節水の革命!DG TAKANOが切りひらく水資源の未来
記事を書くようになってから、よく観ている番組がある。
それが「カンブリア宮殿」。
課題解決のビジネスを展開した先駆者たちを紹介する番組だ。
常に未来を見据える彼らの思考は、読者の課題解決を考えるライターにとっても、大きな学びになる。
今回のゲストは、世界的に深刻な「水不足問題」に取り組む株式会社DG TAKANOの社長、高野雅彰氏。
節水の革命を起こしている彼の歩みを追った。
MAX 95%節水を実現する水道のノズル「Bubble90」
今回番組でまずとりあげられたのが、こちら。
2009年に『超モノづくり部品大賞』で大賞を受賞した「Bubble90」だ。
Bubble90は、水道の蛇口に付けるノズルである。
その節水効果は、最大95%というから驚きだ。
Bubble90には、以下の特徴がある。
水を細かい玉状に分散する
水の玉がマシンガンのように汚れに当たるため汚れを速く落とせる
汚れが速く落ちることで水の使用量が減り節水の効果につながる
大企業から中小企業へのターゲット変更
実は、Bubble90の販売当初、売れ行きは順調ではなかった。
LEDへの移行期と重なり、大企業は「水道代より電気代」に重きを置いていたのだ。
節水への意識も弱かった。
おそらく、日本は水不足問題が深刻ではなかったことも影響していたのだろう。
節水効果があらわれやすい飲食店
そこで、高野氏は戦略を変える。
まずは居酒屋やレストランなど、水を多く使う飲食業界をターゲットにした。
節水効果がわかりやすく節水への意識も高い。
さらに、決定権のある担当者にも近かった。
そこで提案したのが「2カ月無料でBubble90のノズルを使ってもらう」というもの。
採用してくれた店を訪れると、2カ月後の水道代はなんと1/3になっていた。
「全店このノズルに変えたい」
Bubble90の採用が決まった瞬間だった。
その後、飲食店をメインに口コミはどんどん広がり、国内大手レストランチェーン店でのシェアは80%にのぼる。
大企業の社長にプレゼン決行
Bubble90の良さを確信していた高野氏。
大企業の担当者にアプローチしてもなかなかいい反応をもらえなかった彼は、大胆な行動に出る。
とある社長の講演会後、直談判でBubble90のプレゼンをはじめたのだ。
企業の担当者には興味をもってもらえなかった節水への想い。
ダイレクトに社長へ届けると、その想いは見事に通じた。
日頃から未来を見据えて行動する企業のトップには、自分の想いが通じるのだとわかった。
自分が働きたいと思える会社づくり
高野氏の父親は長年町工場を経営していたが、大学生の高野氏は工場を継ぐのもサラリーマンになるのも嫌だった。
すると、こんな考えが湧く。
高野氏が注目したのは、課題を解決するビジネス。
日本のみならず世界が抱えている課題は何なのか、徹底的に調べあげた。
そうしてたどり着いたのが、世界が抱える水不足問題だった。
その想いが、彼を突き動かした。
参入していなかったものづくりの会社
高野氏が水不足問題にたどり着いた頃、その分野に参入していたのはほとんどが環境系の企業。
ものづくりの企業はまだ参入しておらず、だからこそ当時の技術は低いと感じた。
高野氏は確信する。
町工場を営む父親との強力なタッグで完成させた「脈動流」
長年金属加工に携わってきた父親は、高野氏の強力な助っ人になった。
さらに、工場には優れた機械もある。
髪の毛より細い0.002mmの穴を開けたり削ったりする加工を、これ1台でできる。
試作と研究を何度も重ね、完成したものの精度を極めた。
そして、他社が追随できないほどの完成度に仕上げたのが、Bubble90だ。
Bubble90から出る水は「脈動流」という。
トイレのウォシュレットにも使われているこの技術をあらわす言葉を、Bubble90の完成当時、高野氏は知らなかった。
Bubble90の完成後、社外の人から声をかけられて初めて、その言葉を知ることになる。
「これは脈動流といって、通常は電気を使わないと発生させられないものなんだよ」
父親が長年培った経験と技術、そして高野氏のデザイン力という強力なタッグが生み出した奇跡だった。
使う水の量を削減するための徹底したこだわり
高野氏の徹底した節水へのこだわりから生み出された商品は、Bubble90だけではない。
使う水の量を抑える節水には、洗浄力も必要だ。
洗剤いらずの魔法のお皿を生み出した「メリオールデザイン」独自の加工
DG TAKANO独自のナノテクノロジー技術がほどこされた「メリオールデザイン」。
汚れとお皿の間に水を入り込みやすくし、汚れを浮かして流れるようにする技術だ。
カンブリア宮殿の番組内でも実践されていたが、水を流しただけでお皿に垂らしたラー油が落ちるまでわずか数秒。
普段から食器を洗っている人なら、メリオールデザインの節水効果をすぐに実感できるはずだ。
(すすぐだけで落ちるラー油の動画はこちらから)
魔法のお皿と同じ効果をお気に入りのお皿でも
メリオールデザインに施された技術を、シート状にしたものも販売した。
お気に入りのお皿をこれで拭いて乾かすと、魔法のお皿と同じ効果が1~2カ月続くという。
「売りたい」ではなく「課題解決」
「シートを販売したら魔法のお皿が売れなくなるのでは?」と心配の声もあるが、高野氏はこう答える。
もっと上流にあるべき「デザイン」
DG TAKANOは水不足の問題に取り組むデザイン会社である。
「デザイン」というと日本では見た目がメインと考えがちだが、高野氏は次のように指摘する。
課題を分析し、デザイン力によって課題を解決するコンセプトが生まれる。
実際にどんな技術を使えばそのコンセプトが実現可能になるのかを考え、技術を生み出し製品化される。
その流れを考えると、デザインが上流にあるべき、というのも納得だ。
水の再利用100%をめざす循環システム
高野氏は今、水不足問題が深刻な海外の地域へビジネスを展開している。
多くの信仰者が身を清める際に水を使うことからモスクへ足を運んだり、サウジアラビアでは政府とタッグを組んで、水の循環システムを進めたりと多忙だ。
水の循環システムでは、家庭から出たゴミや排水を化学薬品を使用せず、バイオタンクで分解。
栄養素はすべて肥料になり、地域の農業で活用される。
農業で収穫された農作物は家庭へという、壮大な循環の仕組みだ。
水の再利用100%
フードロスゼロ
インパクトは大きい。
そして、その循環の中にわれわれの生活の場があり、未来がある。
100%循環システムに使われるのは新しい技術だが、実は日本で埋もれていた技術の一部でもある。
埋もれた技術に目を向け、組み合わせることで新しい技術を生み出す。
それもまた、高野氏のデザイン力によるものだ。
卓越したデザイン力によって新しい技術を生み出し、地球規模の課題解決へと歩みをすすめる高野氏。
その目は、私たちのはるか先を見据えている。
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