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ある「おバカタレント」を取材した時の話

僕は、いわゆる女性タレントにあまり興味がない。

周囲が、「モーニング娘なら、誰が一番かわいいか?」といった話をしていた中高生の頃から大人になるまで、出ている番組を見かけたら思わずチャンネルを止めてしまうような女性タレントは一人もいなかった。(強いて言うなら、世代的に広末涼子ぐらい)。

そんな僕が数年前から「自分はこの人のファンだな」と自認している女性タレントが一人いる。

その人は、いわゆる「おバカキャラ」として売り出されているタレントで、よくバラエティー番組などに出演している。明るくハキハキと話し、時々ピントの外れたことを言って、視聴者の優越感をくすぐる。それが多くの番組において、彼女に任せられている役割だ。

数年前、僕は仕事で彼女を取材したことがある。そして、その時の経験で大ファンになったのだ。

彼女はイメージ通り気持ちの良い人だった

その日、僕はとある企画のインタビュー取材で彼女の所属する事務所へと向かった。近くでカメラマンと待ち合わせ、約束の時間の少し前に事務所へ到着する。

外から中をのぞくとオフィスのロビースペースで彼女がスマホをいじっていた。周囲にマネージャーらしき人はいない。

目が合ったので、僕が挨拶をすると彼女は元気よく「こんにちわ!」と返してくれた。芸能人の中には裏表のある人間もあるというが、彼女はイメージ通り気持ちの良い対応をしてくれる人だった。芸能人を取材した経験など、ほとんどなかった僕は、彼女の挨拶でホッとしたことをよく覚えている。

彼女は、取材に適していると思われるスペースへと僕らを案内する。彼女に指示された場所で、僕らは準備を始める。スペースを確保するために机を移動し、カメラマンは機材を広げ始める。僕が簡単な趣旨説明をしているところに彼女のマネージャーがやってきた。時間通りだった。

僕らをたしなめるマネージャーに彼女は敢然といった

「困りますよ。勝手に始められちゃ」。マネージャーは僕らをそうたしなめた。

マネージャーの言うことはまったくの正論だ。彼の立場からしてみたら、そういうのが当たり前であることぐらいは、僕も理解できる。行きがかり上、女性タレントに言われるがままに準備を始めてしまったが、本来ならマネージャーとの名刺交換などを先に済ませるべきだ。本心から申し訳ないと思った僕が、「すいません」と頭を下げるべく、「すいっ」ぐらいまで口に出した時だった。

「私がいいって言ったの!」

普段、テレビの中で目にする「おバカキャラ」からは考えられないような鋭さと確固たる意志を感じる言い方だった。

彼女に僕らをかばうメリットはない。黙っていたとしても、僕は彼女を恨んだりすることはなかっただろう。むしろ、逆の立場だったら僕は黙っていたかもしれない。とりあえず、静観して帰り際に、「すいません、私のせいで怒られちゃいましたね」なんて一言をかければ、それで特に問題はなかった。

それでも僕らをかばってくれた彼女の対応は、僕の心を鷲づかみにした。このことがあって以来、僕は彼女の大ファンである。テレビに出ていれば、チャンネルを止めるし、その時周囲に友人がいたりすれば、このエピソードを語って聞かせている。

芸能界は浮き沈みの激しい、厳しい世界だという。数年でブラウン管から消えていくタレントも少なくない。そんな世界で彼女が長く生き残っている理由の一つに、僕が取材の時に感じたような「素晴らしい人間性」があるのだと思う。

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