君たちと出会ってしまったから
君たちなしじゃどうやって生きてきたのかも
もう思い出せそうにない。
いつかは訪れる別れ。
その時までは、君たちとの甘い甘い蜜月の時を
存分に味わい続けようと思っている。
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