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【脳波解析】脳波データの下処理

 本ページでは「Analyzing Neural Time Series Data Theory and Practice」(Mike X. Cohen and Jordan Grafman)のChapter7をベースに、脳波データの下処理について勉強していきます。
前回のノートはこちら↓

そもそも、データの下処理とは?

 下処理とは、データ収集と解析の間で行う調整のことです。こちらの記事で記載した通り、脳波測定において、Voltage Valueは様々な理由で変わるので、生波形をそのまま解析にかけることはできません。信号とノイズは複雑に混ざり合うため、区別が困難です。そこで、下処理を行うことで、信号とノイズを見分けることができます。この際、下処理のやり方、または実際の数値設定において、バイアスが少なくなるように気をつけましょう。
 信号とノイズという話が出ましたが、何をノイズとみなすかは、難しいところがあります。例えば、ERPをnoiseと捉える研究者もいます。その点、時間周波数分析は特徴を捉えやすいでしょう。

エポッキング

 エポッキングとは、事象を中心とした時間窓を設定することです。タスク関連の脳波の変化の分析を簡単にするために行います。この際、エポッキングはやや長めに設定しましょう。これは、エッジアーチファクトからデータを防ぐためです。エッジアーチファクトとは、時間フィルタをかけることにより、高振幅の広帯域パワー(ノイズ)がかかることです。具体的には、時間パワーでデータをみた際に、時間窓の端がきゅいっと上がります。エッジアーチファクトからデータを守るため、見たい時間窓に加え、バッファーゾーンを導入する必要があります。バッファーゾーンの長さは、周波数の種類/周波数分解の種類に応じて変更しましょう。例えば、ヒルベルト変換やウェーブレット変換の場合は長めに、高速フーリエ変換(FFT)/信号処理の場合は、短めでも大丈夫です(それぞれの変換については、追々説明します。)。
 エポックを長くする上で、問題も浮かび上がります。エポックした各データが重複することで、独立成分分析(ICA)をしたときにバイアスがかかるためです。また、エポックに失敗(再エポックできない、エポック期間が短すぎる場合など)したときはどうすれば良いのでしょうか。そこで、用いられるのがReflectionです。Reflectionでは、データを左右に反転させ、適合することで、エポック期間を3倍に増やすことができます。この際、reflected data (real dataの時間軸を反転した データ)は解析前に捨てる必要があります。

トライアル数を一致させる方法

 条件が違う実験間でトライアル数に大きな差がある場合、トライアル数を一致させる方法があります。この際、考えられるやり方は3通りあります。どれを用いるかは、実験の目的や仮説、先行研究を参考にしましょう。
1) 最初のtrialを選ぶ
どうしてものときを除き、使わないようにしましょう。長所はありません。バイアスがかかります。
2) 無作為にtrialを選ぶ
一つ目のやり方と異なり、バイアスがかかりにくいです。しかし、同じデータを何度か解析すると、微妙に異なる結果が出ます。
3) 関連する行動/反応時間など、実験変数に基づくトライアルを選ぶ
タスク時間などの均等化が出ます。しかし、反応時間に違いがある場合に偏りが出ることがあります。

フィルタリング

 フィルタリングは、高周波数アーチファクト//低周波数のドリフトを取り除くのに役に立ちます。特に、0.1~0.5Hzのハイパスフィルターは低周波数のドリフトの除去に有効です。さらに、空間フィルタリングをすることにより、結果の推定がしやすく、低空間周波数のフィルターをすることで空間的な特徴を掴むことができます。さらに、コネクティビティ解析の前処理も役に立ちます。ただし、フィルタリングは必ずしもする必要があるわけではありません。大抵の周波数分解は一時的フィルタリングをしています。また、アーチファクトがあるトライアルは解析前に除去する必要があります。
 フィルタリングは、自動及び手動で行うことができます。以下それぞれのメリット/デメリットです。
1) 自動除去
メリット:早い、バイアスがかからない、誰でも同じ結果が出る
デメリット:アーチファクトが検出できない、信号も取り除かれる可能性もある
2) 手動除去
メリット:自動では分からないところを見ることができる
デメリット:遅い、バイアスがかかる、人により出力が変わる

リファレンス

 リファレンスとは基準電極のことで、電位0と考えられる点においた電極のことです。脳波測定において、見たい電極と基準電極との電位差を脳波として見ているため、リファレンスは必須です。基準電極を選ぶポイントとして、1) 他の電極と近い、2) 活動が少ない、3) 片方に偏っていないことがあげられます。そのため、リファレンスでは、耳たぶを選ぶことが多いです。

補間 (Interpolation)

 補間とは、他の電極の場所や活動を利用して欠落電極のデータを推定することです。しかし、データを除去することに近いので問題もあるため、電極がより多ければより正確になります。それでは、どのように補間が必要かどうかを見分ければいいのでしょうか。やり方の一つとして、30Hzのローパスフィルターをかけることがあげられます。他の電極と活動が似ている場合には必要ありませんが、他の電極と活動が異なる場合、必要となります。

サンプリング周波数

 サンプリング周波数とは、アナログ信号をデジタルデータに変換する際に、信号の変位を測定するサンプリング(標本化)を行う頻度のことを指します。サンプリングレートが上がるほど、細かく見ることが可能となります。さらに、ナイキスト周波数とは、ある信号を標本化(サンプリング)するときの、サンプリング周波数の1/2の周波数のことを指し、例えば、100Hzまで測定可能な脳波計の場合、再現には50Hzまで、という制限があります。


最後に、このノートにスキを押してくれると、とても嬉しいです!ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
<謝辞>
このnoteを書く上で、弊ラボの岡本峻さんにご協力いただきました。ありがとうございます。

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