彼の好きなところ8
好きポイント⑧甘え上手
元々、私は甘えるのが好きなタイプだが、好きな人になら甘えられるのも苦ではない。むしろ大歓迎だ。
夕方になる前に集合してホテルで過ごす日、ごはんは何を食べようと話していた時、じゃあ調べるねとベッドに腰掛けていた私はスマホを取り出した。この日の彼は珍しく私に任せきりモードになっていた。ここから近くてテイクアウトができるお店をいくつか口頭で候補を挙げると、見せてと近付いてきた。
「スマホ持ったままもう片方の手、後ろについて」そう言うと彼は私の胸にもたれるように体を預けてきた。彼の前に腕を回すようにして同じスマホの画面を覗く。ぴったりとくっ付いている。ダメだ、彼の香りや体温を感じて正常な思考力が機能しない。
「何やってるの?早く食べたいの決めて?お店まで買いに行くんだよ?」太ももに触りながら意地悪そうに聞いてくる。あざとい。ひとしきりイチャイチャして埒が開かないと判断したのか、彼は私のスマホを取り上げて「これはどう?」と素早くメニューを決めていった。
またある時は、ホテル近くのスーパーでごはんを買ってからチェックインした。冷ケースで売られていた温めて食べる麺類。
彼「そのまま食べる?」
私「電子レンジぐらいあるよ!フロントに聞けばよくない?」
彼「電話するってこと…?」
私「それぐらいなんてことないじゃん!」
彼「本当に?じゃあお願いしてもいい?」
適材適所といったところだろうか。私にとって容易なことも彼からしたら難しいらしい。潤んだ瞳でお願いされたら断りようもない。私はフロントに電話し、2人分の食事を持ってフロントまで赴いた。
彼と会った中で一番可愛かったのは、お酒を飲みすぎた夜だった。月1のデートができず2ヶ月ぶりに会ったその日、ちょうど宣言が解除されている期間で飲食店での酒類の提供があった。「店で飲むビールは旨い!」と喜ぶ彼。私も同じぐらいのペースで飲んでいたはずだったのだが、酔いが回るのは彼の方が早かった。
時短営業の食事処に閉店まで居座り、ホテルに行く道中のコンビニでお酒を買い足した。部屋で飲み直していたのだが、酔った彼は「飲み足りないでしょ?」と言って缶のお酒を口に含んで口移しで私に飲ませてきた。レモンとアルコールと柔軟剤の香りでどうにかなりそうだった。目を瞑って近づく彼の顔があまりに美しくてこの表情を独り占めしている私は世界一の幸せ者だとすら感じた。
私の服をはだけさせ、わざと口元から垂れるように滴らせる。「溢したらダメじゃん」そう言う彼は上目遣いで私のことを見つめ、顎や胸に垂れたお酒を口で拭き取る。頭ごと抱きしめようかと思った。それほど彼は可愛くて愛おしいのだ。私は平静を装い、彼に水を飲ませ、心のシャッターを連写した。