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電場や磁場に触れずとも感じる(11.2節の解説)

この節は「アハラノフ・ボーム効果」の説明になっています。頭文字を取って別名「AB効果」とも呼ばれます。第 11 章は様々な話題を詰め込んだ章です。どの節も粒子系についての基本的な話だという共通点はありますが、それぞれの関連性はほとんどありません。この章は節ごとに分けて短い解説を書いていきます。

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この節全体の解説

 まずはこの節を読み解く上での注意点を解説していきます。

 話の流れ自体はとても単純です。リング状にした細い導線の中にある、ひとつの電子について考えようとしています。この導線が作る円の中心付近にのみリングを貫く形で磁場が存在しており、このリング状の導線の通り道では磁場は 0 になっているという状況を仮定します。つまり、リングの中心軸付近に磁力線が密集していて、その磁力線はリングには少しも触れないというイメージです。このような仮定で具体的に解いてやると、中心付近を通る磁束の量に応じて電子のエネルギー準位の幅が変化することが導かれるというストーリーになっています。電子は磁場には少しも触れていないにも関わらずこのようなことが起きます。

 従来の教科書では、この中心軸の磁場の右側を通過した電子と左側を通過した電子との間に位相差が生じるという形で説明しています。これは実際に行われた検証実験の考え方を再現したものになっています。つまり、二重スリットの間に細いソレノイドコイルを置いて電流を流し、磁場がコイルの外部に漏れないようにしてやって、二つの経路上を同時に通る一つの電子に干渉を起こさせるというものです。経路上には一切の磁場が無かったにもかかわらず、磁場の強さに応じてスクリーン上の干渉模様が変化することが確かめられました。

参考図

 実際には無限に長いソレノイドコイルというものは作れないので少しだけ磁場が漏れてしまいますが、そのような批判を黙らせるために、超伝導体で周りを囲んだミクロサイズのリングを作成して実験が行われました。超電導状態になった物質は磁束を一切通さないため、磁場が外部に漏れることが無いからです。

 しかしこの教科書ではそのような形での説明を「敢えて」避けているようです。このような説明をすると、電子の持つ波動性や、波動関数の実在性がこの現象の本質であるかのような誤解を生じる可能性があるからです。ここではそのような概念を感じさせない形での説明が試みられており、こういうところにも著者の強い思想が現れており面白いところです。

 二重スリットを通過する手前の場所を起点として一方のスリットを通ってスクリーンへ向かい、そこからもう一方の経路を逆行して二重スリットの手前へと戻る一周のコースを考えると、磁場の周りを一周していることになりますから、この教科書で行っている磁場の周りを一周するリングと似た内容の話となります。

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