教会巡り10: 中世古楽のクリスマス
先日、辻康介先生のソルミゼーションの講座にアルメニアの笛を吹く藤川星さんがゲストで来られた時に、クリスマスコンサートのチラシをいただいたので、クリスマスのミサの後、小金井市にある貫井南町キリスト教会に向かいました。
藤川さんは中村会子さん率いる中世古楽アンサンブルViatger (ビアッジェール)のメンバーで、打楽器奏者の久田祐三さんの3人で活動されています。この日のコンサートではイラン・ペルシャ打楽器奏者の蔡怜雄さんがゲストで参加されました。
前半はキリストの誕生を待ちわびる曲、後半はクリスマスを喜ぶプログラムとなっていました。「ユールの夜に横たわり」という曲は、マリアが赤ちゃんに「あなたはこうやって生まれてきたのよ」と語りかける曲で、1節ごとに男性3人がLullay, lullay, と子守唄を歌うのが心地よい。実はこの曲は37節もあり、この日演奏したのは前半のみ。後半は、マリアが「あなたが生まれた後のことはわからない」と赤ちゃんに言うと、今度は赤ちゃんが自分の未来を語るそうです(神殿で説教するとか、十字架の上で死ぬとか)。ぜひ全曲通して聞いてみたいと思いました。グレゴリオ聖歌の「Puer natus est nobis」は中村さんの素晴らしい独唱で(男性3人は声でドローンをしていた)、中世の歌手もきっとこういうふうに歌っていたのだろうと思いました。同じ曲を朝のミサの入祭唱で聴いたばかりだったので、とても興味深く感じました。
アルメニアの聖歌もあり、男性3人がアルメニア語で力強く歌っていました。藤川さんはコンサートでよく「アルメニアを知っていますか?」と質問するそうで、「知ってる」と言われるととてもうれしいそうです。アルメニアは300年ごろに世界で最初にキリスト教が国教になった国で、今回の曲は1200年くらいにできたそうですが、300年頃の聖歌はどんな感じだったのかな?ぜひその頃の曲も聞いてみたいです。そして、ドゥドゥクは日本の篳篥とほぼ同じ構造というのが興味深いです。世界の音楽のルーツはアルメニアにあったりするのかな?またお会いする機会があれば、そのあたりも聞いてみたいです。
久田さんはフレームドラムの工房を持っていて、今回持ってきたものもすべてご自身の手作り。蔡さんからの注文で鹿の皮を張ったタンバリンを作っていて、今回のコンサートの直前に完成し、初披露でした。ちなみにこの鹿の皮は、害獣駆除で捕獲した鹿のものだそうです。たくさんの鐘や、鳥の鳴き声のする楽器もありました。
蔡さんの楽器も珍しいものばかりで、サントゥール(打弦楽器)、トンバク(足が付いた盃みたいな小太鼓)、ドとソのように5度の響きが聞こえるように調節されている2つのドラムなどもありました。Viatgerのメンバーの奏でる音に蔡さんの楽器も歌も自然に溶け込んでいて、しかも打楽器2名でより華やかだったので、ぜひまた共演してほしいと思いました。
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最初に演奏したVeni veni Emmanuelは、冒頭は階名で歌うとラドミミレファミレド、となりますが、このファの部分が半音高く聞こえたので中村さんに聞いてみました。中世から歌われていた曲だけど、楽譜の形になったのはずっと後になってからで、中世で歌われた場合、この「ファ」はナチュラルとフラット両方の可能性があり、さらに調べて裏付けを取り、実際に歌い/演奏しながら試しているそうです。
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中世古楽は全く知識がなく、とりあえず「モンセラートの朱い本」「ビンデンのヒルデガルド聖歌」は有名だということは分かったので、YouTubeで聴いてみたところ、グレゴリオ聖歌とは全然違う雰囲気で驚きました。どんな感じの楽譜なのだろうと学校の資料室の杉本ゆり先生に尋ねたところ、パパっと楽譜を出してくださり、モンセラートについて先生が書かれた論文もくださいました。杉本先生が中世の音楽の専門家だったとはそのときまで知らなかったです!「中世の音楽に興味があるの?」と聞かれたので、「今度中村会子さんのコンサートに行くんですよ」と言うと、びっくりして「中村さんは私のもとで学ばれていたのよ」とおっしゃるのです。辻先生・藤川さん回りと杉本先生回りで中村さんとつながることに驚き、そして、とても不思議な感じがしました。
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11月にViatgerの1st CDをリリースしたそうです。アンコールでも演奏された聖母マリアのカンティガスの「Rosa das rosas e Fror das frores」が印象に残り、何度も聴き、ウェブから無料の楽譜をダウンロードして聴きながら歌っています。「おお、乙女マリア」というアラブのマリア賛歌(Ya Matyamoul Bikrou / Ya Mariam el Bekrという、レバノンのマロン派の聖歌・コプト聖歌)は藤川さんがダヴ・シュビで演奏していて、現代でもありそうなメロディーなので私もリコーダーで試してみましたが、なんか違う・・・これは藤川さんでないとだめですね・・・。そしてこのCDを聞くとぐっすり眠れます!
中村さんは中世音楽のワークショップもされているので、ぜひ参加していろいろお話したいです。自分の音楽ライフが大きく変わりそうな予感がしてワクワクしています!