マッチングアプリ体験談17-4
●第17話「マグロ男」4
前回の話はこちらから。
コンビニで缶のお酒を買って公園まで歩く。そこそこ人通りはあるものの、たくさんあるベンチは空席のところが多い。2人で座るには広すぎるベンチに腰掛け、間に買ってきたお酒を置いた。今の私たちにはちょうどいい距離感だ。
乾杯して飲み始めたものの、どうもそわそわする。外飲みこそ初めてだ。大きな通路に背を向けて座ったため、後ろを歩く人の姿や声が気になる。それに、目に見える範囲のベンチにも人は座っている。あまりに落ち着かない。
マスクを外した男の口周りには剃り残しの髭が残っていた。それも8mm位の長さがまばらに20本ほど。逆にどうシェービングしたらそうなるわけ?しかもよく見たら手の指、爪の間に黒い汚れが詰まってない?ありえない。不潔すぎる。無理だ。ってか私のnoteの投稿見てた?嫌なの知っててやってるよね?と思うほどには条件全てちゃんと揃っていた。
正面を見ていたら視線を感じるので振り向くと、「緊張して目合わせられないからこっち見ないで」と言ってくる。「改めて綺麗だなって見惚れてた」ってそれ、今後やってけなくない?こっちも芸術作品みたいに鑑賞されたら気まずいんだけど。
「もう1時間も歩いてたんだね」そうだ、お前が止まらず歩き続けるからそんなに時間が経っていたのだ。しばらくは他愛もない話をしていたが、男が突然「こっち来て」と抱き寄せようとしてくる。「ここでは嫌だ」私は断った。雰囲気も流れも何もないのも嫌だが、そもそもこんな人目に付く場所ではダメだ。
しかし、男の力は強い。上半身が無理な角度で男に引き寄せられた状態で「こっち見て。もう我慢できない」とキスしてこようとした。私は何がなんでも唇を死守しようと固く目を瞑って横を向いた。「求めてたよね?今、目瞑ってたじゃん」勘違いも甚だしい。防衛本能だ。ロマンティックな瞬間のために視界を閉ざしたわけではない。
こんなに下心剥き出しな男、嫌なんですけど。ところ構わず襲ってこようとするとかもはや犯罪者なんですけど。本能を理性でコントロールできないのは人間ではなくただの野獣です。人間に進化を遂げてから出直してきてください。
男が盛り上がるのに対して、私の気持ちはどんどん冷めていった。人間を減点方式でしか評価しない私が悪いのか、この男と私の採点基準がズレているのか。いずれにせよ私の気持ちの変化を読み取ろうとする努力もしてこない男などこちらから願い下げだ。汲み取ろうとしてくれるならいくらでも言葉で表現する。
私「ずっと外にいるの落ち着かない」
男「このあたりでホテル入ったことないんだよね。終電までまだまだあるし、うち来る?」
私「私、寝ないと翌日に響く人だからどこかしらで睡眠とりたい」
男「じゃあ決まりだね」
ついに初対面の男の家に行く流れを自ら作ってしまった。やっと屋内に行けると分かり、私も元気になる。男といることが安心できるわけではないが、少なくとも夜の公園よりは安全なような気がしていた。私は立ち上がり、「さ、行こ!」と男を急かした。男はまだ飲み終わってない缶を振り、「もうちょっと待ってよ」と言っている。私は座らずに、男が早く缶を空けることを無言で促した。
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