自分を大切に
私たち看護師の仕事のひとつに、患者さんの療養上の世話というのがある。
療養上の世話とは、簡単に言えば、生活のお手伝いだ。
毎日私たちが普通に行っている行為、たとえば、ご飯を食べたり、お風呂に入ったり、トイレに行ったりなどが、病気になるとできなくなることがある。
そのできなくなった部分を補うことが、療養上の世話である。
ある時、70歳くらいの男性の患者さんの皮膚の清潔を保つために、身体を拭いて、乾燥しないように保湿剤を塗っているときに、患者さんの足をみて思ったこと。
それは
「私の足より、すべすべして綺麗」ということであった。
人間の体の60%は水分でできており、水分量は年齢を重ねるにつれて減少していくと言われている。
年齢を重ねるにつれて水分量が減少する理由は、生きるために必要な脂肪が体につくことで、脂肪分だけ水の割合が少なくなっていくからである。つまり、男性より脂肪分の多い女性の方が、水分量は少ないことになる。
ちなみに、老人の場合は脂肪うんぬんではなく、老化現象で、筋肉が衰えるのと同じように、細胞内の水分自体が減っていくことが水分量が少ない理由である。
実際には子供では65%~70%、成人では55%~65%、老人では50~55%と言われており、成人女性と老人男性の水分量がともに55%と、同じであっても不思議ではない。
もちろん、皮膚の潤いは水分だけでの問題ではなく、油分なども関わってくるのだが、手をかけていない成人女性の肌と手をかけている老人男性の肌では老人男性の肌のほうが綺麗であることも充分にあり得る話だ。
話は戻るが、わたしは、その患者さんの足を見て、自分のことを振り返る。
患者さんの足はこんなに毎日保湿して手をかけているのに、自分の足はほとんど保湿していないな、と。
保湿クリームを塗る、たった5分でできる行為なのに。
そう考えたら、自分を大切にしていないような気がした。
自分は自分と一生付き合っていくのだから、自分を大切にしてあげないといけない。
それなのに、自分のこととなるとおざなりにしてしまう節がある。
自分をおざなりにしても、誰からもクレームがでないからかもしれない。
それで
毎日、自分に保湿剤を塗ってあげることにした。
面倒でも、毎日。
こんなことで、自分を大切にしていると言うなんて、他人から見たらちゃんちゃらおかしいかもしれないのだけど。
誰よりも自分を大切にしてあげる瞬間を毎日作る。
そうやって、老人男性より「つるすべ」になったわたしは、自分の肌を触りながら、自分が自分を大切にしていることを実感し、「自分は自分にとって誰よりも大切な存在なんだ」と、日々、自尊心を高めている。