【随筆日記】ストリートビューで追う47都道府県思い出の場所《山形県/47》
湯野浜温泉(鶴岡市)
十代の頃、湯野浜温泉に半月ほど滞在した。合宿教習で指定滞在先が湯野浜温泉のはずれにある民宿だったからだ。
和室の部屋はシェアだったが大きな部屋を2人でのびのび使わせてもらっていた。窓の外は海、本当に海の真っ正面だった。
合宿教習なので日中は教習所。日曜日は確か半ドン。教習所が終わるとバスで送り迎えもあり、なかなか楽しいメリハリのある生活だったと思う。
夜でも波穏やかで毎晩砂浜まで散歩に出ていた覚えもある。宿はボロだったが、食事は美味しかった。宿の婆さんの訛りがあまりにも凄くて何言っているのかもわからないくらいだった。後に平成になってその庄内弁に深くのめり込んで行くとはその頃の自分には想像もできなかった。
合宿教習とは雖も結構落第者もいて、落第で滞在が伸びても教習所の方でケアしていた。今の時代はどうなのかな。教習所でさっさと卒業させれば滞在費負担もしなくていいのに、馬鹿正直というか誠実というか、ズル手抜きは一切なかったな。
自分達の同期は8人ほどいて、自分も含めて大半は予定通りのスケジュールで通過したが、数人延滞になる者もいた。当然だが落第組はなんとなく寂しそうでもあった。と言うのも大抵は友人同士、複数で教習所に入所していたからだ。
教習所を卒業するとその日のうちにみんなは帰ってしまったが、僕は翌日の出発を選択して落第組と一緒に宿に戻った。その日の晩はちょっと寂しくも感じられた。夜になり日課にしていた散歩に出ると、首都圏ではほぼ絶滅したであろう鈴虫の声が当たり前のように響いてきた。
こんな日本の田舎に長期滞在できた事、今になってもありがたい事だったと思うし、その時の出会いには大いに感謝している。
ストリートビューを見ると湯野浜温泉も当時の面影をだいぶ失い、自分が滞在していた宿も見る影も無くなってしまった。今でも変わらないものは海だけになってしまった。でも海が変わらなければまたいつか行ってみたいものである⬛︎