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「原価がほぼゼロだから儲かるよ」に騙されないために

「原価ゼロだから儲かる」と言われるサービス業は、一見夢のように思える。材料費がかからないなら、売上の大部分をまるまる利益にできそうだ、と期待する人も多い。たとえば整体院やコンサルティング、オンライン講座などで「仕入れコストがほぼない」と強調される場合がある。

しかし現実的には、人件費や販管費が重くのしかかり、組織化の段階で成長が頭打ちになるリスクも高い。ここでは、材料費だけを原価とみなす考え方の落とし穴を整理してみる。

「原価ほぼゼロだから儲かるよ」という甘い言葉に騙される前に、しっかり知識を身につけよう


「原価=材料費」という誤解

サービス業の原価が軽いといっても、それはあくまで「材料費が少ない」だけの話にすぎない。整体院ならタオルやジェルなど消耗品はあるが、製造業のように大きな仕入れが必要ないことは事実。コンサルやオンライン講座に至っては、ほぼパソコンさえあれば仕事が回るように見える。

ただし本当の意味で「コストゼロ」にはならない。スタッフを雇えば給与が必要だし、広告や販促を行うなら資金が要る。そして、会社経営で思いの外かかってしまうのがバックオフィスの費用だ。顧問税理士や事務員の人件費など、アウトソースしてもそれなりのコストはかかってしまう。おまけに営業利益が出ても最後には法人税や事業税で30%ほど持っていかれてしまう。

そうした費用を見落としたまま、「原価ゼロなら余裕で儲かる」と思ってしまうと痛い目に遭うかもしれない。

人を“仕入れる”という感覚

サービス業の多くは、人材そのものが「商品」になっている。整体なら施術者の腕前、コンサルならコンサルタントの経験やスキルが付加価値を生む。このスキルを持った人を採用し、研修し、離職されないように管理し続けるのは容易ではない。製造業のように商品を一度在庫にしておけば勝手に売れていくわけでもない。

人を“仕入れる”という表現は少し乱暴だが、実質的にそういう概念になるわけだ。そして人には継続的に給料を払わなければならないし、スキルを磨くための研修や教育が欠かせない。人間は在庫のようにストックしておくことができず、モチベーションやコンディションも日々変化する。退職リスクもあれば人間関係の問題もある。結果的に想定外のマネジメント負荷がかかり、事業が拡大するときに頭打ちになる事例は多い。

販管費が予想以上にかさむことも

原価という言葉が材料費に限られて語られることが多いが、実際の損益計算では販管費が大きなウェイトを占める可能性がある。たとえば整体院なら店舗の家賃や光熱費、広告宣伝費、各種備品の購入などが積み上がる。コンサルやオンライン講座であれば、マーケティングのためにウェブ広告を出すかもしれないし、セミナー会場を借りることもある。

材料費はほぼかからないのに、販管費だけで収益が圧迫されるケースは珍しくない。個人事業の延長で小規模にやっている間は問題ないが、少し拡大しようとすると「スタッフの人件費+広告費+オフィス賃料」で利益がごっそり削られることもあり得る。その分を価格転嫁できるかどうかは事業モデル次第なので、実際には「原価ゼロのはずなのにたいして儲からない」と嘆く経営者もいるわけだ。

拡大段階で組織化に苦戦すると頭打ちになる

もし最初は個人でサービスを提供するだけなら、確かに材料費も少なく、儲かりやすいかもしれない。しかし需要が増え、もっと売上を伸ばしたいと思うなら、人を雇って組織化する必要がある。ここでのハードルが高い。人を増やしても、同じ品質のサービスを提供するには教育コストがかかる。合わないスタッフが辞めれば採用し直しだし、管理コストも増える。年収500万円の人材を採用しようと思ったら100万円くらいは普通にかかってしまう。離職率を抑えつつ採用を拡大するのは素人が考えるよりよっぽど大変なことだ。

商品を仕入れておけば売れる小売や製造業とは違い、サービス業は継続的に人件費を支払いつつ、スタッフのモチベを保たなければならない。企業が拡大するほど、経営者のマネジメント負担が雪だるま式に増える。それゆえ「原価ゼロだから利益率抜群」と思って始めたビジネスが、拡大段階で急に難易度を上げ、思うように収益化できなくなることは多い。

結局、どちらが難しいかは一概に言えない

メーカーのように材料を仕入れて在庫を抱えるビジネスは、確かに仕入れリスクや在庫管理の手間が大きい。一方、人材を“主力商品”にするサービス業は、採用・教育・リテンションの難易度が高い。どちらが簡単でどちらが難しいかは、人によって異なる。

大事なのは「原価ゼロ = 圧倒的に有利」と単純視しないことだ。サービス業ならではのコスト構造や人の管理の手間、販管費の大きさを軽視すると、「全然思ったほど儲からない」とか「成長が止まった」という事態に陥りやすい。

まとめ:原価ゼロに飛びつく前に、トータルコストを見よう

「原価がほぼゼロだから儲かる」と言われると、魅力的に感じるかもしれない。しかしそれは材料費だけを見た表面的な言葉にすぎない。サービス業を本格的に伸ばすには、人材や販管費に相応のコストがかかり、組織化の壁もある。小さく回す分には高収益を出しやすい場合もあるが、拡大するほど「人を採用し続ける難しさ」「広告費などの販管費の負担」といった問題が浮上する。

原価とは何か、それは材料費だけの問題ではなく、ビジネスモデル全体を左右するコスト構造に目を向ける必要がある。もし「原価が軽いから月商の大半は利益になる」と言われたら、「人材費や販管費はどうするのか」「拡大時にスタッフをどう増やすのか」を必ず確認すべきだ。そこを無視して出店や事業拡大を進めれば、初期は上手くいっても後で頭打ちになるリスクが高い。

結局、「原価はほぼゼロだから儲かる」というセリフに安易に乗っかるのは危険だ。サービス業はサービス業なりのコストや難しさがある。それを踏まえたうえで、自分の強みを活かして人材管理や販管費に向き合えるなら、“材料費ゼロ”の恩恵を受けつつ成功できるかもしれない。だが、もしそこを軽視するなら、思わぬ落とし穴にはまる可能性を忘れないほうがいい。

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