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宮古島に響く“グランブルー”の物語

 宮古島。最初に訪れたとき、その青い海と開放感に驚かされた。島全体がどこかゆったりと時間を刻んでいるようで、観光客の私でさえ自然と肩の力が抜けていく。広い空と海に囲まれるだけで、日常から離れた穏やかな感覚を味わえる場所だ。


 私はこの島を二度訪れた。最初は2020年の秋、一人旅。そして二度目は2022年の新婚旅行。どうしても妻に見せたい場所があった。それはグランブルーギャマンというオーベルジュ(レストランと宿泊施設を兼ねた場所)だ。この島の飲食店を語るとき、筆頭に挙がるのは間違いなくここだろう。東京でもここまで完成度の高いレストランは数えるほどしかないのではないか。そう思わせるのには、理由がある。


一人旅で出会った“奇跡の店”

 一人旅で宮古島を訪れたとき、偶然目にした小さな手書きの看板を追いかけて辿り着いたのがグランブルーギャマンだった。

さとうきび畑の奥にぽつんと佇む真っ白な建物。日が暮れた畑道はすでに闇に包まれていたが、そのおかげで逆に幻想的な景色が広がっていた。

砂糖畑を歩く


入り口

 看板を見逃さなければ決してわからない“隠れ家”のようなその場所は、一見するとレストランには見えない洗練されたロビーを持ち、優雅な家具やスタッフのおもてなしが印象的だった。

 そこは食事だけを楽しむ場所ではなく、宿泊施設と一体になったオーベルジュでもあった。私はその夜、運よく予約が取れてフレンチのコースを堪能した。一品一品丁寧に選び抜かれた食材と、自由奔放な組み合わせを見事にまとめあげた料理。パンやバターまでもが特別で、シェフをはじめとするスタッフの熱意と暖かさが料理の隅々まで行き届いている。鉄板カウンターを囲みながら、スタッフと会話しつつ、しかし不思議なほど押し付けがましさはない。凛とした気品のなかに温かい人間味が漂う空間で、私はたちまち恋に落ちるように魅了された。


全ての品が上質だった

 2階のバーも素晴らしく、地元の人や移住者と気さくに交流できる雰囲気がある。そこで教えてもらったディープスポットの話に胸を踊らせながら、一人旅の私は、この店での経験が一生の思い出になるだろうと確信した。

宮古島の偶然見つけた場所で一人で酒を飲む、贅沢な時間だった

新婚旅行と再訪の理由

 それから2年が経ち、新婚旅行では、妻とふたりで宮古島を訪れた。新婚旅行の最後の晩餐にこの場所を選ばずして、どこへ行けばいいのか。そう思えるほど私にとって特別な店だった。

 車でさとうきび畑を通り抜ける道は、以前一人で歩いたときほど威圧感はなかった。季節の違いか、さとうきびがまだ伸び切っていなかったからだろう。夕日の柔らかなオレンジが差し込み、むしろあのときよりも穏やかで、美しさが際立っていた。

宮古島の夕陽は美しい
食事を前に、少し妻とさとうきび畑を散策

 店の扉を開けると、驚いたことにシェフを含むスタッフたちは私を憶えていてくれた。聞けば、客ごとにシリアルナンバーを振り分けて、「同じ料理を二度と出さない」ために管理しているという。自分自身のナンバーを告げられ、前日には“7777番”の客がいたという話を聞くと、遊び心満載の発想とこだわりに感動する。そしてこの店の名前「グランブルーギャマン」について、「映画『グラン・ブルー』との関係は?」と質問を投げかけてみると、シェフの木下さんの目がきらりと輝いた。


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