
リリイシュシュと私の軌跡~青春の最前列で叫んだ『天才!』
2001年、岩井俊二監督が世に送り出した『リリイ・シュシュのすべて』は、湿り気を帯びた日本の地方都市を舞台に、14歳の少年少女たちが秘める残酷さと純粋な憧憬を、光と音が溶け合う独自の美学で描き出した作品である。
映画の随所に漂う生々しく切実な思春期の痛み、ネット掲示板上の匿名の対話が生む儚い共鳴、そして隙間からこぼれ落ちるようなドビュッシーやリリイ・シュシュの音楽が観る者を酔わせる。その世界に一度身を浸してしまえば、呼吸を忘れ、まばたきを惜しむほどの没入感に誘われ、二度と戻れぬほど深く踏み入ってしまう。
今思い返せば、岩井俊二という存在は、あの時代の私たち若者にとって特別な輝きを放っていた。さらに彼が宮城県仙台市出身であったことは、地元の若者である私たちを熱狂させる強力な磁場となった。もちろん、私もその一人だった。
10代の自分を振り返ると、恋愛に溺れ、カルチャーに飢え、不安定な欲望を抱えていた多感な季節がよみがえる。中学時代に観た『スワロウテイル』で、CHARAの切ない表情と声に打ちのめされ、「いつかこの人と結婚したい」などという今では信じがたいほど純粋で荒唐無稽な夢を秘めていたことさえ懐かしい。
高校生になると、嗜好は移ろい、カルチャーは海外へと開かれ、洋画や洋楽を貪るように浴びる日々となった。それでもなお、CHARAを聴き続け、岩井映画への偏愛はますます深まりを見せる。男子校である仙台第二高等学校には奇妙なほど多様なオタク文化が渦巻き、エロゲーを押し付けられるなど、奇天烈な刺激に満ちていたが、そうしたカオスもまた、私が息づくカルチャー圏の豊穣な一部だった。
そんな混沌に彩られた高校生活の只中、『リリイ・シュシュのすべて』の公開初日が訪れ、岩井監督が仙台市内の小さな映画館で舞台挨拶を行うという報せは、18年ほどの人生における一大事件だった。友人が奇跡的に確保してくれた最前列で、私は仲間二人と並び、スクリーンが暗転するその瞬間を待ちわびた。
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