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マッチングアプリ体験談15

●第15話「誠実な男」

マッチングアプリで出会った男はほぼ全てこちら、もしくはあちらがフェイドアウトして関係を終わらせることが多い。やり取りの途中で相手がアプリを退会する、LINEの連絡先を交換した後であれば合わないと思ったタイミングでブロックするのがお決まりのパターンだ。しかし、この男だけは違った。

この男とは、私が今よりもっと独立、企業、経営者などというキーワードに敏感だった時期にマッチングした。アプリの中でのやり取りでも、「今は会社員をしているがいずれは独立したい」と明言していた。そのために在宅副業を2つしていて、当時はトリプルワーク状態だった。よくそんな忙しさでアプリに割く時間を捻出しようとしていたものだ。

将来はどんな家庭を築きたいか、自分の理想のワークライフバランス、パートナーに求めること、仕事で重視することなどを熱く語っていた。その熱量が大きすぎたのだ。男は公務員として働き、劇的な変化はない日々の中で安定した働き方に魅力を感じているようだった。もちろん、私は本人が幸せならそれで十分と思っていた。

そうは思いつつも、プロフィールで「職業:経営者」「年収:1◯00万〜」と書いている男に魅力を感じていた時期であったことも否めない。自分が稼ぐつもりなのだから相手の年収が高くなきゃいけない理由など本当はないはずなのに、目が行くのはそんな男ばかり。やはりその邪な思考がダダ漏れていたのだろう。

いつもテンポよく返信が来ていたのに、数日空いた後に届いたメッセージには、
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◯◯さんはとても魅力的なのですが、自分とは価値観が合わないように思います。
お互い高め合ったり、更なる高みを目指し続けたりというのは自分には向いていない気がします。
何気ない日常を笑い合えたり、小さな幸せを噛み締めたり、そんな生活がしたいです。
今感じている疑問は一緒にいることで大きくなり、だんだんとズレが生じてくると思います。
◯◯さんには自分よりもきっと合う方がいると思います。時間を掛けて付き合ってくださったのに申し訳ありません。ありがとうございました。
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こんな内容のことが書かれていた。

正直、驚いた。マッチングアプリでこんなにも丁寧に断る理由を説明してくれる男がいるのだ。「理由を丁寧に説明していただき、ありがとうございます。素敵な出会いを応援しています。私も頑張ります。」と返信してこの男とのやり取りを終わらせた。

ここまですっきりとした別れを経験したのはマッチングアプリを利用していて初めてだった。後にも先にもないだろう。戦友じゃないけれど、まだ会ったこともないこの男の幸せを願う。

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