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教育の未来をデザインする人財を育てる | Focus on people

 青年版ダボス会議日本代表、教育未来創造会議(内閣府)構成員、そして多くの民間企業の社外取締役も務める社会起業家であるHI合同会社代表の平原依文さんに、教育に関わるチャレンジの根本にある思いや、これから求められる人財について伺いました。


【略歴】
小学2年生から単身で中国、カナダ、メキシコ、スペインに留学。東日本大震災をきっかけに帰国し、早稲田大学国際教養学部に入学。新卒でジョンソン・エンド・ジョンソングループ ヤンセンファーマ(株)に入社し、デジタルマーケティングを担当。その後、組織開発コンサルへ転職し、CMOとしてマーケティングを牽引しながら、広報とブランドコンサルティングを推進。「世界中の境界線を溶かす」を実現するために、HI合同会社を設立。SDGs×教育を軸に、世界中の人々がお互いから学び合える教育事業を国内外の企業・行政・教育機関に展開している。 Forbes JAPAN2021年度「今年の顔100人」に選出。



世界を変える人財は、特別な存在ではない。


Q. 「地球をひとつの学校にしたい」とは?メッセージの背景や思いをお聞かせください。

私が描く「地球をひとつの学校」というビジョンは、すべての人が学び、成長し、共感し合える場所を地球全体に広げたいという願いです。このアイデアの背景には、私自身がたくさんの国で異なる文化や価値観と触れ合い、その中で学んだ「違いは豊かさであり、つながりは力になる」という実感があります。国や言葉の壁、社会的な立場を超えて、誰もが「先生」であり「生徒」になれる場所があれば、世界はもっと優しくなると信じています。

Q.「誰もが生徒、先生になれる世界にしたい」のはなぜですか?

人は誰でも、特別な経験や知識を持っています。それを他者にシェアすることで、新しい気づきが生まれます。そして、それを聞いた人がまた別の誰かを励ましたり、成長させたりできる。そういう相互の循環が、社会全体を豊かにしていくんだと思います。一方的に教わるだけではなく、お互いを学び合える関係は、未来の教育の理想形だと思っています。

Q. どういった経験から、そのような考えに至ったのですか?

小学校2年生から単身で世界中を転々と留学する中で、言葉が通じず泣きたくなるような日もあれば、異国の友達と笑い合える喜びも知りました。特に、東日本大震災をきっかけに日本に帰国したとき、たくさんの人たちが助け合い、心を寄せ合う姿を見て、世界中がこんなふうに優しさで繋がったらどんなに素敵だろうと思ったんです。そのときから「学び」は人をつなぐ力だと信じるようになりました。

夢の解像度をあげ、情熱をもって行動する経験が大切。


Q. 世界を変える人財は、どうやったら生まれてくると思いますか?
「世界を変える人財」と聞くとすごく特別な存在のように感じるけれど、実は誰もがその可能性を持っていると思います。そのためには、自分のやりたいことを見つけ、夢の解像度をあげ、情熱を持って行動する経験が大切です。そしてそのプロセスで、失敗してもまた立ち上がる強さや、他者と力を合わせることの大切さを学べば、自然と「世界を変えたい」と思える人になっていくと思います。

Q. 日本や世界の教育界の課題をどうとらえてますか?

日本の教育は、まるでみんなを同じ形の箱に詰め込もうとしているように感じることがあります。人それぞれ違うのに、その違いをもっと尊重して伸ばしていく教育が必要だと思います。そして、世界では教育の格差や、性別や文化の壁がまだまだ大きな課題です。「どこに生まれたか」によって教育を受ける権利が変わってしまう現実を目の当たりにすると、とても悔しいです。この状況を変えるためにも、国や企業が力を合わせ教育の質と量の両方を世界中の子どもたちに届ける必要があると思います。

Q. 学校を作りたい、と仰ってますが、どんな学校を作りたいですか?

私が作りたい学校は、教科書の中だけではなく、実際の世界から学ぶ場所です。たとえば自然の中で学んだり、世界中の人々とオンラインで繋いでお互いから学びあったり。子どもたちが他と比較しなくてもいい「これが唯一無二の経験だ」「これが自分の人生だ」と誇れるような学びを提供したいです。心を開いて「違い」を楽しめる人が育つ場所にしたいですね。

 個々の違いを尊重できる教育へ


Q. 未来の教育の主な目的は何でしょうか?
未来の教育の目的は、テトリスのように答えを当てはめていく教育ではなく、問いを投げ、「その人らしさ」を引き出し、その人が自分の生きる意味を見つけられるようにすることだと思います。知識やスキルだけではなく、「私がここにいることに意味がある」と心から感じられる機会をヒューマンセントリックな教育が提供できれば、人生そのものが輝くと思います。

