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【随筆日記】ストリートビューで追う47都道府県思い出の場所《福島県》

福島県金山かねやま町玉梨とうふ茶屋

06福島県金山町

 だいぶ昔の話。中学時代の友人と泊まりがけで会津にドライブに行った。目的は何はなくても温泉だった。日中から温泉に入り、喜多方まで行ってラーメンを食べ、あてにしていた宿に電話を入れると今日は満室と断られてしまった。暢気なモノで現地で電話して宿を決めようと思っていたため予約など全くしていなかった。

 その後宿を探しては電話を入れるも、どこも断られてしまい宿無しの状態。最後に漸くかなり遠い場所に民宿が1軒見つかり、すっかり暗くなって雨まで降る中何処かもハッキリせぬままに宿へ。宿の名前は紅陽こうようと言い、そこは宿と言うよりは人の家だろうと思うような素朴さだった。居間のこたつに通されると一家と同じ目線でのなんとも素朴な料理が登場。それもやたらと豆腐が多かった。

 聞けば民宿の傍ら豆腐作りも行い、それも横浜の中学校が自然教室で豆腐作り体験をするのでその指定宿にもなっている。アルバムを見せてもらうとたしかに中学生らしき子どもに囲まれた写真や色紙などがたくさんあった。そんなわけで木綿、絹はもちろん、固める前のおぼろ豆腐、厚揚げや油揚げに到るまで豆腐で始まり豆腐で終わる本当の豆腐づくしの食事をし、近くの温泉まで雨の中車を走らせて行ってきた。

 

 福島県の奥会津にある金山町の野尻川沿いにはいくつかの温泉が点在する。その中でもえびすや旅館の近くにある玉梨温泉、玉梨温泉の川向かいにある八街はちまち温泉はどちらもとても原始的な温泉。しかも八街温泉にいたっては混浴だった。どちらも泉質は食塩泉で鉄気のかなり強いお湯だったのを覚えている。

 宿のお母さんは豆腐しかなくて申し訳なさそうにしていたのだが、この豆腐がただ者ではない事は僕も友人もその時に見抜いていた。と言うか誰もが気付くほどの豆腐離れした素晴らしいものだった。

 翌年のほぼ同じ頃、今度は宿を最初から指定して予約も入れて再度その宿を訪れた。徹底的な豆腐づくしの料理を期待したら、せっかくやって来るのでとお肉を用意してくれた。そんなおもてなしには感動しながらも、「去年泊まったときのお豆腐がとっても気に入ってまた来たんです。」と伝えた。一日の滞在中3度も温泉に入りに行き、すっかり楽しんで二年目を終えた。前の年と違ってお豆腐屋も始めたようで、手作りのお店がまだできかけの様子でもあった。店の中じっと佇んでいると真夜中のお豆腐屋さんという一面が楽しめた。柱時計がカチカチ鳴る中、板の間でひんやりとした空気を楽しみながら山から流れてくる湧き水の音に耳を傾けるそんな静寂な時間は泊まりに来た客でなければわからなかった。

 その翌年、翌々年も同じ時期にお豆腐目当てに民宿紅陽に泊まりに行き、連続5年通い続けた。奇数年は雨、偶数年は晴れ、2年目以降はバイクで行くようになっていた。お豆腐をたっぷり楽しみ、温泉につかってのんびりして帰る。毎年このイベントを楽しみにしていたのだが、ある年民宿紅陽は閉店してしまった。横浜の自然教室も当時会津から別の場所へと変わっていたようだ。かわりにお豆腐屋が有名になり始め「玉梨とうふ茶屋」という名前でお豆腐のみで営業をしていた。

 その後、玉梨とうふ茶屋は大ヒットし、首都圏からもお豆腐を買いに求める人が殺到し、注文販売も数ヶ月待ちになるほどの有名店になってしまったが、かつてここが民宿で食事はみんなが必死になって買い求めようとしているもののフルコースだというのを知っているのがちょっとだけ優越感にもなった。

 ストリートビューでもまだお店は確認できる。最後にこのお店を訪れたのは5年くらい前の雪の深い日の事だった。わんこを連れてきたらわんこも寒いから店の中に連れてきていいよと言われ、すっかりおもてなしを受けたのが最後だった。またいつかお豆腐を食べに行きたいものだ。でも本当なら民宿紅陽に泊まりたい。そして行くのであれば毎年同じ時期に行っていた頃、紅葉のとてもきれいな時期に行ってみたい。

 奥会津は11月中旬くらいまで紅葉が楽しめ、その季節に長雨が降る。雨はそのまま雪となり、紅葉の山はそのまま冬山になる。そんなギリギリの時期が一番良い季節だと思う■

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