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あいつが家の中にいる

「あいつ」とは
わたしの家の近所に住んでいる
迷惑な男だ


迷惑行為をこれまで何度も耳に入ってきた

初めてそれを知ったのは

実家に戻って来た
ある夜のこと


深夜みんなが寝静まっているときのこと

わたしは眠りの途中にいた

何やら声が聞こえてくる

それは夢かと思ったら

部屋の窓の外から聞こえていることに気づいた

なんだろう?と思い

耳を澄ませた

その声の主は「あいつ」
わたしが初めて「あいつ」を認識した出来事だった

あいつは隣のマンションの空き地(共有スペース)に生い茂る木の枝を切り落としているのだ


オノのようなもので
木の枝や幹に食い込むような“ガッ“という
音が聞こえる


そしてあいつは何やらブツブツ言っているのだ

そっと窓の隙間から
あいつのいる方を覗く

気づかれないように そっと


“オマエら早くどこかへ行け“
“この土地にこんなものを植えてるんじゃねぇ“
“〇〇人は出て行け“ (アジアの国)
“オレは紀尾井町で育ったおぼっちゃまで、帝王学を学んでいる“
“オレは一瞬で人を見抜く“
“〇〇組の幹部はよく知っているんだ“

とにかく支離滅裂なことを
よく通る声で叫び

“オレさまがすごいやつ“ということを一方的に話している


話している相手はどこにもいない

ただ木を切り倒すことをしながら
ブツブツ言っている


しかも、深夜1時にだ



怖くなって
わたしは警察に電話した



明かりをつけずに
スマホから聞こえてくる電話の相手に
今、家の外に男の人がいて
(当時はあいつが誰なのか?知らないからだ)
木を切り倒している
変な人だから
見回りに来て欲しいと伝えた


電話の相手の警察の人は
警察官が見回り(パトロール)に来たら
わたしに折り返し状況報告をしましょうか?と
伝えてきた

そんなことをされて
警察を呼んだことが知られたら嫌だし
相手(あいつ)がどんな人かも知らないので
怖いから
わたしはそれを断った

見回ってもらい
警察がその状況を把握してくれることが
安心になると思ったから




パトカーがしばらくするとやって来て
窓の外でパトカーの赤いライトが光っている


お巡りさんのひとりが


あいつに話かける

お巡りさん
「こんばんは。… ……」
やり取りの内容はよく聞き取れない
「なんでこんな時間に何をしているの?」



しばらくやり取りが続く


けれど
あいつがお巡りさんに
「わたしは〇〇警察署の署長の〇〇さんを知っている。だから… … …」

お巡りさんは
しばらくあいつと話して

サッと帰って行った

民事不介入ということなのか。。。
わたしが見回ってくれれば良いと言ったからかな。。


パトカーが去ったあとのあいつは

「おい!お前!コラ!
パトカー呼んだのお前だろ!」


「お前出てこい!」
とマンションの一室のドアに向かって怒鳴った

その怒鳴り声がまた響く

近所の人たちも飛び起きるくらいの
怒鳴り声だ
でもわたしは怖いから
窓のそばで耳だけを澄ませて様子を聞いている

怒り狂ったあいつは
さらにそのマンションの一室に向かって
罵声を浴びせる

「おい!ばかやろー!お前出てこい」

と、今度はその一室のドアをドンドン蹴る音がする

「オレを怒らせたのだから ただじゃおかないからな」



警察に電話したのはわたし

責められているマンションの人
(どんな人かは知らない)に
申し訳ない気持ちと

その人に危害が及ぶのではと
恐怖が襲ってきた



あいつにバレたら
ウチに来る。。。と。

その日を境に
あいつは
毎日のように

朝から木を切り倒しに来て
そしてそのマンションの人に罵声を浴びせ

昼になると帰り

また夜になるとやって来て
同じことをする


木が切り倒されるまで
それは繰り返された



わたしの中の恐怖が続く
あいつの声がどこかで聞こえると
どちらの方向から聞こえるのか?
じゃあ、あの道は通らず
遠回りだけどこの道から行こう

とか

いまだにあいつと鉢合わせしないように
遠回りして外出している


わたしはあいつの顔を知らない
ただ
後ろ姿やニアミスした経験から
どんな背格好で
どんな服装で
いるかを大体把握した


あいつは超派手なスキーウェアのような服を着て
キャップを被り
サングラスをして
おまけにネックウォーマーの様なもので
鼻から口を隠している
(季節は冬で、コロナ禍だったのでマスクを皆がしていた頃)

だからあいつの顔を知らない

ただ
耳に残るあいつのよく通る声だけは
敏感にキャッチするのである

わたしに警告するのだ
あいつがいるぞ!
逃げろ!
離れろ!



そんな恐怖の存在
あいつが
家の中にいて

父と話している
母はお茶まで出そうとしている



あいつがおかしなやつだということを
両親は気づかないのか?
それとも
本音を言えないのか

「ウチに来るな」と





「何で?ウチにあいつがいる?」
わたしの頭はパニックだ


この状況は何をみせているのか?
何に気づけと言っているのか?



わたしが年上の男性がキライなことと
深く関わっているのは間違いない


わたしのインナーチャイルドが叫んでいる
「こわいよ 助けて こわい」




わたしの中の闇との対話がはじまる





あいつがやっと帰って行った

もう2度と来るな









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