Q. 現在の教育システムは未来に適応できていきますか?

現状の日本の教育システムは、まだ「全員一緒」の型にはめようとしていると感じます。でも、未来の社会はもっと複雑で、正解も当たり前もなく、多様な価値観や生き方が求められるはずです。適応するためには、もっと柔軟で、一人ひとりの違いを尊重できる教育が必要です。それは怖い変化かもしれませんが、同時にとてもワクワクする挑戦だと思います。

Q. 教育が社会に果たすべき役割とは何でしょうか?

教育の役割は、「孤立」から「つながり」へと導くことだと思います。どんなに辛いことがあっても、「一人じゃない」と感じられる力を与えるもの。そして、自分の学びが誰かのためになると気づく瞬間、その人の生き方が大きく変わります。教育は、そうした瞬間を生み出すものだと思います。

Q. 教育を通じて社会全体の幸福は向上しますか??

教育を通じて「心の豊かさ」を学ぶことが、社会全体の幸福につながると思います。立場に関係なく、他者を思いやること、失敗しても笑い合えること、そして違う意見を尊重しながら協力すること。こうした価値観を教育の中で育めば、もっと優しく、温かい社会が作れるのではないでしょうか。

Q. グローバルな視点での教育とはどういうものか?

グローバルな教育とは、「違いを怖がらない」「地球は大きな一軒家」だということを教えるものだと思います。文化や言葉、考え方の違いに出会ったとき、それを避けるのではなく「おもしろい!」と思える力。それが世界を広げ、未来の課題を乗り越えるための鍵になると思います。

 2040年の未来、教育というフィールドは今とは全く違う景色になっている。


Q. 2025年開学予定の、教育テック大学院大学での学びは、今後どうあるべきでしょうか?(教育テック学)

2040年の未来を想像すると、教育というフィールドは今とは全く違う景色になっていると思います。テクノロジーに翻弄されているのではなく、テクノロジーが当たり前に私たちの生活を支え、学ぶ環境や方法が限りなく広がっている未来。その中で、このような教育テック大学院は、ただの「知識や技術」を教えるだけの場所ではなく、「教育の未来をデザインする人財」を育てる場所になっていてほしいです。(①~③のような学びが必要だと思います)

① テクノロジーを通して人間の可能性を広げる学び

AIやデータ解析のスキルはもちろん大事ですが、それだけでは教育の本当の力は発揮されないと思います。テクノロジーを「ツール」として、人が持つ共感力や創造性、コミュニケーション能力をどう引き出すのか。リアルな世界で、自分自身との対話や、人との繋がりがより重要になっていく社会になっていくからこそ、より人間しかできないことをテクノロジーを通じて模索していきたいです。

② 現場と未来を結ぶ橋をかける学び

テクノロジーがどれだけ進化しても、教育の現場には人間らしさが必要です。学校の先生や教育関係者が、この大学院を通じて未来の学びを現場にどう実装するか、その具体的な方法を見つけられるような「現場と理論を繋ぐ場所」であってほしい。特に2040年には、教室という物理的な空間を超えた「学びの場」が広がっているはずだからこそ、その橋渡しができる人財が求められると思います。

③「未来を作る想像力」を育む学び

2040年という未来は、私たちが想像する以上に速いスピードで変わっていくはずです。だからこそ、社会の変化に敏感で、それを先読みしながら自ら問いをたて、教育の新しい形を提案できる人財が必要になります。未来を「待つ」のではなく、「描きにいく力」を育てることが、この大学院の使命だと思います。


教育を通じて、何かを変えたい。

 

Q. 教育テック学は、どんな人が受けるべきか?学ぶべきか?お考えをお聞かせください。

この学びは、ただ「教育に興味がある」というだけではなく、「教育を通じて何かを変えたい」という情熱を持った方におすすめしたいです。

① 現場で変化を起こしたい人

たとえば、学校の先生や教育行政に関わる方。自分が現場で感じている課題をどうテクノロジーで解決できるか、その答えを探しにきてほしいです。今はまだできないことも、この学びを通じて「できる」に変えていく。そんな未来を信じる人にぴったりだと思います。

② 異分野から新しい風を持ち込みたい人

教育は決して「教育だけ」で成り立つものではありません。IT、経営、デザイン、心理学――どんな分野からでも「教育っておもしろそう」と思った人が、この学びに挑戦してほしいです。異分野から新しい風を吹き込むことで、教育がもっと豊かに、多様性に満ちたものになり、教育がより社会との繋がりを持てる気がしています。

教育には社会を変える力があります。貧困、ジェンダー平等、気候変動……どんな社会課題にも教育は関わっているからこそ、「教育を通じて世界を良くしたい」と思う方がこの大学院で学んでほしいです。その情熱があれば、どんな分野の方でも素晴らしい変革を起こせるはずです。


”どんな社会課題にも教育は関わっている”という言葉が印象的です。その思いが彼女を突き動かす原動力なんだと思います。”情熱こそが変革を起こせる”とは、まさに平原さん自身が体現してきたことだと思います。今後の彼女の活躍から目が離せません。
(取材者/編集部・鈴木)

写真提供:HI合同会社


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