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EMANが堀田量子第3章を書いてみた

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 この記事は、堀田量子の第 3 章と同じ内容を「私ならこういう感じに書く」という試みです。これを読めば理論の見通しが良くなって堀田量子の教科書を読みやすくなるかもしれません。なるべく教科書に出てくるのと同じ数式を使うようにしていますが、式番号は教科書とは合わせてありません。また、教科書に載っている全ての話が入っているわけでもありません。少し情報量を下げてあります。文体は「EMANらしく」常体にしておきます。

 ではお楽しみください。

N次の行列に拡張したい

 第 2 章では二準位系で成り立つ理論をある程度まとめた。この章ではそれを拡張する形で$${ N }$$準位系の理論を構成することにしよう。結果として$${ N }$$準位系の理論になるのであって、初めから$${ N }$$準位系の理論を狙うわけではない。とは言うものの、第 2 章で 2 次の正方行列を使っていたものを$${ N }$$次の正方行列に拡張すればそうなるというのはだいたい想像が付いている。

 密度行列$${ \hat{\rho} }$$というのは対角和が 1 であるようなエルミート行列だった。この条件を保ったまま行列の次数を$${ N }$$にしたとき、その中には実数何個分の情報を詰め込むことが出来るだろうか?

 エルミート行列の対角成分は実数でなければならないので、まず$${ N }$$個ある。非対角成分は全体から対角成分を引いて$${ N^2 - N }$$個あるが、実部と虚部があるのでこの 2 倍の実数が使われる。しかし対角成分を挟んで対称な位置にある成分どうしは複素共役になっているからその半分、つまり$${ N^2 - N }$$である。合計すると$${ N^2 }$$個である。しかし対角和が 1 だという制限があるので、対角成分の最後の 1 個だけは他の成分によって自動的に決められてしまう。結局は$${ N^2 - 1 }$$個の実数を入れることが出来るということになる。

 第 2 章では$${ N=2 }$$だったので 3 個分のスピンの期待値の情報を入れることができたのである。

 第 2 章では$${ \sigma_i }$$という記号を使っていたが、この章ではスピンのイメージから離れるために$${ \lambda_i }$$という記号を使って議論することにしよう。特に何であるかを指定しない何らかの物理量を表す記号であってスピンもその中に含まれる。スピンを$${ x,y,z }$$軸のそれぞれの軸で測ったときの期待値を$${ \langle \sigma_i \rangle }$$と表していたように、何らかの物理量を何らかの異なる方法で測ったときの期待値を$${ \langle \lambda_i \rangle }$$と表すことにしよう。

 $${ \hat{\rho} }$$を$${ N }$$次に拡張すれば、それらの期待値は次のような定義によって$${ N^2 - 1 }$$個まで$${ \hat{\rho} }$$の中に詰め込むことが出来るはずである。

$$
\hat{\rho} \ =\ \frac{1}{N} \left( \hat{I} \ +\ \sum_{i=1}^{N^2-1} \langle \lambda_i \rangle \, \hat{\lambda}_i \right) \tag{1}
$$

 ただし、ここで次のような条件に従う$${ N^2-1 }$$種類の行列$${ \hat{\lambda}_i }$$を導入した。

$$
\hat{\lambda}^{\dagger}_i \ =\ \hat{\lambda}_i \tag{2}
$$

$$
\mathrm{Tr}\Big[ \hat{\lambda}_i \Big] \ =\ 0 \tag{3}
$$

$$
\mathrm{Tr}\Big[ \hat{\lambda}_i \, \hat{\lambda}_{j} \Big] \ =\ N \, \delta_{ij} \tag{4}
$$

 例えば$${ N=3 }$$の場合、これらは 8 種類もあるのである。残念ながら$${ N=2 }$$のパウリ行列のようなきれいな交換関係は成り立っていない。うまく選べばこのうちの幾つかの行列どうしがそれに似た関係を満たすようにすることもできるのだが、$${ N=2 }$$の場合とは違って必ずそうなるというわけではない。

 (1) ~ (4) 式のように定義すべき理由は第 2 章でほとんど説明してしまったが、念の為にざっと説明を繰り返そう。(1) 式の$${ \hat{I} }$$は$${ \hat{\rho} }$$の対角和を 1 にするために入っている。他の行列$${ \hat{\lambda}_i }$$の対角和は (3) 式によってどれも 0 だと制限してあるので$${ \hat{I} }$$を入れて調整するしかないのである。$${ \hat{I} }$$の対角和は$${ N }$$になるので、全体を$${ N }$$で割って調整している。(1) 式において全てを大きなカッコの中に入れているので、(4) 式の右辺に$${ N }$$を置くことで調整をしている。それは次のような単純な式でうまく期待値$${ \langle \lambda_i \rangle }$$の値を$${ \hat{\rho} }$$の中から取り出せるようにするためである。

$$
\langle \lambda_i \rangle \ =\ \mathrm{Tr}\Big[\hat{\rho}\hat{\lambda}_i\Big] \tag{5}
$$

 全てはこの式のために用意されたという感じである。

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